第19話 まぼろしの家族
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知らない人にはついていってはいけません。
小さな子どもだった頃、誰もが大人に言い聞かされていたことがあるはずの言葉。
私も何度も何度もお母さんにそう言い聞かされていた。
その言いつけを、幼い私は従順に守っていた。
そもそも、知らない人が私を連れ出そうと声を掛けてくることがなかったけれど。
だけど、あの日。
『気になる?この傷が』
そう声を掛けられて、私は思わず反応してしまった。
あれは、確か図書館にいた時だったと思う。
お母さんが買い物をしている間、私はひとり図書館で待っていた。
椅子に座って絵本を読んでいたら、私の隣の席にとある人が座った。
ふと顔を上げてその人の顔を見ると、真っ先にその人の額を横に走る傷跡が目に飛び込んでいた。
その傷跡の生々しさに衝撃を受けて思わずしげしげと見ていたら、その人が私の視線に気が付いてこちらを振り向いた。
視線がぶつかって、私はギクリとした。
怒られる。
そう思ったのに、その人はにこりと私に笑いかけて、
「気になる?この傷が」
と、声を掛けてきたのだ。
戸惑う私に、その人は優しい声で話を続けた。
額の傷は、昔大怪我をした時に受けた手術の痕だと言う。
「何の本を読んでるの?」
と、話題を変えるようにその人は言った。
その優しい声と柔らかい物腰に、私の警戒心は次第に緩んでいった。
言いつけが脳裏を過ぎったけれど、どこかについて行くわけでもないし、話すだけなら・・・と、その時の私は思った。
お母さんを待っていること、もうすぐ小学生になること、ランドセルを買ってもらったこと、ランドセルはラベンダー色なこと・・・そんなたわいのない話をした。
そんなことは覚えているのに、不思議とその人の顔は思い出せない。
男だったのか女だったのか、若かったのか年を取っていたのか、そんなことさえも。
それから間もなく、買い物を終えたお母さんが迎えに来た。
「いい子だね」
と、その人は私の頭を撫でると、席を立ちその場から去っていった。
ーーーそんな何気ない一日から、私たち家族の運命が大きく変わることになった。
その夜、私は高熱を出してそのまま昏睡状態に陥ったのだ。
糠田が森から東京へ戻った後、私は自分のアパートに帰り、ある作業に没頭していた。
小麦粉を水で混ぜて丸めて蒸しただけの物を五つほどテーブルの上に並べる。
そのひとつを手に取り、私は目を閉じ集中する。
『『明埜之舞降鶴之御砡 』は、いわば退魔の力そのもの。術式によって造り出されたものだ。術式名は・・・そうだな、『造砡包呪呪術』とでも呼ぼうかな』
そう五条さんは言ってた。
当然、私は『造砡包呪呪術』など使うことが出来ないので、こうして先に媒体となる饅頭を先に作って、それに呪力を込めようという考えだ。
「・・・・・・」
媒体に呪力を込める前に、まず反転術式。
呪力と呪力を掛け合わせて、正の力を練り上げる。
その際、私はいつも自分の負の感情の核を心に意識する。
お父さんが糠田が森を去ってから、私の心に空いた穴。
それが、核だ。
だけど。
「・・・・・・?」
反転術式が出来ない。
(も、もう一度・・・)
何度も何度も試みるけれど、正の力は発動しない。
(どうして?)
焦る気持ちでイライラしていたら、
「わぁ!?」
媒体の饅頭にただの呪力が流れ込んで、突然爆発した。
饅頭の破片が私の顔や髪ににべったりと張り付く。
「うぅ・・・」
と唸りながら、顔や髪についた饅頭の破片を取り除いている時だった。
「あーぁ。なーにやってんの」
と、背後から五条さんの声が聞こえてきた。
小さな子どもだった頃、誰もが大人に言い聞かされていたことがあるはずの言葉。
私も何度も何度もお母さんにそう言い聞かされていた。
その言いつけを、幼い私は従順に守っていた。
そもそも、知らない人が私を連れ出そうと声を掛けてくることがなかったけれど。
だけど、あの日。
『気になる?この傷が』
そう声を掛けられて、私は思わず反応してしまった。
あれは、確か図書館にいた時だったと思う。
お母さんが買い物をしている間、私はひとり図書館で待っていた。
椅子に座って絵本を読んでいたら、私の隣の席にとある人が座った。
ふと顔を上げてその人の顔を見ると、真っ先にその人の額を横に走る傷跡が目に飛び込んでいた。
その傷跡の生々しさに衝撃を受けて思わずしげしげと見ていたら、その人が私の視線に気が付いてこちらを振り向いた。
視線がぶつかって、私はギクリとした。
怒られる。
そう思ったのに、その人はにこりと私に笑いかけて、
「気になる?この傷が」
と、声を掛けてきたのだ。
戸惑う私に、その人は優しい声で話を続けた。
額の傷は、昔大怪我をした時に受けた手術の痕だと言う。
「何の本を読んでるの?」
と、話題を変えるようにその人は言った。
その優しい声と柔らかい物腰に、私の警戒心は次第に緩んでいった。
言いつけが脳裏を過ぎったけれど、どこかについて行くわけでもないし、話すだけなら・・・と、その時の私は思った。
お母さんを待っていること、もうすぐ小学生になること、ランドセルを買ってもらったこと、ランドセルはラベンダー色なこと・・・そんなたわいのない話をした。
そんなことは覚えているのに、不思議とその人の顔は思い出せない。
男だったのか女だったのか、若かったのか年を取っていたのか、そんなことさえも。
それから間もなく、買い物を終えたお母さんが迎えに来た。
「いい子だね」
と、その人は私の頭を撫でると、席を立ちその場から去っていった。
ーーーそんな何気ない一日から、私たち家族の運命が大きく変わることになった。
その夜、私は高熱を出してそのまま昏睡状態に陥ったのだ。
糠田が森から東京へ戻った後、私は自分のアパートに帰り、ある作業に没頭していた。
小麦粉を水で混ぜて丸めて蒸しただけの物を五つほどテーブルの上に並べる。
そのひとつを手に取り、私は目を閉じ集中する。
『『
そう五条さんは言ってた。
当然、私は『造砡包呪呪術』など使うことが出来ないので、こうして先に媒体となる饅頭を先に作って、それに呪力を込めようという考えだ。
「・・・・・・」
媒体に呪力を込める前に、まず反転術式。
呪力と呪力を掛け合わせて、正の力を練り上げる。
その際、私はいつも自分の負の感情の核を心に意識する。
お父さんが糠田が森を去ってから、私の心に空いた穴。
それが、核だ。
だけど。
「・・・・・・?」
反転術式が出来ない。
(も、もう一度・・・)
何度も何度も試みるけれど、正の力は発動しない。
(どうして?)
焦る気持ちでイライラしていたら、
「わぁ!?」
媒体の饅頭にただの呪力が流れ込んで、突然爆発した。
饅頭の破片が私の顔や髪ににべったりと張り付く。
「うぅ・・・」
と唸りながら、顔や髪についた饅頭の破片を取り除いている時だった。
「あーぁ。なーにやってんの」
と、背後から五条さんの声が聞こえてきた。
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