第17話 恋する呪霊
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初めて会った時からわかった。
この人は、私とは違う世界に住む人なんだって。
「こちらの物件は、大家さんが入居者が入れ替わるたびにフルリノベーションされるのでまるで新築のように綺麗でしょう?都心から遠いというデメリットはありますが、治安環境は抜群で女性の一人暮らしの方にはイチオシの物件で・・・」
「ここにします」
不動産屋さんが言い終わらぬうちに、私は返事した。
すると不動産屋は戸惑うように目を瞬かせた。
「え、あ、ありがとうございます。でも、いいんですか?まだここは一軒目ですが・・・」
「いいんです」
私はもう一度言った。
「ここにします」
引っ越すことにした。
電車とバスを乗り継ぎ、『露鈴神社前』というバス停が最寄りの二階建てアパートの一室にだ。
聞けば入居しているのは、ほとんどが一人暮らしの女性らしい。
東京らしからぬ静かで木々の緑も多くて、どこか下町情緒が感じられる周辺環境も気に入った。
だけど、本当はそんなことにこだわりはなかった。
ただ、今住んでいる五条さんのマンションから離れたかった。
「え、なんで?」
マンションを引っ越すということを告げると、五条さんはキョトンとしてそう言った。
「なんでって・・・」
私はモゾモゾと言い淀みながらも、それらしい理由を述べた。
「東京の暮らしにも慣れてきたし、いつまでも五条さんのお世話になるのも申し訳なくて」
「僕は和紗にここに居続けてもらってかまわないんだけど?別にお世話してるつもりもないしね」
「でも、もうアパートも契約してきたので・・・」
「え、マジで?」
と、五条さんはさっきからずっともたれかかっていたソファから身体をガバッと起こした。
「一体どうしたの。そんな急に・・・」
「・・・・・・」
五条さんが好きだから。
これ以上そばにいて、思いが深まっていくのが怖いから。
「・・・好きな人が出来たんです」
だって、五条さんは私と違う世界の人だから。
「その人と付き合うことになったんです。彼に男の人のとこで居候になってるなんて知られたらマズイと思って・・・」
私が渾身の嘘を言い終えると、五条さんはポカンと口を開けたまま黙り込んでしまった。
だけどすぐに、
「はい、それウッソ〜」
と、陽気な調子で言った。
あっさり見破られて私は動揺しつつも、取り繕う。
「う、ウソじゃないです!ホントです!」
「いーや、ウソだね。和紗、ウソつく時にクセがあるもん」
「クセ・・・?」
すると五条さんは立ち上がって私の目の前に立った。そして、
「ウソつく時、唇をムーっと突き出すクセ」
と、人差し指で私の唇をピンっと弾くように触れた。
「ぶっ?!」
それで私は初めて自分にそんなクセがあることを知った。
「理由はなんであれ、ここを出てどうすんの?呪術の修行は?」
「それは・・・時々修行つけてもらえたら」
五条さんの指摘に私は答える。
「でも、私も『反転術式』のコツも少しずつつかめてきたし。もう五条さんにそんなに教わることもないのかなって」
「教わることがない?」
五条さんは怪訝そうに言った。
「和紗、それ本気でそう思ってる?本気なら相当勘違いしてるよ」
「え」
「僕が和紗に最初に出した課題って何だったか覚えてない?」
「え、えっと・・・」
「サトルに呪力を込めて動かせるようにする。そうだったよね?」
「・・・・・・」
そ、そういえばそうだった。
「和紗はサトルに、モノに呪力を込めるのって出来るっけ?」
「・・・えーっと」
「出来ないよねぇ〜?」
と、五条さんはしたり顔で笑みを浮かべた。
「『あけづる』を創るうえで、『反転術式』の習得は必須だけど、モノに呪力を込めることも重要な技能だからねぇ」
「・・・・・・」
「あと、和紗って『反転術式』使うとすぐバテバテになるでしょ?そんな調子で『あけづる』何個創れると思ってる?」
「・・・・・・」
「和紗は自分が一人前になったと思ってるみたいだけど、僕に言わせればまだまだだからね。独り立ちは時期尚早だよ。ってなワケで、アパートは解約してきなさいっ」
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