第12話 回想、糠田が森
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『最期ぐらい呪いの言葉を吐けよ』
そう言って、アイツは死んだ。
・・・いや、殺した。
俺が、この手で。
「なぁんにも味がしない」
チョコレートを口いっぱいに頬張り、舌の上で転がすものの、まったく味がわからない。
もともと薄かった食への関心が『あの日』以来ますます薄れ、ろくに食べずにいたら味覚がどんどん鈍り衰えていった。
甘いものだけは頭を回すために口にしていたものの、ついには甘味さえ感じなくなってしまったようだ。
(甘いものなら大丈夫って思ったのにな)
甘さを感じないチョコなんて、ドロドロのヘドロみたいで不愉快でしかない。
気持ち悪くなって手洗い場に駆け込んで、洗面所で吐き出し水に流した。
「・・・・・・」
鏡に映った自分の顔を見る。
『反転術式』で常に脳が新鮮な状態だからか、思ったより顔色は悪くない。
(でも、このままじゃさすがにヤバイよなぁ)
無理矢理でも何か口に入れなきゃ。
例え、なんの味覚がしなくても。
「一粒1300円の最高級チョコだよ?これがダメならどうすりゃいいのよ」
そう独り言ちて、洗面所を後にした。
2017年12月29日。
気分転換に買い物に来たデパートは、年末ということもあって多くの買い物客で賑わっている。
さっき立ち寄った高級ショコラティエがあるデパ地下も、年越しのためのご馳走を買い求める客であふれかえっていた。
あてもなくエスカレーターでどんどん階を上がっていくと、催事場に行きついた。
催事場には、『北陸大名産品展』と書かれた看板や上りがでかでかと飾られていた。
(北陸かぁ。福井、新潟、富山、石川だったっけ?北陸っていったら、カニだよなぁ。温泉に入って、カニ尽くしの料理・・・。うん、いいな。有給取って、北陸旅行に行くか)
温泉にでも入れば、この最悪な
そんなことを考えながら、ふらりと催事場に立ち寄った。
越前ガニ、かぶら寿司、能登丼、富山ブラックラーメン、ノドグロ・・・北陸名物の名だたる有名店が並び、それぞれのブースに長蛇の列が出来ている。
さっき立ち寄ったデパ地下以上に賑わっている盛況ぶりだ。
(さて、どこから攻めていこうかね)
品定めとばかりに辺りを見回していると、会場の賑わいから少しあぶれてしまったような片隅にある店に目が留まった。
『菓匠つるぎ庵』
その名の通り和菓子店だ。
他がテレビや雑誌で耳にしたり目にしたりしたことがある店ばかりなのに、この『つるぎ庵』は今初めて知った。
他の店が海鮮丼とかラーメンといった客受けが良い商品を全面的に売り出しているのに対して、『つるぎ庵』の看板商品はなんてことない饅頭がひとつ。
おまけに、
「いらっしゃいませー。こちらは石川県にある『菓匠つるぎ庵』でございます。県外では初出店でございます。是非お立ち寄りください」
と呼び込みしているのが、可愛い売り子じゃなくてスーツ姿の中年のオッサンだし。
「『菓匠つるぎ庵』の名物は、一子相伝、門外不出の技で当主ひとりの手で造り出す『あけづる』という饅頭でございます。こちらの『あけづる』、食べるとご利益があると近年SNSで話題となっている商品です。是非ご賞味くださーい」
そう言われて見てみれば、普段饅頭なんて食べそうにない学生くらいの若年層がスマホ片手に店先に並んでいる。
そして、買った『あけづる』とやらを撮影している。SNSにアップするつもりなのだろう。
「・・・・・・」
興味をひかれて、『つるぎ庵』の列に並んだ。
すぐに順番はやって来て、その『あけづる』をすぐに買うことができた。
「申し訳ないのですが、『あけづる』は数量限定品のためおひとり様につきひとつの販売とさせてもらっています」
と言うことなので、買えたのはたった一個だけだったけど。
(ずいぶん勿体つけた売り方だな)
その場で『あけづる』の入った小さな箱を開ける。
白い皮に鶴の焼き印が施されたなんてことない普通の饅頭。
(何でこんな饅頭が)
だけど、その訳をすぐに理解した。
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