第10話 こほろ坂通り

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「・・・よし」

蒸し器の蓋を開けると、ホカホカの湯気がフワッと立ち上って、一瞬視界が真っ白になった。
蒸し器の中には、真っ白な饅頭が六つほどひしめき合っている。

「熱っ」

そのひとつひとつを丁寧に取り上げて、足つき網の上にのせて並べる。
それから、コンロの火で炙った焼き印をその真っ白な生地に押し当てる。

焼き付けられた、鶴の模様。
『あけづる』の完成だ。

「いただきます」

粗熱が取れてから、私は『あけづる』のひとつを試食した。
モッモッモッと数回咀嚼して、すぐに理解した。

「・・・ダメ。全然違う」

味も食感も、何もかもがおじいちゃんが作った『あけづる』とは違う。
食べかけを置いて、私はウーンと唸る。

「どこがどう違うんだろう」

と、言いながら本当はわかってる。

生地を練る時の指使い、力加減、水の差し方、何もかもがおじいちゃんのとは違うんだ。

「・・・おじいちゃんは、どうやってたんだろう」

私はおじいちゃんが『あけづる』を作る姿を思い返していた。

私は、おじいちゃんから『あけづる』の作り方を教わったことがない。
もちろん、私が『あけづる』を相伝される技量がまだないということもあっただろうけれど。
元々、おじいちゃんが昔気質の職人らしく、「技は目で盗め」というタイプの人だったからだ。

おじいちゃんがいない今、私には記憶の中のおじいちゃんが『あけづる』を作る姿を思い返して、それを見よう見まねしながら試行錯誤する術しかない。

「・・・はぁ」

私はひとつ深く溜息を吐いて、食べかけの『あけづる』を頬張った。
そして、残りの『あけづる』をしげしげと見つめる。

「そしてなにより、これにどうやって呪力を込めたらいいんだろう?」

そう、それも大きな課題だ。

糠田が森の土地の呪いから、村の人々を守るための呪物としての『あけづる』。
そのために、私は『反転術式』も体得しなければならない。

今のところ、『反転術式』の成功例は二回。

一回目は、ラヴロックスポートランド(第7話)にて、伏黒君にかけられた呪いを解いたこと(五条さん曰く、これは毒消しみたいなものらしい)。
二回目は、みなづき駅(第9話)にて、呪霊の攻撃で重傷を負った私は、自己治癒で怪我を治したこと。

どちらも追い込まれてから出来たことで、意図的に出来たことじゃない。

先は長い。

「・・・はぁ」

と、私は二回目の溜息を吐いた。
そして、片付けをしようと立ちあがった時だった。


ピンポーン


インターホンが鳴って、私は玄関の方に向かおうとしたところでふと立ち止まった。

「そうだ。まずは、モニターで確認っと」

糠田が森ド田舎で長年暮らしていた習性で、ついつい相手を確認しないままドアを開けようとしてしまう。


「都会は色々物騒だからねー。まずはモニターで相手を確認!」


と、先日五条さんにたしなめられたのだ。
私は五条さんの言葉に従い、モニターで相手を確認した。

見知らぬ男の子がひとり、立っている。
パーカー姿で、薄茶色の毛先がツンツンとした短髪で、髪と同じ薄茶色の三白眼をズイッとモニターに近づけて、こちらを伺っている。

その近さにたじろぎながらも、

「どちらさまですか?」

と、私はその男の子に問いかけた。
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