筆記試験を終えて、実技試験の演習場に私達は移動する。

友達同士での協力をさせないためか、受験番号が連番にも関わらずそれぞれ違う会場での試験になった。
勝己が出久の会場と違う事を知って舌打ちしていた、他人への妨害行為も違反だと思うよ。




『広っ……。』


多くのビルが建ち並ぶ、オフィス街のようなその場所に目を丸くさせる。


え、こんな敷地がいくつも雄英の中にあるの？

お金どこから出てるの。さすが国立校、レベルが違うどころの話じゃ無い。


個性も服装も豊かな受験生達もこれにはザワついてるようだ。



「………おい、あれバクゴーの彼女じゃね？」

「マジか、うわぁツイてねー……。」



…………………。



違った。ハードル上げられてるだけだった。

ヒソヒソと聞こえる話にため息が出る。


勝己め、後でぶん殴ってやる。




「なぁなぁ！」


拳を固めていたら急に話しかけられた。


振り向くと黄色い髪に黒メッシュの入った男の子。


そして、




「お前さ、バクゴーの彼女ってマジ？」



地雷を思い切り踏みやがった。



『合否通知見る前に死に目見たい？』

「え!?いやいや、俺はフツーに気になっただけ！周りがなんかそう言ってるし！」

私の拳を見るなり慌てて彼は否定した。

『………幼馴染みなの。手を繋いでたのは私がよく道に迷うからそうなっただけで、深い意味は無い。』

「へぇー………彼女じゃねぇならさ、受験終わったらメシ行かね？」


は？


『……なんで？』

「だって可愛いし！一緒にメシ食いに行きてぇなーって。あ、俺は上鳴電気！」


清々しいくらいの笑顔でナンパなの上鳴くん。なんだコイツは。

『受験来てナンパとか妨害目的？やっぱ一回死に目見とく？』

「や、待てって冗談!!それより名前教えてくれね？」

『……私は───』


自分の名前を答えようとしたその時。








《「ハイ、スタート!!」》




不意に、実技試験の説明をしていたプロヒーローの声が聞こえた。


「え？」

「ん……？」


呆気にとられる受験生の中、


「なぁ今の────ってオイ!?」


上鳴くんの呼びかけを聞かず、私は走り出していた。






その後からさらに響く声。

《「どうしたぁ!?実践じゃカウントなんてねぇんだよ、走れ走れ!!」》



遅れて後方が騒がしく走り出す。






私が瞬時に動き出せたのは相澤さんのおかげだ。


現場ではスタートの合図なんて無い、すぐに行動を起こせと教え込まれた。

故に、条件反射かのように走り出せたのだ。






時間はわずか10分。




必ず、クリアしてみせる。