はじめのキッス〈前編〉

~スマブラ館マリオの部屋~

ガチャ

扉を開け入ると、まず目に入ったのは机に突っ伏しているマリオの姿だった。

俺はパタンと扉を閉め近寄ってみると、やはりと言うべきか、彼はペンを握りながら力尽きたように眠っていたのだった。


(さて、どうしたものか…)


ここで問題になるのが、起こした方がいいか否かということ。

フォックスに頼まれた手前、彼を起こし書類を渡すのが妥当だろう。

だがしかし…

彼の横に鎮座しているのが書類や資料の束であり、これを全て束ねたら辞書程の厚さになる程の量だ。

これは、1人で裁くには大変であろう。
暫しの間だけ眠らせてあげてもいいのではないか…?

そんな考えがめぐり、暫く考え込む。

ふと、彼の寝顔を見るとあの時の、2人で話した時のあの笑顔が頭の中をよぎった。


俺に笑いかけてくれた、あの可愛らしい笑顔。


マリオにはあの笑顔でいてほしいのに、こんなになるまで仕事をして…。
彼の笑顔を守りたいと思っていたのに。
彼がこんなにも一人で背負い込む必要があるのだろうか…。

やっぱり、周りの奴等…少なくとも俺にも仕事を回してくれたっていいのに。

だが、実際には仕事を回してくれない。

やはり俺は、彼にとって頼りになるとは思われていないのだな。

そんな切なさや憤りのような思いがぐるぐると頭の中を巡って考えている内に、彼に対して何か悪戯をしてみたいと思った。

ちょっとした憂さ晴らしだ。


そう決めた俺は徐ろに、マリオの顔へ自らの顔を近づけた。

そして、彼の丸い鼻へ…


チュ…


まるで小さい子どもにするように、仄暗い気持ちを慈愛に隠すように、小さく優しい口づけをした。

「…///」


柄にもないことをしてしまったものだ。
顔がみるみる内に熱をもつのが分かった。

こんな顔をマリオに見られるのは嫌なので俺はすぐさま彼の部屋を後にしたのだった。


バタン


俺は自室に戻りベッドに腰掛け、まだ熱が取れない顔を手で覆った。

胸もドキドキと五月蝿い位高鳴っている。

浮かんでくるのは、あの時の彼の笑顔と、つい先程まで見ていた彼の寝顔。


…あぁ、何故あんな事をしてしまったのか。

今でもこんなに彼を意識してしまうのだったらやらなければ良かったと思う。


この胸の高鳴りは暫く収まりはしなかった。



おわり


次、あとがきとおまけ
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