エリリン

バタン


用事でもない用事を済ませたボクは彼の部屋を後にする事にした。扉を閉めた時彼が何か言っていたような気がしたけど…まぁ、いいか。

…まぁ、そんなことより…

「ウフフー、中々使えそうな駒だね。」

ボクは思わず溢れでる笑みを手で隠す。誰も見ている訳ないけどね。

でも…ムフフ…やっと見つけたよ…!

ボクの最高のショーの為には欠かせない最高のダンサー!
彼ならきっとボクの為に踊ってくれる筈さ!

だが、ボクの掌の上で踊ってくれる為にはまだまだステージが整っていない。

まずは…アレを完成させなくては…。

「ムフフフフ…」

これから忙しくなる。

ボクはこれからのことを思案しながらルンルン気分でこの場を後にしたのだった。


ガン!!

「くそっ!ナメやがって!なんだよあの舐め腐った喋り方!なんだよエリリンって!くっそー!!」

やっと取り戻した静寂な自室の中、ミスターLは先程出て行った来訪者への怒りを、近くにあった柱に蹴りをいれることによってぶつけていた。

「あいつらも勇者も、どいつもこいつも腹が立つ‼オレを何だと思っている!最高にして最強!超クールな孤高の貴公子ミスターL様だぞ‼
…なのに、なのに…皆オレをナメてやがる!何故誰もオレを称え崇めない⁉
くそっ!くそっ!くっそぉおおおお!!!」

ミスターLは叫びと共に固く握り締めわなわなと震えていた拳を振り上げ、自身のデスクに力の限り殴りつける。
ドンッ!!と衝撃を受けたデスクから、マシンの設計図やら工具やらが様々な音を立て床へ散乱していく。

激昂からの全力の殴りつけで肩で息をしていたミスターLは、殴りつけたデスクに両手を付きぶつぶつと呟きだした。


「オレは伯爵様1の部下だ…!オレは誰よりも強いんだ…!


なのに何故…くそ!全部あのジャンプマニアのせいだ…!あの野郎…!」

彼の頭によぎるのは自分が目の敵にしている勇者達、そして伯爵の手下達…。

そして誰よりも、自分の中で際立つ存在であり苛立つのは、自分が1番嫌いな赤色を身に纏ったあの男…。

あの男と対峙した時、奴に対する怒りや憎しみ、劣等感のような強い負の感情が燃え上がるように自分の身体を駆け巡り突き動かしたのだ。まるで親の仇を見たかのように、あの男には自分にひれ伏してほしくて堪らない。


だが同時に、大好きな相手と久しぶりに再開したような喜びも心の片隅に存在していたのである。


その矛盾が、無意識に彼を苦しめていた。


「くそ!くそ…オレは…オレはナゼ…あんなにも奴を憎んでいるんだ…。だが、憎くて憎くて堪らない…。

分からない…

ナゼ…オレ…は…



ぼ…く…は…」




その時…




ズキン!!


「⁉…ぐ…ぐぁ…!!あ、頭…が…!?」

彼の呟くような言葉に反応したかのように、ズキズキズキと頭を割るかのような痛みがミスターLを襲った。

急に訪れた強烈な痛みに、彼は床に倒れ込み、そして両手で頭を抑え叫び声をあげた。

「うわぁああ!!い、痛い…!!…う…あ…やだ…!いやだぁあ…!!

だ…ずげ…で…!!



……に…い…さ…」


彼は痛みに耐え切れずまるで電池が切れたかのように気を失った。
気を失う前、咄嗟に彼の口から出た言葉は、ミスターL自身にすら聞かれることもなく消えていったのであった。


そして彼が気絶した少し後、彼の部屋の扉を開け中に入ってくる人物がいた。

「…ふぅ、心の揺らぎを感じて来たのは正解でしたね。…全く…こんなにも早く解けそうになるなるとは…誤算ですね…」

その人物は少しずり落ちた眼鏡を押し上げこれからのことを思案する。
このままだといずれこの男は術を解いてしまうだろう。そして勇者に会えばきっと、術を解かれるリミットはぐっと短くなってしまう。勇者達の仲間になるよりは今ここで殺しておいたほうが向こうの利にはならないであろう。
だがこの男は、伯爵様曰く黒の予言書に載っていたミドリの男である可能性がある。やはり易々手放してはならない人材なのだ。

「…ミスターL、そして予言書のミドリの男。貴方はまだやってもらうことがあります。…全ては伯爵様の為に」

未だ気絶している男に彼女はそう言い放ち、今までよりも強い術をその男にかけていくのであった。


おわり


次、あとがきとおまけ
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