エリリン

〈暗黒城〉


ここはザ伯爵ズのアジトである暗黒城。そのアジトの一角に充てがわれたミスターLの私室の扉を開けたのは、ザ伯爵ズのメンバーの一人である魅惑の道化師ことディメーンであった。



《エリリン》



ミスターLの部屋には様々な工具に素材を加工する為の機器、何かの材料になるであろう鉄材等が部屋一杯に詰め込まれており、彼がいつも使っているであろうデスクの上には、何かの設計図や工具、制作途中の電子回路などが所狭しと置かれている。

そして唯一スペースが開けられている部屋の一角には大小様々な形のガラクタが置かれており、そのガラクタの一つにトンカチを何度も打ち付けているミスターLの姿があった。


「ボンジュールミスターLくーん」

「…」

カンカンカンとリズム良くトンカチを叩く音だけが聞こえる。ミスターLはディメーンから見て背を向けて作業をしている為、彼がディメーンの存在に気付いているかいないか今のところ分からない状態だ。


「おーい、Lくーん」

「…」

ディメーンは先程よりも大きな声で呼び掛けたが彼の反応は相変わらずだ。カンカンカンというリズミカルな音だけが部屋の中で響いている。どうやら彼は無視を決め込んだようだ。
流石に普通の声掛けでは応えないと判断したディメーンは腕組みをし考えるポーズをしてみる。

「うーん、言い方が悪かったのかなー?じゃあー…


…エーリーリーン」

「誰がエリリンだこら!」

ディメーンからの愛称に対しミスターLは弾かれるように振り向き勢いよくツッコミをいれる。勢いの余り持っているトンカチを投げつけてきそうだ。
その反応に気を良くしたのかディメーンはニコニコとしながら話し始めた。

「あ!やっとこっち向いた!もぅ、こういう呼び方が良いなら早く言ってよエリリン」
「じゃねぇよ!オレの名前は緑の貴公子ミスターLだ!!ミスターL様と呼べ!」

そうツッコミながら持っていたトンカチをズビシッ!と音が出そうな勢いでディメーンに向けるミスターL。
そんな彼の言動に対し、ディメーンは彼の呼び方についてうーん…と悩みだした。

「うーん、じゃあ…マリマリくんにコテンパンにされたミスターL様ー」
「な⁉おまっ⁉ちっげーし!コテンパンになんかされてねーし!」

ミスターLはその言葉に慌てているのかかなりムキになっているようだ。
それもその筈。彼は宇宙の果てに存在するサルガッゾーンの奥地にて、ピュアハートをめぐりマリマリくんことマリオ率いる勇者一行と戦い、彼の言葉通りコテンパンにされてしまったのだった。

「えー?でもマリマリくん達にやられておめおめ逃げ帰ってきてたじゃない?」

「そんな訳ないだろ!ていうか何でお前がそんなこと知ってんだ!」

「あれー?じゃあボクが今当てずっぽうで言ったことはもしかして当たっていたのかなぁ?」

「…⁉な、んな…!」

ミスターLはまるで図星をつかれたように口をはくはくとさせる。かなり動揺しているようだ。

「え?まさか本当に…?」

それを見たディメーンははっとしたように口元を両手で押さえる。


「わ、わー⁉違う!そうじゃない!」

「んんー?違うってどういうことだい?」

「あ、あれはだな!ほんの小手調べだ!」

「んー?小手調べー?」

「そうだ!彼奴らのことを調べる為にわ・ざ・と!負けてやったんだ」

先程の焦った姿とは打って変わって、腕を組みしたり顔で"わざと"の所を強調して言うミスターL。
コロコロ変わる表情に、ディメーンは面白くてつい笑いだしそうになる口元を制した。

「ていうか!今日小手調べだって俺言ったじゃないか!」

「んんー?そうだったっけ?」

実は数刻前の作戦会議時にミスターLのお披露目が行われた。その時には勇者一行に負けた後であり、先程のようなことをミスターLは口にしていたのであった。

「言ってたわ!このオレがあれだけ大々的に言っていたのに忘れてるなんて!オマエの頭老化してんじゃねぇのか⁉」

「ゴメンねー。ボク、どうでもいいことはすぐに忘れちゃうタチだから…」
「オレの言ったことはどうでもいいことなのかよ⁉腹立つな!それにシュンとした顔してるのも余計腹立つわ‼」

「ムフフ、そっかー!それならいつもの笑顔に戻っとくね!」

「…、もう勝手にしろ」

そう言いミスターLは溜息をついた。この問答も所詮は糠に釘暖簾に腕押しなのである。
この会話にウンザリしてきた彼にディメーンは軽く笑いながら謝罪をしてきた。

「アハハ!ゴメンゴメン!じゃあ質問だけど、わ・ざ・と負けたミスターL様には、次でマリマリくんに勝てる算段があるってことなのかな?」

「ふん、当たり前だ!この俺様を誰だと思っている」

「エリリン」

「そう、このエリ…じゃっねーし!危ねぇ!違うって言ってるだろうが‼ミスターLだ!!」

「ンフフ~、そうだったねー」

そう言いケラケラ笑うディメーンに、ミスターLはかなり苛立ちを覚えていた。人をからかいに来るだけなら早く帰ってほしい。そう思い早く追い返そうと口を開いた時、ひとしきり笑い終わったディメーンが質問を投げてきた。


「じゃあさ、その算段とやらを僕に教えてくれないかい?」

「ふん、教える訳ないだろうが。誰であろうとこのミスターL様と愛機がいればあのジャンプマニアなんてへでもねぇ。怖いものなしだ!」

それが算段なのでは…ということを気付かず自慢気に語る男ミスターL。

「へぇー…、その愛機ってそこにある鉄屑のことかい?」

そう言いディメーンが指差す先には、マリオ達に粉々に破壊されたロボットだったガラクタが散乱していたのだった。先程これをミスターLは修理していたのである。

「う、うるせぇよ!今から超絶グレートな愛機に仕上がるんだよ!」

余りにもムキになって言い返すものだから可笑しくって、先程からディメーンは溢れでる笑みをもう隠せていない。

「ウフフー、そっかー、じゃあその超絶グレートに仕上がるのを楽しみにしてるよ」

「ふん、勝手にしろ。オレは見ての通り忙しいんだ。要件が済んだのなら即刻ここから出て行ってくれ」

「分かったよ、じゃあまたねエリリン」

「だからその呼び方はやめろ!!オレの名前はミスターえ…」

バタン!

ディメーンはミスターLが言い終わる前に部屋を後にしたのだった。

「最後まで聞けよっっっー!!!」

彼の怒号は出て行った男に届くことなく部屋の中で木霊するのだった。
1/3ページ
スキ