女のヒーロー
~とある村宿屋~
「はぁぁあ…;」
ボフッ!
クッパ城から歩いて約1日のところにあるこの村の宿の一室。
普段鍛えてはいるものの、こんな長距離を歩いたことのないピーチの身体はもうズタボロであった。
「ベッドがこんなにも恋しいものだとは思わなかったな…」
部屋に入って早々、ベッドにダイブしそう呟いている王子に彼女はクスリと微笑んだ。
「お疲れ様です」
「あぁ本当に。足が棒のようだ…」
「今さっき王国へ連絡を入れました。明日の朝には迎えが来るそうです」
「そうか」
確かにここからキノコ王国へはまだまだ遠い。今はもう日が落ちる頃。今からこちらに向かったとしても彼女が言った頃になってしまうだろう。
そう頭の中で計算していたピーチに彼女は予期せぬことを言ってきた。
「では…僕はこれで旅に戻らせてもらいます」
・・・。
「え?;」
「へ?」
「ま、まてまてまて!!どういうことだ!?」
「え?いや僕は旅の途中でしたので…」
・・・。
「はいいい!?;」
ということは何か!?元々旅の途中で、私を助けたのはついでってことか!?おい!?
一体どういう神経をしているんだコイツは…。
憤りを通り越してもはや呆れの目でピーチは彼女を見ていた。
(そういえば、ここまで歩いてくる時もそうだった…)
早く着くからと、獣道のような所を歩かされたり、途中出てきた山賊には火に油を注ぐようなことをのんびりとした口調でぽんと吐く。
ピーチはこの1日彼女に振り回されっぱなしだったのだ。
そして極めつけに、もう旅に戻らせろだ?
確かに彼女には恩がある。実際彼女がいなかったらピーチはこの場にいなかっただろう。でもその発言は流石に彼も我慢の限界である。
(ちょっとはこちらの言い分も聞いてもらわないとな)
そう思ったピーチの口元が自然に緩んでいたことは、本人ですら気が付いていなかった。
「いぃや、駄目だ。君にはまだここにいてもらう」
「え!?」
その発言に彼女は思ってもみなかったとばかりの驚きの声をあげる。してやったりだ。
ピーチはニヤつきそうになる口元を制し、平然を装うように話始める。
「君は確かにこの私を救いだしそして見事ここまで送り届けた。だが君は小さいころ大人に言われなかったかい?」
「?」
「やることは最後までやり通せ…ってね」
「え?」
「要は…家に帰るまでが護衛ではないのかね?」
「え、えええ!?ま、まさか…」
「そうだ。君は私を助けた以上、この私を王宮まで送り届ける義務がある!」
「ええええええええ!?;」
「異論は認めん。王子の命令だ。まだここにいてもらうぞ」
分かったな?とばかりの視線を送ると、彼女は渋々小さな声ではい…と返事をした。
それがまた可愛らしく感じ、彼女を引き留めることができた嬉しさと相まってピーチはニヤつきを隠すことが出来ない程舞い上がっていた。
(折角の機会だ。彼女のことを色々聞いてみよう)
「なぁ、君の名前、やはり教えてくれないか?」
「…;やはり言わないと駄目ですか?」
「そうだな。護衛される側としては護衛する側の情報も知っておかなければな」
そういうと、彼女ははぁ…と溜息を洩らした。
(もう、ばれているし、隠しても無駄よね…)
「…ま、マリー…と申します…」
「マリーか!良い名だ!年はいくつだ?」
「24…です」
「!?、同い年か!?;年下かと…」
「何故そんな残念がるのです?;」
その後も彼女…いや、マリーはピーチの質問におずおずとだが答えた。
職業は冒険家。副業として配管工や医師をやっていること。孤児として育ってきたこと。育ってきた環境、生まれ持った力も相まって男として生きた方が都合が良くそうしてきたこと。男を装う時はマリオと名乗っていること…。
ピーチにとって今まで自分とは違う世界を生きてきた彼女の話は、聞けば聞く程ピーチの興味をそそるものばかりだった。
…だが
(だいぶ眠たくなってきてしまったな…)
沢山歩いたことによる疲労で、ピーチは眠気に誘われていた。
「すまない。私が振っておいて悪いが、少し休ませてもらう」
「あ、はい。分かりました」
そう言うとマリーは、では…と言いながらピーチの部屋を後にしようとしていた。
…だが
(彼女はどこで寝るつもりなんだ?部屋はこの一室しか借りていなかったようだが…?)
「なぁ、マリー」
「はい?」
「君はどこで寝るつもりなんだ?」
「僕ですか?屋上ですけど…」
・・・。
「屋上!?」
ピーチはとても困っていた。
そりゃあんな発言をされたのもそうだが、今いるこの村の宿屋は大きな家の2階部分を宿としている。彼女は屋上とは言ったがそれは名ばかり。実際は普通の民家の屋根なのだ。そんなところで女1人寝かす訳にはいかない。
しかも宿として使っている部屋はこの部屋を入れてたったの2部屋しかない。しかももう1部屋は使われている為彼女の為に借りられる部屋は無い。
(ったく…何故この部屋はベッドが1つしかないんだ!?)
この部屋に備え付けられているベッドは1つ。他に寝れそうな所はソファ位だ。
(はぁ…仕方がない…)
「マリー、このベッドを使いなさい。私はソファで寝るとしよう」
「ぇ!?い、いえ!それは駄目です!」
「何故だ?」
「王子を差し置いて僕なんかがベッドでは駄目です…!!;」
マリーは相当動揺しているようで、狼狽えているのが言動から見てよく分かった。
(これは思わぬ展開になってきたな…)
「ではこうしよう、私と君2人でこのベッドを使う、というのはどうだ?」
「えぇ!?そ、それでは狭くなって王子が寝苦しくなってしまいますから…、それなら僕がソファで…」
「いいや、それならば私が屋上で寝てしまうぞ?」
「!!?;」
(相当慌てているな)
内心ニヤニヤしっぱなしのピーチなのだった。彼の彼女に対する仕返しはまだ終わっていなかったようだ。
「…ぼ、僕と一緒なら、貴方はベッドで寝てくれるのですね…?//;」
「あぁ、そうだ」
「!?…わ、分かりました…一緒に寝ます…//;」
・・・。
(まぁ、思ってもみない展開になってしまったな…)
あの会話をしてから十数分が経とうとしている。
明かりが消えた暗い部屋も、それ位経てば周りが見えてくる。
何もない天井、無地のカーテン、そして壁に掛けられた時計の秒針が時を刻む音。
何故こんなどうでもいいことを考えているのかというと…
(しまったな…眠れん…;)
彼は何故か眠れないでいたのだ。
(おかしいな…。なんなのだこの胸の高鳴りは…?)
思えば、今まで誰かと同じベッドで寝ることなど無い体験。女性となんて尚更だ。
(緊張で休めようにも休めぬな…)
これは少し失敗だったかなと思いながら、ピーチはふと隣をちらりと見ると、自分のすぐそばにマリーの顔があるのが確認できた。
彼女も寝ていないのか、天井を見つめているようだった。
(眠れないのか?)
「眠らないのですか?王子」
「!?」
ピーチの視線に気が付いたのか、マリーが話しかけてきた。
「さっきまで眠いって言っていたのに?」
「いやまぁ…、ベッドに入ったら何故か目が冴えてしまってな…。君は眠らないのか?」
「僕は起きてます。敵が来たら困るので」
「え?」
(そういえば、昨日も見張っていてくれていたな…)
ここまで来る途中に1回野宿することになったが、マリーは見張りをしており、ほぼ一睡もしていない。
そして今日も彼女は見張りをする為起きていようとしている。しかもベッドで寝ている状態でなんてある意味拷問だ。
「いや、君も寝るといい。丸1日寝ていないであろう?」
「でも、本当に追手が来ても困りますし…」
「私は王子だが、これでも国を守る一端の戦士だ。身を守る術位心得ている。それに…」
「?」
「睡眠不足では、良い判断もつかなくなり敵に勝てなくなるやもしれん。だから君も少し休みなさい」
「…いいのですか?」
「あぁ、休みなさい」
「…分かりました。ありがとうございます」
そう言うとマリーはピーチにニコッと微笑んだ。
その笑顔は、ピーチの心を解すかのようにスッと胸に染み入った気がした。
(本当に不思議な娘だ…)
こんな小さな身体に見合わない程のパワー、体力、跳躍力に魔力。なんだかんだで周りを振り回しているのに何故か憎めない性格。大きくて澄みきった青い瞳…。
(なんだろうな…、この、心の奥が温かくなるような感覚は…)
このままずっと彼女といたい、その笑顔をずっと見ていたい…、そう思えてくるような心地よい感覚…。
女友達だっていない訳ではない。幼馴染のデイジー姫に、守備隊の女兵士、隣国の姫君たち…。何人かはいる。だが誰1人こんな感覚にはなったことがない。
これが…俗にいう…
(恋…なのか……?…まぁ、悪い気はしない)
気が付けば、マリーは目を瞑り規則正しい寝息を立てていた。相当疲れていたのであろう。
ピーチもそれを見て安心すると目を閉じ、思い出したかのように眠りに誘われた。
「はぁぁあ…;」
ボフッ!
クッパ城から歩いて約1日のところにあるこの村の宿の一室。
普段鍛えてはいるものの、こんな長距離を歩いたことのないピーチの身体はもうズタボロであった。
「ベッドがこんなにも恋しいものだとは思わなかったな…」
部屋に入って早々、ベッドにダイブしそう呟いている王子に彼女はクスリと微笑んだ。
「お疲れ様です」
「あぁ本当に。足が棒のようだ…」
「今さっき王国へ連絡を入れました。明日の朝には迎えが来るそうです」
「そうか」
確かにここからキノコ王国へはまだまだ遠い。今はもう日が落ちる頃。今からこちらに向かったとしても彼女が言った頃になってしまうだろう。
そう頭の中で計算していたピーチに彼女は予期せぬことを言ってきた。
「では…僕はこれで旅に戻らせてもらいます」
・・・。
「え?;」
「へ?」
「ま、まてまてまて!!どういうことだ!?」
「え?いや僕は旅の途中でしたので…」
・・・。
「はいいい!?;」
ということは何か!?元々旅の途中で、私を助けたのはついでってことか!?おい!?
一体どういう神経をしているんだコイツは…。
憤りを通り越してもはや呆れの目でピーチは彼女を見ていた。
(そういえば、ここまで歩いてくる時もそうだった…)
早く着くからと、獣道のような所を歩かされたり、途中出てきた山賊には火に油を注ぐようなことをのんびりとした口調でぽんと吐く。
ピーチはこの1日彼女に振り回されっぱなしだったのだ。
そして極めつけに、もう旅に戻らせろだ?
確かに彼女には恩がある。実際彼女がいなかったらピーチはこの場にいなかっただろう。でもその発言は流石に彼も我慢の限界である。
(ちょっとはこちらの言い分も聞いてもらわないとな)
そう思ったピーチの口元が自然に緩んでいたことは、本人ですら気が付いていなかった。
「いぃや、駄目だ。君にはまだここにいてもらう」
「え!?」
その発言に彼女は思ってもみなかったとばかりの驚きの声をあげる。してやったりだ。
ピーチはニヤつきそうになる口元を制し、平然を装うように話始める。
「君は確かにこの私を救いだしそして見事ここまで送り届けた。だが君は小さいころ大人に言われなかったかい?」
「?」
「やることは最後までやり通せ…ってね」
「え?」
「要は…家に帰るまでが護衛ではないのかね?」
「え、えええ!?ま、まさか…」
「そうだ。君は私を助けた以上、この私を王宮まで送り届ける義務がある!」
「ええええええええ!?;」
「異論は認めん。王子の命令だ。まだここにいてもらうぞ」
分かったな?とばかりの視線を送ると、彼女は渋々小さな声ではい…と返事をした。
それがまた可愛らしく感じ、彼女を引き留めることができた嬉しさと相まってピーチはニヤつきを隠すことが出来ない程舞い上がっていた。
(折角の機会だ。彼女のことを色々聞いてみよう)
「なぁ、君の名前、やはり教えてくれないか?」
「…;やはり言わないと駄目ですか?」
「そうだな。護衛される側としては護衛する側の情報も知っておかなければな」
そういうと、彼女ははぁ…と溜息を洩らした。
(もう、ばれているし、隠しても無駄よね…)
「…ま、マリー…と申します…」
「マリーか!良い名だ!年はいくつだ?」
「24…です」
「!?、同い年か!?;年下かと…」
「何故そんな残念がるのです?;」
その後も彼女…いや、マリーはピーチの質問におずおずとだが答えた。
職業は冒険家。副業として配管工や医師をやっていること。孤児として育ってきたこと。育ってきた環境、生まれ持った力も相まって男として生きた方が都合が良くそうしてきたこと。男を装う時はマリオと名乗っていること…。
ピーチにとって今まで自分とは違う世界を生きてきた彼女の話は、聞けば聞く程ピーチの興味をそそるものばかりだった。
…だが
(だいぶ眠たくなってきてしまったな…)
沢山歩いたことによる疲労で、ピーチは眠気に誘われていた。
「すまない。私が振っておいて悪いが、少し休ませてもらう」
「あ、はい。分かりました」
そう言うとマリーは、では…と言いながらピーチの部屋を後にしようとしていた。
…だが
(彼女はどこで寝るつもりなんだ?部屋はこの一室しか借りていなかったようだが…?)
「なぁ、マリー」
「はい?」
「君はどこで寝るつもりなんだ?」
「僕ですか?屋上ですけど…」
・・・。
「屋上!?」
ピーチはとても困っていた。
そりゃあんな発言をされたのもそうだが、今いるこの村の宿屋は大きな家の2階部分を宿としている。彼女は屋上とは言ったがそれは名ばかり。実際は普通の民家の屋根なのだ。そんなところで女1人寝かす訳にはいかない。
しかも宿として使っている部屋はこの部屋を入れてたったの2部屋しかない。しかももう1部屋は使われている為彼女の為に借りられる部屋は無い。
(ったく…何故この部屋はベッドが1つしかないんだ!?)
この部屋に備え付けられているベッドは1つ。他に寝れそうな所はソファ位だ。
(はぁ…仕方がない…)
「マリー、このベッドを使いなさい。私はソファで寝るとしよう」
「ぇ!?い、いえ!それは駄目です!」
「何故だ?」
「王子を差し置いて僕なんかがベッドでは駄目です…!!;」
マリーは相当動揺しているようで、狼狽えているのが言動から見てよく分かった。
(これは思わぬ展開になってきたな…)
「ではこうしよう、私と君2人でこのベッドを使う、というのはどうだ?」
「えぇ!?そ、それでは狭くなって王子が寝苦しくなってしまいますから…、それなら僕がソファで…」
「いいや、それならば私が屋上で寝てしまうぞ?」
「!!?;」
(相当慌てているな)
内心ニヤニヤしっぱなしのピーチなのだった。彼の彼女に対する仕返しはまだ終わっていなかったようだ。
「…ぼ、僕と一緒なら、貴方はベッドで寝てくれるのですね…?//;」
「あぁ、そうだ」
「!?…わ、分かりました…一緒に寝ます…//;」
・・・。
(まぁ、思ってもみない展開になってしまったな…)
あの会話をしてから十数分が経とうとしている。
明かりが消えた暗い部屋も、それ位経てば周りが見えてくる。
何もない天井、無地のカーテン、そして壁に掛けられた時計の秒針が時を刻む音。
何故こんなどうでもいいことを考えているのかというと…
(しまったな…眠れん…;)
彼は何故か眠れないでいたのだ。
(おかしいな…。なんなのだこの胸の高鳴りは…?)
思えば、今まで誰かと同じベッドで寝ることなど無い体験。女性となんて尚更だ。
(緊張で休めようにも休めぬな…)
これは少し失敗だったかなと思いながら、ピーチはふと隣をちらりと見ると、自分のすぐそばにマリーの顔があるのが確認できた。
彼女も寝ていないのか、天井を見つめているようだった。
(眠れないのか?)
「眠らないのですか?王子」
「!?」
ピーチの視線に気が付いたのか、マリーが話しかけてきた。
「さっきまで眠いって言っていたのに?」
「いやまぁ…、ベッドに入ったら何故か目が冴えてしまってな…。君は眠らないのか?」
「僕は起きてます。敵が来たら困るので」
「え?」
(そういえば、昨日も見張っていてくれていたな…)
ここまで来る途中に1回野宿することになったが、マリーは見張りをしており、ほぼ一睡もしていない。
そして今日も彼女は見張りをする為起きていようとしている。しかもベッドで寝ている状態でなんてある意味拷問だ。
「いや、君も寝るといい。丸1日寝ていないであろう?」
「でも、本当に追手が来ても困りますし…」
「私は王子だが、これでも国を守る一端の戦士だ。身を守る術位心得ている。それに…」
「?」
「睡眠不足では、良い判断もつかなくなり敵に勝てなくなるやもしれん。だから君も少し休みなさい」
「…いいのですか?」
「あぁ、休みなさい」
「…分かりました。ありがとうございます」
そう言うとマリーはピーチにニコッと微笑んだ。
その笑顔は、ピーチの心を解すかのようにスッと胸に染み入った気がした。
(本当に不思議な娘だ…)
こんな小さな身体に見合わない程のパワー、体力、跳躍力に魔力。なんだかんだで周りを振り回しているのに何故か憎めない性格。大きくて澄みきった青い瞳…。
(なんだろうな…、この、心の奥が温かくなるような感覚は…)
このままずっと彼女といたい、その笑顔をずっと見ていたい…、そう思えてくるような心地よい感覚…。
女友達だっていない訳ではない。幼馴染のデイジー姫に、守備隊の女兵士、隣国の姫君たち…。何人かはいる。だが誰1人こんな感覚にはなったことがない。
これが…俗にいう…
(恋…なのか……?…まぁ、悪い気はしない)
気が付けば、マリーは目を瞑り規則正しい寝息を立てていた。相当疲れていたのであろう。
ピーチもそれを見て安心すると目を閉じ、思い出したかのように眠りに誘われた。