七夕祭

《せめてもの思い》



祭が終わり、子どもたちが寝静まった頃


どうしても、外に出て星を見たくなった。

何故かというと…



きっと今、星を見に行ったら、誰かに会える。



そんな気がした


なんでそう思ったのかは分からないし、その誰かは分からないけど…


とにかくその誰かに会いに行きたくなった。


「…」


外に出て、近くの丘まで歩いてみた


でも、誰もいない



「…」


ふと空を見上げてみる


夜空には大きく流れる天の川、そして川の両方の岸には織り姫の星と彦星の星がきらきら輝いていた



私は会えなかったみたいだけど、貴女達は無事会えたのかしら…?




「サムス?」

「?」


振り返ると、そこにはマリオが立っていた


「どうしたんだい?こんな時間に」


トクン


一瞬の胸の高鳴り


まさか貴方に会えるとは思わなかった。


「星が…」

「?」

「星が綺麗だったから…」

思わず言った、小さな嘘。


貴方に本当のこと言ったらきっと笑われると思ったから。



でも…もうそんなことどうでもよかった。




雲一つない満天の星空。真夜中だからか、天の川の星々が一段と輝きを増しているようだった


「本当だ、とても綺麗だね…。今日は本当に晴れて良かった」

「えぇ、本当に…」


そうして彼も私も空を見上げる。


「「…。」」


しばしの無言の時間。でもその時間が、とても居心地が良くて…



きっと私は、ただ星を見ていたのではなくて、彼の隣で星を見ているこの瞬間を、味わっていたんだと思う。


「さぁ、サムス。そろそろ戻ろう。このままだと夜露に濡れてしまうよ」

「…えぇ、そうね」


今にも消えそうな、幸せな時間


その惜しみを気付かれないように、一応の返事をする


「さぁ行こう」


そう言い彼は私を手招く



そう、終わりにしないといけないんだ。この幸せな時間を。



でも、その前に…


「ねぇマリオ」


どうしても聞きたいことがあるの。


「?なんだい?」




「なんで貴方もここに来たの?」



「…」


「?」





「えっと…、その、…笑われることかもしれないけど聞いてくれるかい?」

「?えぇ」








「会える気がしたんだ」




「え?」



ドクン




「ここに星を見に来れば。誰かに会える気がした。…何でそう思ったかは分かんないんだけどね」




ドクンドクン




高鳴る鼓動


それは前の時よりも、大きく、しっかりと、体の中を打ち鳴らす




「そう…」


同じことを…


今の私では、そんな返事しか出なかった。



私の返事を聞いた彼は、後ろを向き空を仰いだ。



「うん。でも出歩いて良かったみたいだ。…うん、『誰か』が君で良かった」



まるで自分自身が納得したかのような言葉…


「…!」




私も!





彼のそんな言葉にそう返したはずなのに、何故か口からは息しか出なかった。


彼は、また私の方に向き直った


「ごめんよ、変な話に付き合わせてしまって;」


「…」フルフル


貴方が詫びる必要なんて無いのに…!


首を振るだけで精一杯の自分を悔いた。


「さあ、帰ろうか」


彼はそう言い、背を向け歩き出した。



言いたい。


駄目。


言えない。


でも言いたい。


でも…!



…踏み出したい一歩。



でも、その踏み出す一歩は、私にとって代償があまりにも大きすぎた。






…でも…




でも、せめて…!!


「マリオ!」


「?」




この思いは伝えたい。





「ありがとう!」



親愛なる貴方へ…




「うん。僕も、ありがとう」




((一緒に星を見てくれて…))




その日の星達は、一段と輝きを増していた。




終わり


次、あとがきとおまけ
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