イカ
軸足を切られ、為す術も無くなった巨大イカはとうとう床に倒れた。
その巨体故辺り一面に衝撃が走り、砂埃が舞い上がる。
「やっと倒れたか」
「リンクさーん!」
「ピット!無事か!」
「はい!…えっと、あの女の人はどこにいるのでしょう?」
「そういえばどこだ?それに薄緑もいねぇ」
「あ、確かに。おーい!ルイージさーん!」
…ゴゾゾ…
「「?」」
ピットの呼びかけに答えるように巨大イカが微かに動いたのだ。
「こいつ、まだ起き上がる気か!?」
「リンクさんここは一旦距離を置きましょう。奇襲がくるかもしれません!」
その時
「おーい!!」
「「!?」」
イカの方からくぐもったような声が聞こえてきた。その声の主はとても身近な人物故2人とも首を傾げた。
「?、なんでイカの中からルイージさんの声がするんでしょうか?」
「空耳か?」
「空耳じゃないから早く助けてくれええ!!下敷きになってるんだー!!」
「この情けない叫び声は間違いなく薄緑だな」
「ここら辺ですかね?」
「じゃあ切ってみるか」
ザシュザシュザシュ!
リンクはルイージの声が聞こえたであろう場所をマスターソードで切り刻んでいく。切り刻まれたイカのお腹はバラバラと裂け、辺りに散らばる中、その中から淡い光を放つ球体が姿を現したのだった。
魔力でできたバリアであろうその球体の中にはルイージと彼女の2人が守られるように入っていた。
「ぐっ…」
ドサッ…!
「!?わわわ!しっかりして!ねぇ!?」
「「?」」
彼女が目を閉じ倒れたと同時に2人を包んでいたバリアと巨大イカは光の粒となって消えてしまった。
何故2人がこんなことになっているのか、リンクとピットはさっぱり状況が分からないでいた。だがこんなバリアを張ったのはルイージではなく彼女であるということが、現状を見て明らかであった。
慌てたルイージは彼女を急いで抱き起こした。
「ねぇ!しっかりしてって!ねぇってば!」
ルイージの呼び掛けが届いたのか、彼女は微かにそして静かに目を開いた。
「なぜ…」
「?」
「何故…、私を助けたの…?」
小さく開いた口から紡がれたか細い声に、ルイージは困ったように眉を下げた。
「うーん、君がイカから落ちちゃった時、危ないって思ったんだ。…そこからはあんまり覚えてないんだよね。なんか、身体が勝手に動いちゃったみたい」
そう言って苦笑するルイージに、彼女もふと呆れにも似た笑みを漏らした。
「お人好しなのね、あんたも…」
そう言い彼女は自分の足を、素足に巻かれている包帯をそっと、優しく撫でたのだった。
その時…
ガラガラガラ…
建物全体が揺れ始め、天井からパラパラと崩れてきた天井の破片が落ち始めてきたのだ!
「わ、わわわわわ!!」
「い、いきなり何ですかこれ!?」
「やべぇ、崩れるぞ!」
リンクの言う通り、天井がガラガラと崩れ始め、崩れた割れ目から海水が漏れ始めてきていた。
「と、とにかくここから逃げましょう!!」
「逃げるってどこに逃げるんだよ、下も上も海水だぞ!?」
「そ、そんなこと言ったって、このままここにいても僕達ペチャンコになっちゃいますよっ!!」
その時、イカの彼女は意を決したように起き上がった。
「もう大丈夫。離して」
「あぁ、うん」
ルイージは彼女に言われた通りにゆっくりと手を放し離れた。
彼女はゆっくりと顔を上げた。
「ここは危険よ。もうすぐ海底に沈むわ。今から私はこの子から離れるから、この子とマリオを連れて逃げなさい」
「「え⁉︎」」
彼女の言葉に3人はとても驚いた。
「な、何でそういうこと言うんだい…⁉︎」
「何でって、私は事の原因を作った張本人よ。それにもうここを立て直す魔力も無いし、私が最後まで責任を持たなければいけないわ」
ルイージからの問いに彼女は何処か諦めたようにそう言ったのだった。それに対しピットは声を荒げた。
「責任だなんて、こんなの違いますよ!」
「そうだ!こんなの責任なんかじゃない!ただの逃げだ!」
「そうだよ!兄さんだってこんな事望んでないと思うよ!」
ルイージの言葉に彼女は小さくマリオの名を呼び俯いたのだった。
「私は、どうしたらいいの…?マリオ…」
「はっ‼︎そういえば兄さん!まだ寝てるのかな⁉︎」
…。
「「あ…」」
軽く忘れてたようです←
ルイージの一言に皆ハッとしたようだ。
「そう言えばマリオ寝てたっけな…」
「は、早く起こさないと!マリオさん海に沈んじゃいますよ!」
「あわわわわ…」
皆が焦ってる中…
「呼んだ〜?」
・・・。
「「うぇええ!?」」
「に、兄さん!!?」
「いつの間に…」
いつの間にかマリオが3人の後に立っていたもんだから、3人はあまりの衝撃に変な声を出し飛び上がった。
3人を驚かせた当の本人は呑気に欠伸をしながらも、今にも消えようとしている彼女のもとに歩み寄った。
「さてと、随分大変な事になってるね。」
「…マリオ、もうここも私も駄目よ。あの3人とこの子を連れて逃げて…」
そう言う彼女は諦めたように俯き、このままこの建物と身を共にしようとしていた。
だが
「駄目だよ」
マリオは彼女の言葉を即座に拒否したのだった。
「君も連れていくよ。」
「!?」
「そうだよ!君を1人ここに残してなんかおけないよ!」
マリオの言葉にルイージも賛同していく。
「だけど私は…」
「こんなことになってしまったのは僕等の責任でもあるんだ。こうなった以上、君をここに置いてはいけない」
「確かにそうだな。あんたが一人で全て責任を負う必要なんてねぇ」
リンクもマリオの考えに賛成のようだ
「それに言ったよね、君はこうして生き返った。新たな人生を送れるように僕、いやこれからは僕等がサポートしていくよ」
「私は、まだ生きてていいの・・・?」
彼女のその問いかけにその場にいた者全員が強く頷いたのだった。
その時・・・
ドドドド!!!
「「!!?」」
建物全体が突如大きく揺れ、その衝撃から天井に大きくヒビが入り、そこから大量の海水が滝のようにメンバーの頭上へ降ってきたのだった!
「ぎ、ギィイイヤアアアア!!!」
「くそっ!どうする!?」
「このままではマリオさんが…!」
3人はパルテナにより奇跡を授かっている為水圧等に耐えられるが、マリオやカイーナさん、そしてもはや魔力の無い彼女にはそれがない。
状況は危機的状況であった。
(そうだよ、このままだと兄さんが・・・
どうする…⁉︎どうすれば...⁉︎)
ルイージは気が動転しつつも解決策がないか彼方此方を見渡す。
だが、周りはすでに海水だらけで、もう膝下にまで海水がせり上がってきた。この建物が浸水するのも時間の問題だ。
周りにいる皆も焦りの色を隠せないでいた。
ルイージは焦って動揺しているピットを目にした途端、ハッと何かを思い出したように、小さくあっと呟いたのだった。
(そういえば、パルテナ様はピットの居場所を感知しているって言ってたような…?)
「ねぇ!ピット!」
「え⁉︎何ですかこんな時に?」
(ピットも相当焦ってるようだな…焦り過ぎて怒ってるように見える…)
「ねぇ!さっきパルテナ様は君の居場所を知ってるって言ってたよね⁉︎」
そのルイージの言葉を聞きリンクは意図に気付いたのか
「そうか!おいピット!パルテナに頼んで助けてもらえねぇか!?」
「そ、そうか!!あ、でもこの世界では転送が出来ないと聞いていたような…」
「いや、転送は出来なくていい、この場所さえ分かれば…」
「そうか!マスターに伝えてくれれば何とかなるかも!」
「な、成る程!分かりました伝えてみます!」
そう言うピットは両手を口元に添え、大きく息を吸うと…
「ぱぁああるぅううてぇええなあああ様あああああ!!!!」
と大声で叫びだしたのだった。
「「えええええ…⁉︎」」
衝撃を受けたのは周りにいた4人だ。
「そんな原始的な方法で⁉︎うっそーっ⁉︎天使なのに⁉︎」
「ぇ、何今の?それで交信してるつもりか?天使なのに?」
「そ、そんなに言うことないじゃないですか!」
この言動にルイージとリンクもツッコミを入れざるをえなかった笑
だがその数秒後
ブンッ!
!?
彼らの目の前に光り輝く円盤が現れたのだ。
その円盤は次第に光が消え、金色に輝く、スマッシュブラザーズの印が入ったプレートになったのだった。
「あれは!」
「きっとマスターだな!」
「うん、きっと転送装置だね」
「ほらー!僕の呼びかけにパルテナ様は気付いてるんですよ!この、天使である僕のお・か・げです!」
((本当パルテナが関わると途端にウザくなるな…))
これで帰れる
メンバーは見覚えのある印に安堵した
その時
ザバァアアアアアアアア!!!!
「「!!!?」」
とうとう天井が限界を迎え大きな亀裂が入り、そこからとめどない量の海水がルイージ達を襲いにかかってきたのだ!
「皆走れ!!!」
リンクの叫びと共に皆一目散に走り始めた。
そこら中に海水が入り込み足を取られる中、少し先にある転送装置を目指す。
マリオは近くにいたカイーナの身体を抱え走り始める。
だがその時
ガラゴロガラガラ…!!
「あ…」
壊れた天井がマリオ達に目掛けて落ちてきたのだ!
(このままじゃ間に合わない…)
海面も上昇しお腹の所まできた。カイーナを抱えている今の状態では避けることも難しかった。
それに気付いたマリオは少し先を行くルイージを呼んだ。
「ルイージ!!」
「え⁉︎」
「頼む!」
「きゃっ⁉︎」
マリオはそう言うや否やカイーナの身体をルイージに投げた。
「⁉︎」
(え?それってどういう…)
ルイージがそう思った瞬間
ザバァアアアアアアン!!!
「「!?」」
マリオが居た所に天井の塊が落ち、物凄い音と水飛沫を立てたのだった。
「に、兄さああああああん!!!!」