イカ
「!?」
彼の行動に、この場にいる者たちは皆驚いた。そしてルイージは更に床に足を付け手を付け、そして頭まで付け目の前の女性に最大限の頼みをこう。
「何…?」
「君に止めを刺したのはこの僕だ!僕のことは煮るなり焼くなりすきにしてくれて構わない!…でも、でも兄さんのことはどうか諦めてほしいんだ!」
「貴方何言ってるの?これはもう私の中で決まったこと。貴方が何と言おうと、もうマリオは私のものよ」
ルイージはそれでも床に頭を擦り付け土下座の姿勢を崩さない。
「お願い…お願いだよ…。兄さんは…、僕にとって唯一の家族なんだ…!今まで一緒に生きてきたかけがえのない大切な人なんだ!」
彼は顔を上げ彼女の目を見据えそう叫んだ。諦めることなんてできるものか。双子の兄に似た青い瞳の奥に宿る思いが彼女を射抜く。
「!?」
「俺からもお願いだ!復讐なら俺にすればいい!でもマリオだけは助けてほしい!」
「僕からもお願いします!!」
「何よ…あんた達は私の命を奪っておいて、マリオまで奪ってしまう訳…?」
そういう彼女の手は怒りからか強く握りしめられ打ち震えていた。彼女の周りの雰囲気が不穏のものへと変わっていくのが嫌でもルイージには分かった。
「私は、今まで一人で生きてきたの。この暗い海の中で…
あんた達に、私の寂しさの
何が分かる…!」
「「「!?」」」
ゴゴゴゴ…
彼女の後から今まで出てきたもの達よりも更に大きいイカが床からせり上がってきたのだ!
彼女はイカの足に乗りそのイカに指示を出す。
「あの3人を踏み潰して」
グオオォ!
イカは彼女の指示に応え、巨大な足を振り上げた!
「来るぞ!」
「うん」
「はい!」
ズドドドドドーーン!!
3人の頭上から巨大なイカの足が振り下ろされた。3人は散り散りにそれをかわす。3人のいた所はイカの足が深くめり込み、その衝撃で辺りに砂ぼこりが舞う。かなりの破壊力であることは一目瞭然であった。
3人がかわすと同時に幾つもの足が3人に目掛け畳みかけるように振り下ろされてきた。
ズドーーンズドドドーーン!!!
「わわわわわっ!」
「おわっと、どーします!?このままでは全員ぺちゃんこですよ!?」
「そんなこと分かってる!こうなったらもうこのイカをぶった切るしかねぇ!」
そう言いリンクはマスターソードを鞘から引き抜いた。それを見たピットも弓を短剣に変え臨戦態勢である。だがルイージはいい顔を示さなかった。
「で、でも…!」
「皆まで言うなルイージ!こうなった以上交渉決裂だ!」
「…!」
彼女はルイージ達に攻撃をしてきた。その事実は変わらない。リンクのその物言いに、ルイージは押し黙るしかなかった。
「とにかくこのデカいイカを倒すぞ!」
「はい!」
「はぁああああ!!」
「うりゃりゃりゃ!!」
ザシュザシュザシュ!!!
リンクとピットは未だ止むことないイカの足の攻撃をかわしつつ、足の1本1本を攻撃し始めた。
2人の武器は伝説級の得物である。その抜群の切れ味と2人の見る者を圧倒させる速さでイカの足をスパスパッと爽快に切り刻んでいく。巨大イカはその痛みに耐えきれず地響きのような叫び声を上げた。
グオオォォ!!
「クッ!おのれ人間共め!ひるんではダメ!攻撃の手を止めないで!」
だが彼女が命令する頃には巨大イカの足の半分以上が使い物にならなくなっていたのだ。
「ピット!」
「何ですか!?」
「お前の近くのあの足が今胴を支えてる!」
リンクがそう言い指差した方を見ると1本だけ攻撃をしていない足があるのにピットは気付いた。
「!あの足を切ればこのイカの体勢が崩れるって訳ですね!」
「あぁそうだ!俺が注意を引いている間にぶった切れ!」
「はい!」
「よし、おいイカ野郎!こっちだ!」
グオォォォォ!!!
巨大イカはリンクの挑発に乗り押しつぶさんと残りの足を振り上げた!
が、その時…
「うりゃあああ!!!」
ザシュ!!!
ピットの渾身の一振りがイカの軸足へクリティカルヒット!
一太刀の重さに、イカの足はスパッと切れ、それと同時にイカの巨大な身体がぐらりと傾きだした。
「イカが倒れるぞ!この場を離れるんだ!」
「はい!」
「しまっ………きゃああ!!」
巨大イカに乗っていた彼女は倒れたことによりバランスを崩し、イカから宙へと放り投げられてしまった!
「!?た、大変だ!」
その全容を見ていたルイージは無我夢中で駆け出した。これ以上彼女達を傷つけてはいけない。落下する彼女を受け止めなければ…!気持ちが先行し、足をもつれさせながらも全速力で彼女の元へ突っ走る。
「ぐ…、間に合わない…!」
だが前線で戦っていなかったルイージと彼女との距離はかなり離れており、全速力で走っていても彼女が落下し床に追突するのは目に見える程であった。
もう諦めるしかないのか…?
ルイージの頭にその一言が無情に横切る。
(僕は…僕は…)
また守れないのか…?
フィードバックする光景は海へと投げ出される兄の姿。
僕をいつも助けて支えてくれる強くて優しくて自慢の兄がほほ笑みを投げかけてくれる。
僕は…僕は…
もうあんな思いをしたくない…!
ルイージは立ち止まりその場にしゃがみ込んだ。そして自分の両足に全神経と全魔力を注ぎ込む。全力を注ぎ込まれた足は次第に光を帯び始めた。
「いっけえええええええ!!!ルイージロケットおおお!!!」
ドシューーーーン!!!!
ルイージは掛け声と共に床を思いっきり蹴った!蹴った場所からは爆発が起き、蹴った力と爆風の力で走った時よりも何倍もの速さでルイージは彼女の元へ飛び出した!
彼女との距離まで後十数メートル…!だが彼女もまた床までの距離はもはや十メートルも無かった。ルイージは無我夢中で両手を伸ばした!
(お願いだ…!)
「間に合ってくれえええっ!!!」
彼女が床に衝突する
1秒前…
ガシッ!!!
ルイージは彼女の体を掴み抱き寄せたのだ!
ズザザアアアアア!!
そのまま彼女を抱き締め背を地面に向け滑るように着地した。
「いててて…」
床で擦れ痛む背中をなでつつルイージは彼女を見やると、「いつつつ…」と言いながら起き上がろうとしている所であった。それを見たとたん体中を一気に安堵が駆け巡る。思わず天を仰ぎ溜息が出た。
「はぁ、良かっ…」
だが、彼はこれ以上の言葉を紡ぐことは出来なかった。彼は必死故に自分が今置かれている状況に気付くことが出来なかった。彼らの周りに突如現れた黒くて大きな影に。
「…あ」
ズドーーーーーン!!!