イカ


~巨大貝内部入口~

「ふぃー、何とか入れたな」

「えぇ、本当に何とかですね…」

そう言いピットは3人が入って来た場所を見つめる。その外壁であった所にはぽっかりと大きな穴が開き、向こうの海が見えていた。それを見たルイージは改めてげんなりとし、はぁーと深い溜息をついた。

「全く困るよ、甲羅で壁に穴を開けちゃうなんて!この貝全体に魔力のバリアが覆われていなかったら今頃この貝殻は水没していたかもしれないじゃないか!」

ルイージの言う通り、この巨大貝には特殊なバリアが貼られており(貝全体が光っていたのもそのせい)、そのお陰で水の侵入が全く無いようだ。

「しょうがないじゃないですか、目の前に巨大イカが迫ってきたんですから!」

「そうそう、それに他のイカも来てたしな」

そうピットとリンクが言うようにここまで来る途中巨大イカが3人の行く手を遮ったのである。リンクはそれに対抗すべく持っていた甲羅をイカに投げつけイカを撃退。追手のイカも迫ってきており、リンクはピットから借りた甲羅を思いっきり貝に投げつけ穴を開けたのだった。3人はそこから入って来たのだ。

「いやだからっ!もう少し考えてくれよ!この中には兄さんがいるんだぞ!?もっと丁寧に扱ってくれ!!後君達の甲羅はもう使い物にならないんだ!帰りどうするんだよ!」

予備なんて持ってきてないし!とぷんぷんと拗ねるルイージを他所に2人は至って平然としていた。

「まぁ、どうにかなるだろ」

「そうですね、パルテナ様もついてますし」
「君たちはどうしてそう楽観的なんだ!!もっと不安がったっていいんじゃないのかい!?」


その時…


ウゾウゾゾ…


「「!?」」

3人が振り返るとリンクがこじ開けた穴から黒い影がいくつも揺らいでいるのが見えた。

「わわわ!?」

「さっきの追手ですか!?」

「一先ずこの奥に行くぞ!」

「はい!…て、どっちに行けば良いんですか!?」

ピットが言うように3人は通路の途中に穴を開けて入って来たため、どっちが奥なのか分からないのだ!

「…」

ルイージは胸に手を当て目を閉じた。兄のことを思いながら…。

(兄さん…は、きっとこの奥にいる…兄さん…)

「ルイージさん?」

「おい、どうした…?」

2人が心配する中、ルイージはパッと目を開けた。

「…分かった」

「本当ですか!?」

「どっちだ!?」

「…多分だけどあっち」

そう言いルイージは左側の通路を指差す。

「…分かった。行ってみるか!」

「はい!」

兄弟の心の繋がりが示した先へと3人は走りだしたのだった。


~巨大貝渦巻通路~

貝の中というだけあり渦巻のようにカーブしている通路を3人はひたすら走る。とてつもなく大きな巻貝だ、中の通路も大きく広い。カーブしている為先が見通すことが出来ず、一体どこにいるのか後どれ程走ればいいのか、精神的な負担も大きくなっていく。

「それにしても広いなここ」

「もうかれこれ10分は走ってるような…」

そうぼやきつつも走っていると、単調な通路の終わりが訪れた。その理由が、彼等の見つめる先にあった。

「階段、ですね」

「結構先まで続いてそうだな…」

2人の言葉通り、螺旋状の階段が続いていたのだった。ここから更に上るのである。だがルイージは一人胸に手を当て、その階段の先を見つめていた。

(間違いない…兄さんはこの階段を上った先にいる)

彼の鼓動の高鳴りが、その勘を確信へと昇華させる。

(もうすぐ兄さんに会える…)

ルイージは1歩踏み出し階段を上ろうとした。その時…



『これ以上来ないで』


「「!?」」

どこからともなく誰かの声が通路に響いたのだ。3人は辺りを見回したが、人の気配は感じられなかった。

(女の人の声だ…でも、なんでこんな所に…?)

そうルイージは考え込む中リンクが叫んだ。

「誰だ!出てこい!」

声の主はリンクの怒号に応えることなく一言言い放つ。


『帰らないというのなら…


…追い出してあげる』


ドゴーーーーン!!!


キシャアアアアアア!!!!


声の主がそう言い放ったと同時に無数の巨大イカが壁を破壊し通路の中に入って来たのであった。

「ぎゃあああああ!!!」

「ちっ!挟まれたか」

「こうなったらガンガン上に行くしかないでしょ!」

そうピットは意気込むと階段を駆け上る!


「ウリャリャリャリャ!!」

ズバズバズバ!!

ピットは神弓を短剣に変え通せんぼしているイカ達の足を目にも留まらぬ速さで切り付けた!イカ達の足は1本も残らず切り落とされイカ達は動けずその場で悶えていた。

「さ!今の内に!」

「ありがとピット!」

ピットが開いた活路をルイージ達は急いで突き進んでいく。
だがイカ達も足を器用に使い、3人を猛スピードで追いかけてきた。

「ちっ、仕方無ぇ。これでも食らえ!」

リンクはそう言うとどこからともなく爆弾を取出しイカ達に投げつけた!

ドゴーーン!

キシャーーー!!

イカ達は突然の爆風に声を上げ、焼かれるような熱さに体をくねらせた。

「うっし、今の内だ!」

「とにかく駆け上がりましょう!」


ダダダッ!!

3人は無我夢中に階段を駆け上がった。途中、壁から突如現れるイカ達をすり抜けながらどんどん上を目指す。ぐるりぐるりと回る階段に足と三半規管が悲鳴を上げそうになる頃、この階段の終着点らしき大きな扉が現れた。
その扉は木製の白塗りで上側が丸くアーチになっておりどこか可愛らしい。
貝の中とは思えない雰囲気にルイージは若干戸惑いを覚えていた。そしてこの扉は更に彼を困惑させている。

(うわぁー…、凄い殺気だよ…)

この扉の奥から漂ってくる殺気がこの扉を介してルイージに伝わっているのだ。まるで入るなと言わんばかりに。

(は、入りたくない…)

そう思っている中…

「よし、入るか」
「ぇ、ちょ!?」

リンクは物怖じ一つせず扉のノブに手をかけたのだ。それに対しルイージは信じられないという表情で彼を見る。

「んだよ、入らないのか?」

「いやもうちょっと緊張感というものをだな!?」

「あー面倒くさいな、じゃあ薄緑、お前のタイミングで開けろよ」

「えぇ!?」

「じゃあ開けるぞ」
「ちょちょ!わ、分かった!開けるよ僕が!」

僕のタイミングというものがあるんだ!とよく分からないことを吐き捨てながら、ルイージはドアノブに手を伸ばし、握った。

なんだこいつとでも言いそうな眼をした2人をよそにルイージはふぅと息を吐き、目を閉じる。

ドアノブから伝わる、中からの猛烈な威圧感。だがそれと同時にあの兄がこの中にいるという確信もあった。もうここから立ち去りたくなるような衝動に耐えながらも、心の中で兄を思い、ドアノブをひねり重い扉を押した。


(兄さん…)


ギィイイイイ…
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