イカ


~スマブラ館マスターの部屋~

あの後3人はイカを全て倒し切り、他のメンバーと共にマリオの探索を行った。だが、何処を探してもマリオは見つからず、日も沈み切りこれ以上は危険と判断した一行は一度館に戻って来たのであった。

状況を聞いたマスターは余りの不測の事態に思わず溜息が漏れた。

「成程な…。これだけ長い時間浮かんでこないとなると、マリオはフィギュア状態になっている可能性もあるな」

彼等スマメンは、ダメージを食らいダウンするとフィギュアの状態に戻ってしまう。その間は誰かが目覚めさせない限り自力で動くのは不可能に近い。
そんな様子のマスターにフォックスは質問を投げかけた。

「マリオのいる場所は特定できないのか?」

「お!そうだな!ちょっとやってみるか。だがフィギュア化してるかもしれんとなると、ちょっと難しいかもな」

マスターは座っていた回転椅子をくるりと反転させ、パソコンのキーボードをカタカタと打ち始めた。

このパソコンはマスターが今までに創造した世界を監視・観察する為にマスター自身が創ったものだ。壁一面にもなる巨大なスクリーンにはいくつもの世界の映像が映っている。要は、この部屋自体が彼専用のモニタールームなのだ。

画面の真ん中にはスマブラの世界の地図が出されている。

「マリオの個体情報を打ち込んで探してみるか…とそうだ」

「「?」」

マスターは、目線はパソコンに向けられたままだが何か気になることがあったのか、一言付け加えるようにメンバーへ質問をした。


「ルイージはどうしたんだ?奴なら我先に兄の居場所を突き止めたがるはずなのに」

ここにいるのはフォックスとリンク、ネスの3人だ。マスターの言う通り、ルイージは兄のことになると我を忘れたかのようにそのことにのめり込む。そんな彼がいないのだからマスターが不思議がるのも頷ける。
その質問に対し、リンクは言いにくそうに答えた。

「あー、それが…」

「?どうしたというのだ?」



「何かアイツ、落ち込んじゃってるっぽいんだよ」


~スマブラ館バルコニー~

ルイージはバルコニーで1人、リンクに言われた言葉について考え込んでいた。

(もし兄さんが大事に至っていたら…無事ではないかもしれないって思ったら兄さんを信じていないってこと…?

じゃあ僕は兄さんを信じてないってこと…?)


一人、立ちつくし考え込む…。深く…まるで深い海の底へ潜る様に…。


そんなことは…ない…。だって…あの兄さんだ…。


じゃあ…なんでこんなモヤモヤした気持ちになるんだ…?
リンクの言葉を否定したかったのかな…?


…それは…僕自身が兄さんをこんな目に合わせてしまった僕自身を認めることが出来なかったからかも…。

どうしても、僕のせいで兄さんが死んでしまうなんてことは避けたかったから…。

あぁ、ほんとに…僕は…兄さんのことなんて全然考えてなかったんじゃないか…


結局は…自分のことを心配していたんじゃないか…!


「あら、こんな所にいらしたのね」

「!?」

ルイージは慌てて振り返ると、そこにはロゼッタが立っていた。回りを飛んでいるチコ達が心配そうにルイージを見つめていた。

「ろ、ロゼッタ…」

「どうしたのです?マリオを助けるのでしょう?」

「…僕は…。自分自身のことしか考えられない僕には…兄さんを助けに行く資格なんかないよ…」


結局…僕は兄さんを信じていなかったのだから…。


そうぽつりと呟き塞ぎ込んでしまったルイージへ、ロゼッタは一言問う。

「…では、貴方はマリオを心配していないのですか?」

「!?、そ、そんなことない!凄く心配してる!」

ルイージははっとしてロゼッタへ顔を向けた。そんなロゼッタはその言葉を聞きクスリと温かい笑みを浮かべた。

「貴方は、マリオのことをとても信頼している。でも、そんなマリオも人の子だということも貴方は知っているわ」

「え?」

「マリオはどんなに強くても貴方はマリオの事を心配している。だから戦うことよりもマリオの救出を先にしたかった」

「!?」

「人を信じるということはとても尊いことです。ですが、盲目的に信じるのはまた違うと思いますわ」

「ちょ、ちょっと待って!なんでそんなことを君が!?」

「うふふ、私は星の魔女。何でもお見通しですわ」

そう言いロゼッタはクスッと笑った。

「さて、いってらっしゃいルイージ」

「へ?」

「貴方は最初から迷う必要なんて無いのですよ」

「ど、どういうこと…?」

「貴方はただマリオを盲目的に信じている訳ではない。貴方の取った行動はマリオを真に信頼、心配しているからこそ」

「…」

「ですが、ちょっとヘタレな上に周りが見えなかったのも事実ですがね」

「か、返す言葉もありません…」

そうか…僕は…ただ単に兄さんを信じている訳じゃない…。心から心配して信頼してるから…なのか。

でも、僕の中の臆病な気持ちが、信頼する気持ちよりも勝っちゃったんだ。

だから…兄さんは…。

ルイージは自分の拳にグッと力を入れた。

(やっと分かった…今僕は、こんな所で考え込んでちゃいけないんだ…)
「ロゼッタありがとう!僕行ってくる!」

「えぇ、あら、そうだわ」

「?」

ロゼッタは持っていた杖を軽く一振りするとポンっという音と共に光る何かがルイージの目の前に現れた。その光る物体は徐々に光を無くし、ルイージの両手の上に収まった。

「こ、甲羅…?」

それは誰もが知っているノコノコの甲羅だった。

「えぇ、これはギャラクシー仕様で、水の中もすいすい進みますわ。ライトも点きますし」

「あ、ありがとう。でも海の深い所に行かなきゃならないから、これで行けるかどうか…」

「それも大ー丈ー夫!」

「!?」

うふふとにこやかに笑いながらやってきたのはパルテナだ。後ろにはピットもついてきている。神の力なのか最初から盗み聞きしていたのかは分からないが、ことを全て把握しているような物言いにルイージはただ戸惑うばかりだ。

「貴方に奇跡を授けてあげましょう。じゃじゃーん!」

ピコーン!

「じゃじゃーんって!?それとこのしょっぱいSE何!?」

「貴方に授けたのは海泳の奇跡です」
「ぇ、今授けられたの僕!?」

「これさえあればもう貴方は深海を漂うプランクトンですよ!」
「プランクトンって酷いな!?せめて魚にして!」

「ルイージさん!僕も一緒に行きます!マリオさんを救出しましょう!」

「ありがとうピット!助かるよ」

「それにパルテナ様は僕のいる所を常に把握できるんです!だからルイージさんがくたばっても僕さえいれば死んだ場所が分かるんです!」
「うん!なんか、もうちょっと良い役立ち方ってあると思うんだ僕!ほんと主従揃って言い方酷いな!」


そんな中…


「おい薄緑」

「「?」」

彼等…いやルイージに声をかけてきた人物がいたのだ。ルイージはただ1人そんな呼び名を使う人物の方に向き、名を呼んだ。

「リンク…」

リンクはどこかそっけなさそうにしているように見えた。ルイージは何故リンクがそんな様子なのか分からないでいると、リンクは口を開いた。

「俺は、俺の思った事をお前に言ったまでだ。…だが」

「?」

「俺の思っている信じると、お前の思っている信じるは少し違っていたみたいだな」

「うん、みたいだね」

「…謝るつもりは、ないからな」

「そんなこと、謝る程のことでもないよ」

そう言ってルイージは微笑んだ。それにつられてかリンクもフッと微笑み返し、一言そうか、と呟いた。2人のわだかまりがフッと無くなった瞬間だった。
そしてリンクは次第に真剣な顔つきへと変わる。

「マリオのいる位置が分かった。やはり海底にいるらしい」

「本当!?」

「だが詳しい位置までは分からないらしい。だからマスターは朝まで待てと言っているが、俺はもう行きたくて仕方がねぇ。…お前、今から一緒に行かないか…?」

「!?」

リンクのその言葉に、ルイージを始め、ここにいるメンバー全員が驚いた。

「り、リンクさん正気ですか?夜の海ですよ?方向感覚だって分からなくなっちゃいますよ!」

「人命がかかってんだ。うかうかしてられねぇ。それに、策もある」

「さ、策?」

「あぁ、だがお前が協力してくれないとこの策は成立しねぇ。…どうだ、乗るか…?」

「る、ルイージさん…」

ここにいるメンバー全員がルイージを見やる。ルイージは目を閉じ考えだした。

(夜の海…やっぱり危険だ…、でも…兄さんはもっと苦しんでいるのかもしれない…寂しがっているかも…。はやく…行かなきゃ…兄さんの所へ…!)

大好きな兄の顔が思い浮かぶ。
いつも優しい僕の兄さんに会いたい…。
そう思った途端、身体に力が溢れてくるような感覚をルイージは感じた。


「…分かった。行こう!兄さんの待っている海へ!」
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