イカ

~スマブラ館食堂~


「行方不明?」

巨大イカ襲撃事件から1週間が経ち、マスターやスマメンが尽力して街の復興に取り組んだ結果、街は異様な速さで落ち着きを取り戻しつつあった。まさに神の成せる業である。

朝食時はほぼ全員集まる為、全員に知ってもらいたい重要な知らせは大体この時に話すことになっている。穏やかな朝食の時間にはいささか似合わぬ言葉に声の主ルイージは首を傾げた。

「うん。2日程前の深夜から行方が分からなくなっているんだ。街の警察も寝る間を惜しんで探しているみたいだけど…」

そう言いながらマリオは行方不明者の顔写真を皆に見せた。

「名前はカイーナさん、20歳、女性。街の雑貨屋さんで働いていたみたいだよ」

スマメンは度々警察の協力依頼を受けている。今回のようなケースもそう珍しくはない。ファルコンは顔立ちの整っている女性の顔写真に感嘆の声をあげた。

「ほぅ、随分かわい娘ちゃんだな」

「案外彼氏とプチ旅行に行ってたりしてな」

「うーん、それは無いみたい。彼女の知り合い全員に聞いた所によると、二日前から彼女に会っていないそうだよ」

リンクの一言にマリオはその顔写真と一緒に送られてきたであろう資料を読みながらそう答えた。それを聞いていたファルコは腕組みをしながら質問をした。

「じゃあそいつに自殺願望とかは無かったのか?」

「えーと、彼女はいなくなる前日、友達と数日後に遊びに行く予定を立てていたみたいだね」

「じゃあ自殺の線は薄いってことですねマリオさん!」

「そのようだねピット」

「じゃあその魅力的な淑女は誰かに連れ去られてしまったということも考えられるね」

「それか…不慮の事故だな」

マルスとアイクが続けて考えを述べていく。そんな話に対し、興味なさそうにしている者、怖がる者、被害者に同情する者など反応は様々だ。マリオはこれ以上の質疑は見られないと感じこの場を締めることにした。

「スケジュールなんだけど、今日の試合も取りやめ。人員を2手に分かれて、片方は行方不明者の捜索、もう片方は街の復興活動に尽力してほしい。探索のリーダーは僕。復興のリーダーはフォックスに任せる。誰がどちらになるのかは掲示板に張り出してあるから、それを見て各自リーダーの指示に従って行動してくれ」

「あーこりゃ当分乱闘できそうにねぇな…」

「こればかりは仕方ないですねぇー、私たちの所為でもありますからねぇー」

ドンキーとヨッシーのいう通り、一週間前の事件の原因はスマブラが関係している。それは、マスターが誤ってスマッシュボールをステージではなく観客席に転送、その場にいた客がスマッシュボールを持ち去ってしまう事件が発生。スタジアムから出たスマッシュボールは客の手から離れ逃走、何故か海の方まで飛んでいってしまう。そしてたまたまいたイカが餌と勘違いしスマッシュボールを食べ巨大化してしまったのだ。


朝食を食べ終わったメンバーは自分の食器を片づけ始め、マリオに指示されたことに(渋々の奴もいるが)従う為食堂を後にし始めた。だがその中でルイージは1人だけ、うーんとうなりながら傾げていた首を更に傾げていた。

「どうしたんだいルイージ?」

「うーん…、あの写真の女の人…、どっかで見たような…?」

そのような一言にマリオは予想外な一言を言ったのだ。


「あぁ、あの子ね、この間僕等に一緒に写真撮ってほしいって言ってた子だよ」


・・・。


「あああああ!」

ルイージは思い出したのか、手をポンと叩き納得のポーズを取った。

「思い出した!兄さんと一緒に写真を撮りたがっていた子だね」

そう、彼等双子は彼女に会っていたのだ。約2週間程前の話である。

「うん、ルイージが撮ってくれてたもんね」

2人が街に買い物をしている最中、彼女が写真を一緒に取らせてほしいと申し出てきたのである。どうやらマリオのファンだったらしい。

「僕が撮ってあげたらあの子、一生の宝物にするって言ってたよね確か」

「そういえば…言ってたかもね」

「…やっぱり、そんな子が自殺なんかする訳がないもんね」

「うん、僕もそう思う」

マリオも強く頷いた。
きっと何らかの事件に巻き込まれてしまったんだ、とルイージは思った。そして、彼女を助けてあげたいと心の中で強くおもったのだった。


~海岸~


ザザーーーン…

ザザーーーン…


切り立った崖が続く海岸に、探索組の数名がやってきていた。

サスペンスのドラマで出てきそうな、こんな所から落ちたら常人は命を落とすような高さにルイージは頭がくらくらし、足がすくんだ。

二手に分かれても人数が多いため、数グループに分かれ探索を続けていたが、日が沈む頃には大体の場所を探し終え、残すはこの海岸一帯となっていたのである。

「た、高いな…ここ…」
「わっ!!」
「ぎゃあああああああああ!!!」

「あはははは!ルイージおもしろーい!!」

「お、驚かさないでよネス…!君のせいで今絶対心臓縮んだぞ…っ!」

「えー?そんなこと無いってー」

「本当だもん!キュ!ってなったんだから心臓がっ!!キュ!って!」

「大人気ねぇなぁおい……て、何してんだマリオ?」

崖の近くでうずくまり何か見ているマリオを見つけたリンクは、マリオに近寄りながらそう質問をした。

「リンク、これ見て」

「?」

マリオがそう言い指差した先には、わずかだが赤黒い、何かが擦れたような跡が崖の岩に付着しているのが見えたのだ。

「何だこりゃ?」

「多分、血だと思う」

「な!?なんでこんな所に…!?しかも…」

そう言い淀んだリンクの見つめる先には、血の跡がある程度の間隔でそのまま崖まで続いている。まるで足をずりながら歩いたかのように。そしてその血痕は崖の前で止まった形跡が見あたらず、そのまま海へと続いていたのだった。

「…何かがここから落ちた…ということになるね」

マリオは、リンクの言えなかった続きを静かに口にした。


ゴポゴポ…


マリオはその後、今朝読んだ資料に書いてあったことを淡々と語り出したのだ。

「彼女は何の靴を履いて行ったのか、警察は分からないみたいなんだ」

「?、何故だ?」

「一緒に住んでいる家族が証言したみたいだよ。…娘の持っている靴は全て家にあるって」

「…へ?」


ゴポゴポゴポ…


「?」

「どうしたんだいネス…?何か海にいた?」

「ねぇルイージ、あそこブクブクってなってるんだよね」

「へ?どこ?」

「ほら、あそこの海面!」


「出た時に買ったのかもしれないじゃないか…?」

「財布もキャッシュカードも持たずに?しかも深夜だよ?」

「ぁ、そういえばそうだったな」

「うん…だから…警察はこう考えているんだ…」


ゴポポポゴポポポ…!!


「あ、本当だ。どんどん気泡の量が多くなってるね?」

「な、何かこれヤバい!何か来そうだよ…!?」

「え、えええ!?」




「彼女は裸足で出て行ったって」

「まさか…、この血の跡って…」




ザバーーーーーーン!!!!
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