ケンカ

ルイージの紫色の爪がマリオの首をかき切ろうとしたその瞬間…。


ピタ…


『な、何いいいい!?』


ルイージの爪はマリオの首元に届くことも無く、それ所か、彼自身硬直したかのように動きを止めたのだ。

『くそっ!俺がこんな弱っちい男ごときにいいいいい!!』

「ルイージ!」

魔物であろうルイージの叫び声により察したか、マリオは弟の名を呼び少しだけ安堵した。

「に、兄さん…!僕がコイツを止めている間に…僕ごとコイツを攻撃してくれ…!」

「!?」

『な、何だとおおお!?』

「コイツが僕の中にいる限り…、コイツは僕と同じ痛みを感じるはずだ…!!それに僕が今抑えているから…変な力は出せないはず…!」

『ハッ!兄貴が弟を傷つけれるもんか!そんなもんだろう!兄弟ってよおお!!』

だが、そんな魔物の一言に、ルイージは関係ないかのように叫んだのだ。


「兄さん!!お願いだ!

本気で僕を止めてくれええええええ!!!」


『!!?』


(ルイージ…)


マリオは思った。

彼の考えて考え抜いた決死の判断と決意に、僕も本気で応えなければいけないと…。


「…分かった!!」

「!?」

『な、なんだとおおおおお!?』


マリオは一言そう告げると、右手を空へ掲げ、手を広げた。

すると、掌の上に赤く熱い炎が球状に集まり始めたのだ。

その火球はどんどん大きく巨大になり…しまいには…


『な、何というでかさ…』


マリオの身体を優に超え、それはまるで太陽のように、巨大な巨大な業火球と化していたのだ。


(ちょ、この大きさは洒落になんないぞ…!;)

「さぁ!いくよ!ルイージ!」

「ちょ、ちょっと待って兄さんそれいくらなんでも大き過ぎ…」
「スーパージャイアントファイアーボール!!
いっけええええ!!!」


そう叫び、マリオはその巨大な炎を愛すべき弟に投げた!

ドゴオオオオオオオオオオオン!!


「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」


案の定森の中心は大爆発を起こし、様々な声が混ざり合った断末魔はこれでもかという程遠くまで響き渡ったのであった。


~スマブラ館医務室~

「全く…、よくあんな大爆発で生きながらえたもんだな…」

マスターはそう言い呆れつつも、安堵の溜息を漏らしながら「悪運の強い奴等だ…」ともう一言付け加えたのだった。

ご存じの通り、マリオの超業火球により森の中心は大爆発を起こし大炎上。森の生命エネルギーを吸っていたにしろ封印明けで本調子でなかった上、諸に攻撃を食らったルイージの中にいた魔物は、激しい魔力の炎に耐えきれず、魂もろとも燃え尽きてしまったようだ。

そして当のルイージは、全身大火傷を負い全身包帯ぐるぐる巻きの状態だ。絶対安静である。だが…


「兄さん!あれは流石に酷いよ!もうちょっと加減してくれたっていいじゃないか!!」

意識はあるようで、本当に怪我人か?と思えるほどの大声で兄に訴えていた。


「だって"本気で"って言ったじゃないか。それに、あの魔物が死滅して尚且つルイージが"できるだけ"無事でいられる程度には加減したつもりだよ」

「うっ…」

確かに、本気の兄の力はあれ程じゃない。これも、兄が自分の意思を尊重して考え抜いた結論なのだ。

いつもののんびりとした口調で返された正論(?)に、ルイージはぐぅの音も出ないでいた。


「後…」

「?」

突然マリオは、先程とは違い軽く俯き、申し訳なさそうな表情で一言つぶやいた。

それにルイージはハッとし、兄を見やる。

「約束…守れてなくて悪かった…。また僕は1人で抱え込もうとしていたみたいだ」

君には心配かけたね…と呟きながらも、彼の目線は伏せたままだ。

突然の兄からの謝罪にルイージも毒気を抜かれたようで、罰が悪そうに彼も視線を落とした。

「僕も…ついカッとなって…その…、殴って…ごめんなさい…」

2人から紡ぎだされた本当の言葉。

その言葉と態度からお互い申し訳ないと思っていることは、周りのメンバーから見ても明らかだった。

そんな雰囲気の中…


ギュ…


「「…!?」」

2人の手をそっと握った人物がいた。


「ぴ、ピーチ姫…」


そう呟くように言ったマリオを始め、周りのメンバー全員が驚く中、ピーチはマリオとルイージの握った手を軽く引き寄せた。


そして2つの手はピーチの手の中で重なり、1つになった。


「「ぁ…」」

2人が唖然とする中、ピーチは微笑みながら…こう言った。


「もう2人共謝ったんだし、これで仲直りね!」


彼女の一言に一時の静寂が包まれたが…すぐにあちらこちらから優しさを含んだ小さな笑いが零れ出した。
そしてその当人達も例外ではなかった。

「ぷふ…本当に、姫には敵いませんね、ふふふ…」

「ははは…本当…!」

そう笑いながら2人は、姫に握ってもらったお互いの手を改めて強く握ったのであった。


おわり

次、あとがきとおまけ
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