ケンカ


「もう!ルイージ!!起きなさーい!!」

「あ!アバババババ!!」

ドテーン!

ボクはお兄ちゃんに大声で起こされてベッドからおっこちた。

「朝ごはんできたよ!早く起きないとまた学校に遅れちゃうよ?」

そう言ってお兄ちゃんは下におりて行った。


僕は、昔からマイペースで、何をするにも周りの子よりワンテンポ遅い子だった。

その中でも早起きは大の苦手で、いつも兄さんに大声で起こされていた。

マイペースな僕に対し兄さんはとてもしっかり者で、病気がちな里親のお母さんの代わりに、小さい頃から色んな家事をこなしていたんだ。


1階からきているおいしそうなニオイでいっきに眠気がどっかへ行き、おなかのなる音まで聞こえてきた。

ボクはいそいで起き上がり、1階におりたお兄ちゃんの後をおいかけた。


…あの頃はこうした毎日がずっと続くと思っていたんだ。



そしてその数年後…


母さんが、とうとう病気で死んだ。


僕もとても落ち込んだけど、兄さんも僕以上に落ち込んでいたのを知っていた。

絶対にそれを誰にも見せることは無かったけど、時折1人で隠れて泣いている所を何度か見ていたからだ。
そして、その度に…

『僕のせいだ…。もっと僕が…もっと頑張っていれば…母さんは…』

そんな事を呟いているのも聞いていた。僕はそんな兄さんに何て声をかけていいのか、分からないでいた。


だけど…その1週間後…


「僕さ、医者を、目指してみようと思うんだ」


自分達の部屋で、何気ない会話をしていた中。

僕に、そんな一言を言ったんだ。


あんなに冒険家になりたいって言っていた兄さんが…医者を…?


その時だけ、時間が止まったような感覚さえ覚えた。

窓からは、とても綺麗な夕日が僕らを見守っていたのをよく覚えている。

「僕が医者になったら、母さんのような病気に苦しんでいる人たちを助けたい。…もう、あんな思いは、他の人に味わってもらいたくないんだ」

そう言いながら兄さんは、窓から見える夕日を見つめていた。

兄さんの表情は真剣そのもので、この1週間で考え抜いて出した答えなのだと僕は感じた。


そんな兄さんの言葉に、僕も誠意を持って返さなければならない。


僕だってこの一週間何も考えていなかった訳じゃない。


僕に出来ること…


それは…


「じゃあ、僕は…皆の事を助ける兄さんを、守って、支えたい」


「ルイージ…」


そう、それは…、僕がこの一週間で見て考え抜いた答えだ。


「もう兄さんが1人で悲しまないように、頑張りすぎて壊れてしまわないように、守って支えていきたいんだ」


そうして僕は、まっすぐに兄さんの大きな瞳を見つめた。

始めは驚いていたものの、段々表情は和らいでいくのが分かった。


「そうか…ルイージらしいね…」


そう言う兄さんはどこか悲しげで、でもそれを包み隠すような大きな優しさに満ちた表情をしていた。

「だから約束だよ。1人で無茶は絶対にしないで!僕も、これから家事も覚えて、ちょっとでも兄さんに楽してもらいたいから…!」

「分かった…約束する…!」


ザザザ…


それからちょっとずつだけど、僕は家事を覚えていった。

そして…

「兄さん!起きてよ!早くしないと朝ごはん冷めちゃうよ!」

「うーん…分かった…」

早起きもちょっとずつ慣れて、今では兄さんよりも早く起きることが出来る。


ザザザザ…

『……ルイージ…』


僕は今までも、そして、これからも…


兄さんを、守って、支えていきたい…。


心から、そう思うんだ。






『ルイージ!!起きなさーい!!!』


!?


そうか…僕も起きなくちゃ…



僕の、できることをする為にね…
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