口は災いの…


マリオと話をしてから30分後、二人は乱闘ステージ内のレースサーキットに来ていた。

「ここなら思う存分練習ができると思うよ」

にこにことそう言うマリオとは対照的に、ガノンは戸惑いを隠せないでいた。マリオの隣に停めてある大型バイクが異様な存在感を放っていたからだ。

「おい、このバイクはどうしたんだ…?」

「準備するから待ってて」とマリオに言われて待つこと30分。「おまたせ」と連れて来られた先に目に飛び込んできた物がこのバイクだ。たった30分でこんな大型のバイクを用意していたとは思っておらず少々驚いたガノンであった。ガノンの驚きに満ちた言葉にマリオは「あぁ、これ?」と何でもなさそうに答えた。

「マスターに聞いてみたんだよ。ガノンに合いそうなバイク作れない?って。そしたらこのバイクを出してくれたんだ」

「格好良いバイクだよねぇ」としみじみ言うマリオに対し、ガノンは未だ抜けない驚きから「そ、そうだな…」と返すに留まった。

「じゃあ、早速だけど…」とマリオはガノンにバイクの操作方法を教えていく。実演も兼ねたマリオの説明はガノンにとっては分かりやすかったらしく、自分から頼んだという負い目も相まって真剣にマリオの話を聞くガノンであった。余りの珍しさにマリオも最初こそ驚いていたが、彼の熱心さに感心したのか説明もより丁寧になっていったのだった。


「だいぶ上手になったね」

にこにこと話しかけるマリオに対し、ガノンは満更でもないのか、ニヤッと口角を上げる。
マリオの説明後バイクに乗り練習をしたガノンであったが、持ち前のスペックからか瞬く間に乗りこなしサーキットを3周しカートレースに参加できる程には上達していたのであった。

「ふん、言ったであろう。興味がなかったからやらなかっただけだとな」

「確かに、これならクッパもその言葉に納得してくれるね」

そう言ってふふと笑うマリオに対して、ガノンは何か閃いたのかニヤリと笑みを浮かべたのだった。

「おいマリオ」

「ん?」

「お前、俺の後に乗れ」


・・・?


いきなり言われたその言葉にマリオは一瞬どう反応して良いのか分からなかった。

「…え?う、後に?」

「そうだ」

「な、何で?」

「いいから、乗れ」

そんな毅然とした態度な彼の言葉から来る圧に押され、マリオは渋々「分かった…」と返しながら戸惑いつつもガノンの後に跨る。
ガノンの乗っているバイクは大型の為シートもゆったり余裕のあるものになってはいるものの、大の男二人が乗るとなると少し窮屈だ。

だがそんな中ガノンは「俺に掴まれ」と更に言ってくる。彼の意図が分からず(えぇ…)と、内心戸惑うばかりのマリオである。だが相変わらず彼からの圧が凄く、(何故こんな事になっているのだろうか…)と思いつつも仕方なく彼の言う通りにした。後から彼の腰に手を回し「いいよ」と彼に伝える。

「よし、そのままでいろ」

「?」

今までの彼の言動を不思議に思いながらも、マリオは言われた通りの状態で彼を見上げる。
背中ごしのガノンは何やらポケットから何かを取り出した様で、取り出した物を彼等の頭上に掲げたのだ。

(携帯…?)

頭上に掲げられ初めて見えた物は、マスターからファイターへ支給された折りたたみ携帯だった。そして携帯の画面にはインカメラで写されている自分達の姿…。

「ぇ、何、自撮り?」

「おい、カメラに顔向けろ、撮るぞ」

「え、うん…」

彼に促されるままカメラの方を見ると、ガノンの携帯からカシャカシャと撮影したであろう音が聞こえた。
戸惑うマリオをそのままに、ガノンは何やら携帯を操作している。

「え、何?それどうするの?」

「少し待っていろ…」

「少しって、このままで?」

「そうだ」

「…理由を聞いても…?」

「その内分かる」

そう言いながら此方を見やりくくくと笑うガノンに(あんなに悪そうで怖い笑顔見たことない…)と、困惑と恐怖でそれ以上聞けないマリオであった。

だがそんな中、遠くからブーンとバイク特有の高いモーター音が響いてきたのだ。
物凄い勢いで此方に向かっているのか、走行音が徐々に大きくなっているのが分かる。

「?、誰だろ?」

こんな所に急いでやってくるようなファイターに心当たりが全く無かった為、マリオは後を振り向こうとした瞬間…。

「来たか…」とガノンは薄ら笑いを浮かべながらそう呟いたのだ。

「え?何?誰が…!?」とマリオが質問している中、ガノンはブーン…!とエンジンをふかす。

「ね、ねぇ!ガノン…」
「出すぞ…しっかり捕まってろ…!」

「ちょっ…!?」とマリオが言いかけた途端、色々と混乱しているマリオの思考を更に置いて行くかの様に、ガノンはアクセルを思いっきり全開にしたのだ。当然の様に前輪が軽く浮き、驚きと恐怖からか言いたかった言葉は「ひっ」と小さな悲鳴と引き換えに引っ込んでしまった。

当のガノンは開幕ウィリーを乗りこなし、難なく猛スピードで出発した。
元々乗馬もしているからかバランス感覚が良く、行動の端々から彼の持ち前のスペックの高さが垣間見える。本当にただバイクの知識が無かっただけだというのが分かる瞬間であった。
彼本人もこの状況が楽しいのか「フハハハハッ!」と高笑いなんかも風に乗って聞こえてくる。反対にマリオは荒い運転と猛スピードで振り落とされないようガノンにぎゅっとしがみ付くのにすら必死であった。

(ひいぃっ!もう色々と怖い…っ!ていうか何でそんなに楽しそうなんだ…!?)

猛スピードで走っているのが楽しいのか、後のバイクに追いかけられているのが楽しいのか、はたまた両方か。
そもそもこの状況は一体何なのか、なぜこんな恐ろしい目に合わなければいけないのか、彼の思惑は一体何なのか…。
全てが納得も理解も出来ていない状況にマリオはただただ恐怖していた。

だがそんな中、「おのれー!!!ガノンーッッ!!!」と後ろから聞き覚えのある怒声が聞こえてくる。

「へ…?」

思わずマリオが振り返ると、カートレースで使用しているバイクに乗ったクッパが鬼の形相でこちらに迫っていた。勿論彼方も猛スピードである。

「く、クッパ…?」

先程から此方を追っていた者の正体がクッパであることに、マリオは益々混乱していた。
本日マリオはクッパに対し怒らせるような言動を取っていた訳でもない、何ならクッパはマリオにではなくガノンに怒っている。ではガノンは一体何をしたというのか…。

(クッパのあの怒り様…、相当なやらかしをしなければあそこまで怒ることは無いだろうからなぁ…。いや本当に何をしたんだ…)

そう思いつつ目の前の恐怖対象を見やりながら、さっぱり訳が分かっていないマリオであった。

謎の追いかけっこを繰り広げていた二台のバイクであるが、クッパは重量級故の最高速度を生かしとうとうガノンに追いついた。二人が乗っているバイクに並走したクッパはキッとこちらを睨みながら叫んだ。

「ガノン!!貴様という奴は!!マリオを返すのだ!!」

・・・?

「はい?」

クッパの一言にマリオの目が点になる。何故ここで自分の名前が出てくるのか、クッパの中でどういう解釈がなされているのか、全てにおいて意味が分からなかった。頭の中が宇宙空間の様に思考が止まっている中、恐らくこの状況を作り出したであろう目の前の男が「ふはははは!!」と心底面白いのか狂ったように笑い出した。

「メールにも書いた筈だぁ!デート中だとな!」

・・・??

「…え?」

マリオは彼の言葉の意味が分からず更に固まる。
先程の自撮りをメールで送ったのは話から分かるが、デートという単語が何故飛び出てくるのか意味が分からなかった。そもそもあのガノンから放たれた「デート」という言葉のインパクトが大きすぎる。一体何がどうなってそんなことになってしまっているのか、次々と襲い掛かる困惑の波に翻弄されているマリオであった。

そんなマリオを置いてガノンとクッパはますますヒートアップしていく。

「おい!!今すぐ止まれ!!」

「ふはは!どうしたそんなに取り乱しおって!」

「貴様~!!当てつけか!!?」

「言っている意味が分からんなぁ!!」

「兎に角止まれ!マリオを今すぐ降ろすのだ!」

「ははは!何故貴様にそんなことを言われなければならんのだぁ!!」

「五月蠅い!!いいからさっさと止まるのだ!!!」

現在猛スピードの中での会話であり、最早悲鳴に近いバイクのモーター音に加えスピードによる風の音が五月蠅く二人とも大声で話さなければ聞き取れない程である。
だがそんなのお構いなしに舌戦上でもコース上でもデッドヒートを繰り広げていた二人であるが、とうとうクッパがしびれを切らした。

「マリオ!こっちに来るのだ!!」

「えぇ!?」

大きなカーブが終わり直線になった所でクッパがまた追いつき並走した途端、そう言いながらクッパはマリオに手を差し伸べたのだ。

直線でバイクが安定していると言っても猛スピードの中バイクからバイクへ飛び移るというのは流石のマリオでも危険極まりない行為だ。今までの二人の言動に困惑&ビビり散らかしているマリオにとってこれには(いやいやこれは流石に…)と躊躇してしまっていた。

「こっちだ!」

そんなマリオにヤキモキしていたクッパは更に近づき、必死にガノンにしがみ付いているマリオの腕を掴もうとしてきたのだ。

だがそれに気付いたガノンは瞬時にクッパとの車間を取り、クッパの手は空を切った。

「ちぃっ!邪魔をするな!!」

「邪魔をしているのは貴様ではないかぁ!?」

「元々吹っかけているのはそっちなのだ!!」

「その元々の原因を作っているのも貴様だ!!」


「ちょ!ちょっと前!前!」

「ぐぬうううう!!」とお互いいがみ合っていた二人であったが、マリオの声で我に帰った時には既に遅かった。

2台のバイクはコースアウトをし、フェンス代わりのカラフルなブラックが目の前にまで迫っていたのだ。

「「うわああああああああ!!!?」」

慌ててブレーキをかけハンドルを切るも避け切ることが出来ず二台ともブロックに激突することになったのだった。
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