憧れの貴方へ


「ルイージさん!僕!約束通りやっと大人になってルイージさんと吊り合うヨッシーになったと思うんです!」

「う、うん?」

「ルイージさん!」

「は、はいっ!?」

「どうか僕と!お付き合いしてください!!」

「…はい??」

その差し出された手をルイージは掴む事はできなかった。ただただそのがっしりとした掌を見つめる事しかできなかった。
それは、彼に全く身に覚えが無いからである。初めて会ったヨッシーが約束だとか言っているが、彼にはまっったく身に覚えが無いのだ。

それ故にルイージの頭の中は混乱を極めていた。

「え、え!?…それは…あの…本気で…?」

「はい!!本気も本気!大マジです!!」

「え、ちょ、ええええええ!!!?」

「付き合って頂けますか!?」

「い、いや、ちょ、待って!そんな急に…」

「いえ!全然急なんかじゃありませんよ!こんなにも僕は貴方のことを思いながらずっと待ってました!」

「え、いや、本当にしら…」
「お付き合い頂けますか!?」

ルイージの言葉に被せるようにソイツは大きな声でそう迫る。あまりの気圧にルイージはたじろぎ白旗を上げるしかなかった。

「ご、…ごめんなさい今急いでるんですー!」
(いやいや待って、待ってよほんと、本当、本当に身に覚えが無い…!!何がどういう事なんだ…!?)

ルイージはそう考えながらも逃げていた。それはもう本能に身を任せるまま全速力で街中を駆け抜けていた。

(兎に角逃げよう…!アイツはヤバい…!ゴリゴリにマッチョで人の話を聞かない奴はヤバすぎる…!)

「ルイージさーん!どうしたんですかぁー!!」

「うひゃあああああ!!?」

ルイージが全速力で逃げているにも関わらず、振り返るとすぐ真後ろに奴はいた。
堪らずルイージは叫びながらも速度を更に上げ何とか奴の猛追から逃れようとするものの、抜群の脚力を誇るヨッシー(しかも何故かムキムキ)の追従から逃れる術がほぼ無いに等しい。それ故に離れる所か、寧ろ更に距離を縮めてきた。
それを見てしまったルイージは恐怖した。いやそれよりも驚愕に近いのかもしれない。その恐怖体験から冷や汗が吹き出し、緊張状態から全速力で逃げて蓄積されていた疲れが一気に吹き飛んだ。

(何とかしてアイツを巻いて家に帰るんだ…!)

そう思いながらルイージは右手に下げているビニール袋を見た。その袋の中には白い紙箱。
そしてその紙箱の中には、キノコタウンで人気を誇るスイーツ店の限定スイーツが入っていた。

(この為だけに二時間も並んだんだ!早く帰って兄さんとこの限定スイーツを食べるんだ…!)

そうルイージは意気込むが中々打開案が出てこない。
だがそうしている内に「ルイージさあああん!待ってくださああああい!追いかけっこですかあああああ!?」とすぐ後ろから奴の大きい声が聞こえてきた。
此方は全速力で走っているのに恐怖対象と一向に距離が開かないというのは中々にキツイものである。こんなホラーゲームあったら絶対に買わない…!とルイージが思っている中、奴は「よーし!じゃあ捕まえちゃうぞ☆」とホラーゲーム的に即死待ったなしの発言(キメ顔付)をかましてきた。

そして奴はその発言を皮切りに本気を出し始めたのである。

ルイージはいきなり目の前に出現した黒い影に気付いたのだ。
当然いきなりの事で驚いたルイージは「うわあああ!?」と叫びながら急ブレーキをかけた。咄嗟の行動でその影と衝突を免れたルイージであったが、その影の正体に驚きを隠せなかった。

奴だ。

何故か今まで後で走っていた奴が突然ルイージの目の前に立ちはだかっていたのだ。
奴はルイージが猛スピードで駆け抜けている中、自身の強靭な脚で地面を蹴り大ジャンプをした。その高速ジャンプでルイージの行く手を塞いだのである。

「さぁルイージさん!僕の胸に飛び込んで来てくださいっ!」

奴は満面の笑みでそう言い、両手を大きく広げてルイージを待っていた。

(あ、危なかった…!後もう少しで抱きついちゃう所だった…!!)

後少し止まるタイミングが違ったら起こってしまったであろう未来にルイージは戦慄した。
このまま抱きついていたらあの強靭な腕で抱きしめられ肋を数本やられていたかもしれない。まるでお菓子のように軽くポキポキ折られてしまう自らの肋骨を想像してしまったルイージの背筋はひやりと凍る。全身から嫌な汗まで出てきた。

ルイージは高速で回れ右しもと来た道を突っ走る。

「ああっ、待ってくださあああい!ルイージさああああん!!」

奴が叫んでいるのを背中で聞きながらルイージは必死に逃走経路を考えまくっていた。

(と、ととと兎に角ここからすぐの路地に入ろう…!そこは入り組んでいるから奴をまけるかも…!)

そう思ったルイージは急いで角を曲がり路地裏に入り込む。ここの住宅街は格安で入れるアパートや小さい家が所狭しと立ち並ぶエリアであった。その為ここの通路も細くて狭いが迷路のように入り組み、初めての者では確実に迷う。ルイージ本人もかつては何度か迷ったこともあるというお墨付きである。そしてルイージはここに入って何度目かの角を曲がった辺りから奴がいなくなったので少しホッとしていたのだった。

(ふぅ、これで一安心かな。とりあえずこのまま家にかえ…)

帰ろう、と思いかけたルイージの思考が一瞬真っ白になった。頭上からガシャーンと何かが壊れる音が辺りに響き渡ったのである。心臓が飛び出るほどビックリしつつも音がした方へ目を向けると、なんと奴がボロいアパートの屋上から飛び出てきたのである。
それを見てルイージは愕然とした。もはや迷路と化している街の中、逃げ回っているルイージをピンポイントで探し当てたのである。奴は視覚だけでなく嗅覚を頼りにここへ辿り着いたというのか。そして奴は3階建ての高さをものともせず無事着地。ルイージはすぐ後の壁まで後ずさりした。

(さ、流石スーパードラゴン。…ていやいや違うよ、やばいやばい!!これはヤバい!!逃げな…)

逃げなきゃ、と思った瞬間、目の前に着地したヨッシーが物凄い勢いで目の前まで迫ってきた。そして奴は左腕を振り上げた後まるで掌底のように左手を突き出してきたのである。

(あ、終わった…)

その一瞬でルイージは死を覚悟した。
あまりの速さに避けるのはおろか身体が反応すら出来ない。そして奴の左手はどうやらルイージの頭に向かってきていた。奴の一撃を頭に喰らったら確実に死ぬと彼自身の本能がそう言っている。今までの思い出が走馬灯のようにルイージの頭の中を駆け抜けていった。

ああ、死ぬ前にせめてこの限定スイーツを兄さんと食べたかった…。と現実逃避のようにルイージが思った瞬間、奴の左手がルイージの右頬を掠めすぐ後ろの壁にドゴーン!!と激突したのだった。
壁はその衝撃に耐え切れずガラガラと崩れる音がしたが、ルイージはその壁を見ることができずにいた。何故なら奴の顔がルイージの顔の間近に迫り、その上奴の熱い眼差しがずっとルイージの目に向けられていたからである。ルイージはまるで蛇に睨まれた蛙のようにビビって動けず奴の熱い視線すら避けられなかったのだ。

そしてビビり過ぎて動けないルイージを熱い目で見つめていた奴はルイージを見つめたままニヤリと口角を上げ、「つーかまえた☆」と言い放ったのだった。

(こ、殺される…!!)

その一言はルイージにとって恐怖でしかなかった。あまりの恐怖に叫ぶことも出来ず、ヒュッと息を飲み込んだ。このまま魂が抜け立ったまま気絶してもおかしくはなかった。
だがルイージは既の所で思い留まり全速力で走り出す。後から「あぁ!待って!折角の壁ドンが…!」とか何かよく分からないことを言っていたが、色々考えても己の恐怖を煽るだけで損だと踏み兎に角突っ走った。

そして角を二つ程曲がった辺りで土管に入り、奴の気配が遠のいた所で急いで家路に着いたルイージであった。
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