憧れの貴方へ
思い返せば三年前、まだまだ生まれて数年のチビヨッシーだった僕はお母さんと一緒に初めてキノコタウンに遊びに来た。
だけど初めて来たキノコタウンで迷子になった上怖いノコノコ達に絡まれてしまったんだ。
まだまだ幼くて非力だった僕は、急に絡んできたノコノコ達からのイジメにただただ身体を丸めて耐えるしかなかった。路地裏で周りには誰もいなくて助けなんてきてくれる状況じゃなかったのも大きい。
僕は誰か助けて…!って思いながら背中の痛みに耐えていたんだ。
そんな中颯爽と助けてくれたのが、緑の服を着た彼だったんだ。
僕はそんな彼の後ろ姿をポカンと見ていた。
だってあっという間にノコノコ達を倒して僕を救い出してくれたんだよ?
背中を丸めていた僕は最初何が起こったのかさっぱり分からなかったけど、見上げて見つけたのがのびているクッパ軍とその中で唯一立っている彼だった。
そして今まで後ろ姿しか見えなかった彼がこっちを振り返ったと思ったら、僕の目の前まで歩いてきてしゃがんだんだ。そして「大丈夫かい?」って聞きながら手を差し出してきたんだ。その時、僕はトクンッて胸が高鳴ったんだ。
その時の優しい微笑みが、吸い込まれそうな程綺麗な青い瞳が、僕の胸をキュンとさせたんだ。
実際にはほんの一瞬の出来事なのかもしれない。
でもその一瞬で僕は彼に心を奪われてしまったのだ。
その時の僕は何故こんなにドキドキしているのか分からず戸惑いつつも、「は、はひっ!」と残念でかみかみな返事をしていたのを覚えている。
僕の変な返事に彼はクスリと笑って「そうか、それなら良かった」と言ってくれて僕の心は一気に舞い上がった。そして僕の手を取り立ち上がらせた後、「はい」と僕へ何かをくれたんだ。
僕は目線を彼から掌に落とすと、それは赤いキノコだった。
「このキノコを食べると怪我が早く治るよ」
「あ、ありがとう…」
僕がそうほっぺを赤くしながらお礼を言うと、彼はニコリと微笑んだ。
「どういたしまして。君、もしかして迷子?」
「う、うん。お母さんと来たんだけど、はぐれちゃった」
「そうか、怖かったね。此処は危ないから、僕と一緒に君のお母さんの所まで行こう」
「うん!」
こうして僕は彼と手を繋いで路地裏から無事抜け出してお母さんを探した。お母さんを見つけるまでの間もずっと手を繋いでくれていてとてもドキドキしたけど、凄く幸せな気分だったんだ。このままずっと一緒にいたいって思った位に嬉しかったんだ。
暫くしてお母さんを見つける事ができた僕たちは、当たり前だけど別れの時が来ちゃったんだ。
もう凄く悲しかったよ。ずっと僕のことを探してたお母さんが彼にお礼を言ってる横で僕はシュンとしてた。
「では、僕はこれで」
「本当にありがとうございました!ほら、アンタもお礼を言いなさいっ」
「…いで」
「「?」」
「お願い!行かないで!お兄さん!僕と結婚してよ!一緒に島へ行こう!」
僕のその言葉に、彼は勿論だけどお母さんはもっと驚いていたらしい(僕はその時必死だったしずっと彼しか見ていなかった)。余りにも驚きすぎて口をパクパクさせていたのだとか。そして「あん時はビックリしたわー。アンタの頭がイカれたのか、それともあの人がアンタを手篭めにしたのか、行くのは病院か警察か?とか色々考えたわよ」と今でも言われる。母にとっては修羅場だったようだ。
話が逸れたな。えっと、兎に角僕は彼に居なくなってほしくなくて、彼に聞いてもらえるよう叫ぶように喋った。
「僕、お兄さんのこと好きになっちゃったんだ!結婚したら一緒にいれるでしょ!?だから行かないで!」
何でこんなに彼の事が好きなのか分からない。でもこのドキドキとフワッとする位幸せな気持ちを無くしたくなくて、僕は彼と一緒にいたいって強く思ったんだ。
でも、僕の故郷、ヨースター島へ帰らないといけない。もう彼と会えないと思ったら凄く悲しくなった。だから彼と結婚したら一緒に住めるかもってその時思ったんだよね。
お母さんが「急に何言ってるの…!?」と怒る中、僕は「お願いします!」って頭を下げて懸命にお願いしてた。
肝心の彼はというと、急に言われて凄く驚き戸惑っていたようだけど、拒絶だけはしてくれないでいたんだ。
彼は暫く考えこんだ後、僕の前に来てかがんで、僕と同じ目線になってくれた。
「君が僕のことを好きになってくれてとても嬉しいよ。そんな素直な君を助けることができて本当に良かったと思う」
そう彼に言われて、僕は頬っぺたが熱くなる程照れていた。彼は話を続ける。
「結婚のことを知っているなんて君は色々知っているんだね。でも、君はまだチビヨッシーだから、今結婚は難しい。それに君が大きくなったら本当に大切な人ができるかもしれない。だから今はいっぱい遊んで、いっぱい勉強して、いっぱい経験を積んで、君のお父さんやお母さんの様に素敵な大人にならないといけないね」
「素敵な大人?」
「うん、そうだよ。君が素敵な大人になった時、それでも僕のことを思ってくれていたら、また会いにおいで」
そう言って、彼は行ってしまった。
暫く惚けていた僕だったけど、今になって彼の名前を聞くのを忘れていたことに気付いた。
「あ、名前聞いてない…」
「はぁ!?」
あんなに結婚を迫っていた彼の事を何も知らなかったなんて、今考えても本当に馬鹿だなって思ってる。
お母さんも呆れて溜息吐きながら「アンタって子は…、なんでお父さんのそういう所が似ちゃったのかしら…」とか言ってた気がする。
「お母さんはあのお兄さんの名前知ってる?」
「あぁ、あの人は、緑の帽子を被ってたからきっとルイージさんね」
「ルイージさん?」
「えぇ、キノコタウンでは有名な人よ。双子のお兄さんと一緒に住んでるそうよ。何でもお兄さんと一緒に配管工の仕事や街の人達の困ってることを解決してくれてるんですって。要は街の便利屋さんね」
「へぇ!凄い…!」
僕はお母さんが話してくれたルイージさんの話を目を輝かせながら聞いていた。そして話を聞きながら僕は思った。
これは生半可じゃいけない…、そんな凄い彼に釣り合えるような魅力的な大人にならなければ!と。
そう意気込み己を鍛え上げること三年。遂に自他共に認める素敵な大人になったんだ…!
この三年は本当に頑張った。
僕たちヨッシーは他の種族に比べると成長がとても早い。成長の仕方も兎に角食べまくるという実にシンプルな方法で、沢山ご飯やフルーツを食べるとあっという間に大人のヨッシーと同じ大きさに成長するんだ。
本当はすぐにでも会いに行きたかったけど、ルイージさんの言う通りいっぱい学んでいっぱい鍛えて素敵な大人にならなければいけない。そんな思いから、あまり好きじゃない勉強も運動も頑張った。何なら恋愛必勝法みたいな本も読んでみたりしたよ。
そんな僕は今、内心ドキドキしながらもルイージさんを探している。
会ったらなんて声かけようとか、大人な感じに振る舞えるかな、とか期待と不安が入り混じる。
そんな中、僕は遂に見つけたんだ。
緑色の服と帽子にオーバーオール。間違いない。あの後ろ姿はルイージさんに違いない!
そう思い僕は「ルイージさーんー!」と大声で彼の名を呼んだ。
僕の声を聞いて彼が振り返る。青い瞳にヒゲ。やっぱり間違いない!ルイージさんだ!憧れのルイージさんに会えたんだ!そう思った時僕の気持ちは一気に昂った。テンションは急上昇!限界突破待った無しだ。
あまりの嬉しさに僕は彼に駆け寄る。
「ルイージさん!僕、貴方に釣り合えるような素敵な大人になれたと思うんです!」
「う、うん?」
「ルイージさん!」
「は、はい…?」
「僕と付き合って下さい!」