Lという名の男の話《前編》
「…」
俺はゆっくりと目を開ける。
至って冷静に見えると思うが、頭の中は混乱を極めていた。夢見が悪いなんてもんじゃない、最悪過ぎる目覚めだ。
俺が渋々ルイージ視点のモニターを見始めてから暫く経つ。どれ位かって言うと、アイツ等があの薄暗い所、アンダーランドから天界に登って、ピュアハートをゲットしてからハザマタウンに戻って、そっから俺達の根城だった暗黒城に乗り込んだ位。
アイツがジャンプマニアと共に過ごしていく内にアイツの色々な記憶が俺の頭の中に入っていくのが分かった。
そしてその記憶は突然フラッシュバックする時もあれば、いきなり睡魔に襲われてこうして夢として追体験したりと思い出し方も様々だ。
そして今回の記憶で、俺は全ての記憶…アイツから俺になるまでの記憶を全て取り戻したのだ。
あぁあ、分かっちまった。
俺はアイツだったんだ。
そしてここは、アイツの頭の中。俺はアイツに還ったんだ。
そして今こうして記憶が戻っているのは、あの女、ナスタシアの術が解けたから。
…だが、イマイチピンとこない。
「なんで俺だけ記憶が無かったんだ?」
アイツは俺とは違い、ナスタシアに捕まるまでの記憶をすでに持っているようだった。あの記憶から推察するに俺だけでなくルイージも記憶を無くした筈。記憶を取り戻すにしても俺と同様に少しずつ取り戻していくものじゃないのか?
「それは、彼がとてつもない強い意思で記憶が消されるのを拒絶したからです」
・・・。
「う、うおおあおお!!?」
俺は盛大にソファから転げ落ちた。
と、とんでもない奴を見ちまった…!久々に俺以外の声を聞いたと思って振り返ったら今一番会いたくない奴、ナスタシアその人であったからだ。
「ど、どどどど何処から出てきやがった…!」
「出てきたとは…、人を虫のような扱いしないで下さい」
そう言いナスタシアは赤縁の眼鏡をクイっと上げる。
だが本当に何処から湧いて出てきたんだ?ここはアイツの頭の中だぞ?侵入経路が分からん。
「私はただ私の意識を貴方の心の中へ飛ばしているだけです」
「おおお俺まだ喋ってねぇよな⁉︎何で言いたいこと分かるんだよ怖っ!」
「元々貴方を洗脳する際、貴方の心に干渉できるようにしたのです。洗脳に綻びが生じた時すぐに貴方の心の中へ飛び洗脳の上掛けをする為に。ですから貴方の思っていることは手に取るように分かります。それに…」
「それに?」
「貴方は非常に思っていることが顔に出やすい。心を読まなくても分かります」
「おいっ!人を単細胞みたいな言い方すんなっ!」
「そんなつもりはありませんでしたが…」
ナスタシアは「まぁ、いいです」と言いながら溜息を吐いていた。おい何呆れてんだこの野郎。
「呆れてはいません。いちいち突っかかってくるのが煩わしいと思っただけです」
「だーー!もう!あー思えばこー言うのかよ!会話のキャッチボールどうなってんだ!」
「…すみません。言葉だけでなく思っていることにもつい言い返してしまうのです」
そい言いナスタシアはちょっぴりシュンとしているようだ。べ、別に落ち込ませようとした訳じゃないが…。あー!もう!これじゃ埒があかない!
「…俺も強く言い過ぎた悪い。…だが俺はお前に聞きたいことが山程あるんだ!こんなことで油を売ってる暇はないぜ!」
「…分かりました。私もこんな事で時間を割くのは不本意ですので、できる範囲でならお答えしましょう」
そう言ってナスタシアは再度眼鏡をクイっと上げる。先程のシュンとした姿とは打って変わりいつもの感じに戻ってきたようだ。
…ふぅ、これなら安心して聞けそうだ。さて、何から聞くか…。
「まずは、そうだな…最初にお前が言ったことを聞きたい」
「あぁ、何故貴方だけ記憶を無くしていたのか…ですね?」
「そうだ」
「分かりました。順を追って説明しましょう。まず、私は捕らえた緑の男を記憶を消した上で洗脳し服従させようとしました」
「あぁ、さっき思い出した」
「その事に激しく拒絶をした彼は無意識に別の人格を創りあげ、自らの記憶と共にこの空間、心の底に逃げ込んだ。もう一人の人格を盾にして」
「⁉︎…なんだと⁉︎」
「貴方は実際死んではいないのでしょう。死んだと思い込んで自らこの心の底に入り込んだ。それに伴いあの男は守っていた記憶と共に元いた所に戻った…と私は推測しています。
そして今、何も無かったかのように赤い勇者と行動を共にしている」
そう説明した後「無自覚なのが腹立ちますけどね」と吐き捨てるようにボソッと言っていたナスタシアである。
「成程…お前の術から逃れる為にアイツが無意識に創った身代わりが俺…という訳か…」
「恐らくは。現に、私の掛けた超催眠術と魔法は貴方の心に掛かっている」
なんてこった。納得してはいるが、アイツ無意識に何やっちゃってんの⁉︎もしかしたらアイツとんでもないスペックを持ってるってことか…?うーん、流石勇者の弟と言うか…。どんだけ兄貴好きなんだよっていうか。まぁ、俺もアイツだから何も言えない。
…え、まてよ?アイツの無意識とナスタシアの催眠術で俺が誕生したという事は…
「じゃあ俺はアイツとお前との間のこど」
「それ以上の発言をしたら貴方の存在を抹消しますよ」
「わ、分かった分かった!もう言わない!!から!頭痛起こすのやめてくださいいでででででで!!」
くそ!コイツ俺が精神体なのに痛み与えてくるとか!頭がめちゃくちゃ痛ぇ!
「最大出力にしたら、貴方の頭なんてパァン!です」
「やめて下さいすみませんでした」
俺は床に頭をつけ見事な土下座を決めた。
「…はぁ、いいでしょう」
(ほっ…)
俺の見事な土下座が功を奏したのか、アナスタシアの溜息と共に頭痛が引いてきた。思わず安堵の溜息が漏れる。そしてナスタシアは説明をしだしたのだ。
「ここに来たのは貴方の反応を微弱ながら感知したからです」
「あぁ、一応俺死んだからな」
「えぇ、ディメーンから貴方が死亡したという報告を受けていました。そんな中何故か死んだ筈の貴方の反応を感知した。どういう事か確認をする為にここに来たのです。そして可能ならば再度伯爵様に忠誠を誓ってもらおうとも思っていた訳です」
確かに死んだ奴の反応を感じたらビビるよな。俺ですら気になり過ぎて見に来ちゃうかもしれない。
「ですが先程私が説明した通り、緑の男は私が想定していた以上のことをやってのけていた。そしてどうやら貴方とあの男との繋がりは一方通行、貴方から緑の男に干渉はできないようです。直接あの男に会わない限り、私でもこの状態では緑の男に催眠術をかけるのは難しい」
そう言いナスタシアは小さく溜息を吐いた。
さっきからアイツの事をかなりディスってるが遠回しに俺もディスってやがる。それには腹がたつが、どうやらここに来たものの何の成果も得られなそうで骨折り損だってことらしい。ふん、いい気味だ、笑わせるぜ。
「はっ、じゃあ、お前がここに来たのは無駄骨だったってことだな」
「そうですね、とんだ無駄骨です。ここで貴方を再び洗脳しても意味が無い。…それに、今の貴方は前回のように洗脳できる可能性は極めて低い。今までの記憶を取り戻し、その上私の能力についても少なからず知っている。それを承知の上で頑張って洗脳するメリットが何処にも無い」
「それは残念だったな」
長々と嘆いているナスタシアに俺はそう言って小さく笑う。
「確かに、俺はこれ以上お前からの洗脳は受けたくねぇし、そう簡単に洗脳なんかさせねぇ」
そして俺はどかっ!とソファにかけ直す。そして足を組みながらナスタシアを見上げ、一言言ってやった。
「もう俺は、兄貴を傷つけるようなことはしない」
俺はゆっくりと目を開ける。
至って冷静に見えると思うが、頭の中は混乱を極めていた。夢見が悪いなんてもんじゃない、最悪過ぎる目覚めだ。
俺が渋々ルイージ視点のモニターを見始めてから暫く経つ。どれ位かって言うと、アイツ等があの薄暗い所、アンダーランドから天界に登って、ピュアハートをゲットしてからハザマタウンに戻って、そっから俺達の根城だった暗黒城に乗り込んだ位。
アイツがジャンプマニアと共に過ごしていく内にアイツの色々な記憶が俺の頭の中に入っていくのが分かった。
そしてその記憶は突然フラッシュバックする時もあれば、いきなり睡魔に襲われてこうして夢として追体験したりと思い出し方も様々だ。
そして今回の記憶で、俺は全ての記憶…アイツから俺になるまでの記憶を全て取り戻したのだ。
あぁあ、分かっちまった。
俺はアイツだったんだ。
そしてここは、アイツの頭の中。俺はアイツに還ったんだ。
そして今こうして記憶が戻っているのは、あの女、ナスタシアの術が解けたから。
…だが、イマイチピンとこない。
「なんで俺だけ記憶が無かったんだ?」
アイツは俺とは違い、ナスタシアに捕まるまでの記憶をすでに持っているようだった。あの記憶から推察するに俺だけでなくルイージも記憶を無くした筈。記憶を取り戻すにしても俺と同様に少しずつ取り戻していくものじゃないのか?
「それは、彼がとてつもない強い意思で記憶が消されるのを拒絶したからです」
・・・。
「う、うおおあおお!!?」
俺は盛大にソファから転げ落ちた。
と、とんでもない奴を見ちまった…!久々に俺以外の声を聞いたと思って振り返ったら今一番会いたくない奴、ナスタシアその人であったからだ。
「ど、どどどど何処から出てきやがった…!」
「出てきたとは…、人を虫のような扱いしないで下さい」
そう言いナスタシアは赤縁の眼鏡をクイっと上げる。
だが本当に何処から湧いて出てきたんだ?ここはアイツの頭の中だぞ?侵入経路が分からん。
「私はただ私の意識を貴方の心の中へ飛ばしているだけです」
「おおお俺まだ喋ってねぇよな⁉︎何で言いたいこと分かるんだよ怖っ!」
「元々貴方を洗脳する際、貴方の心に干渉できるようにしたのです。洗脳に綻びが生じた時すぐに貴方の心の中へ飛び洗脳の上掛けをする為に。ですから貴方の思っていることは手に取るように分かります。それに…」
「それに?」
「貴方は非常に思っていることが顔に出やすい。心を読まなくても分かります」
「おいっ!人を単細胞みたいな言い方すんなっ!」
「そんなつもりはありませんでしたが…」
ナスタシアは「まぁ、いいです」と言いながら溜息を吐いていた。おい何呆れてんだこの野郎。
「呆れてはいません。いちいち突っかかってくるのが煩わしいと思っただけです」
「だーー!もう!あー思えばこー言うのかよ!会話のキャッチボールどうなってんだ!」
「…すみません。言葉だけでなく思っていることにもつい言い返してしまうのです」
そい言いナスタシアはちょっぴりシュンとしているようだ。べ、別に落ち込ませようとした訳じゃないが…。あー!もう!これじゃ埒があかない!
「…俺も強く言い過ぎた悪い。…だが俺はお前に聞きたいことが山程あるんだ!こんなことで油を売ってる暇はないぜ!」
「…分かりました。私もこんな事で時間を割くのは不本意ですので、できる範囲でならお答えしましょう」
そう言ってナスタシアは再度眼鏡をクイっと上げる。先程のシュンとした姿とは打って変わりいつもの感じに戻ってきたようだ。
…ふぅ、これなら安心して聞けそうだ。さて、何から聞くか…。
「まずは、そうだな…最初にお前が言ったことを聞きたい」
「あぁ、何故貴方だけ記憶を無くしていたのか…ですね?」
「そうだ」
「分かりました。順を追って説明しましょう。まず、私は捕らえた緑の男を記憶を消した上で洗脳し服従させようとしました」
「あぁ、さっき思い出した」
「その事に激しく拒絶をした彼は無意識に別の人格を創りあげ、自らの記憶と共にこの空間、心の底に逃げ込んだ。もう一人の人格を盾にして」
「⁉︎…なんだと⁉︎」
「貴方は実際死んではいないのでしょう。死んだと思い込んで自らこの心の底に入り込んだ。それに伴いあの男は守っていた記憶と共に元いた所に戻った…と私は推測しています。
そして今、何も無かったかのように赤い勇者と行動を共にしている」
そう説明した後「無自覚なのが腹立ちますけどね」と吐き捨てるようにボソッと言っていたナスタシアである。
「成程…お前の術から逃れる為にアイツが無意識に創った身代わりが俺…という訳か…」
「恐らくは。現に、私の掛けた超催眠術と魔法は貴方の心に掛かっている」
なんてこった。納得してはいるが、アイツ無意識に何やっちゃってんの⁉︎もしかしたらアイツとんでもないスペックを持ってるってことか…?うーん、流石勇者の弟と言うか…。どんだけ兄貴好きなんだよっていうか。まぁ、俺もアイツだから何も言えない。
…え、まてよ?アイツの無意識とナスタシアの催眠術で俺が誕生したという事は…
「じゃあ俺はアイツとお前との間のこど」
「それ以上の発言をしたら貴方の存在を抹消しますよ」
「わ、分かった分かった!もう言わない!!から!頭痛起こすのやめてくださいいでででででで!!」
くそ!コイツ俺が精神体なのに痛み与えてくるとか!頭がめちゃくちゃ痛ぇ!
「最大出力にしたら、貴方の頭なんてパァン!です」
「やめて下さいすみませんでした」
俺は床に頭をつけ見事な土下座を決めた。
「…はぁ、いいでしょう」
(ほっ…)
俺の見事な土下座が功を奏したのか、アナスタシアの溜息と共に頭痛が引いてきた。思わず安堵の溜息が漏れる。そしてナスタシアは説明をしだしたのだ。
「ここに来たのは貴方の反応を微弱ながら感知したからです」
「あぁ、一応俺死んだからな」
「えぇ、ディメーンから貴方が死亡したという報告を受けていました。そんな中何故か死んだ筈の貴方の反応を感知した。どういう事か確認をする為にここに来たのです。そして可能ならば再度伯爵様に忠誠を誓ってもらおうとも思っていた訳です」
確かに死んだ奴の反応を感じたらビビるよな。俺ですら気になり過ぎて見に来ちゃうかもしれない。
「ですが先程私が説明した通り、緑の男は私が想定していた以上のことをやってのけていた。そしてどうやら貴方とあの男との繋がりは一方通行、貴方から緑の男に干渉はできないようです。直接あの男に会わない限り、私でもこの状態では緑の男に催眠術をかけるのは難しい」
そう言いナスタシアは小さく溜息を吐いた。
さっきからアイツの事をかなりディスってるが遠回しに俺もディスってやがる。それには腹がたつが、どうやらここに来たものの何の成果も得られなそうで骨折り損だってことらしい。ふん、いい気味だ、笑わせるぜ。
「はっ、じゃあ、お前がここに来たのは無駄骨だったってことだな」
「そうですね、とんだ無駄骨です。ここで貴方を再び洗脳しても意味が無い。…それに、今の貴方は前回のように洗脳できる可能性は極めて低い。今までの記憶を取り戻し、その上私の能力についても少なからず知っている。それを承知の上で頑張って洗脳するメリットが何処にも無い」
「それは残念だったな」
長々と嘆いているナスタシアに俺はそう言って小さく笑う。
「確かに、俺はこれ以上お前からの洗脳は受けたくねぇし、そう簡単に洗脳なんかさせねぇ」
そして俺はどかっ!とソファにかけ直す。そして足を組みながらナスタシアを見上げ、一言言ってやった。
「もう俺は、兄貴を傷つけるようなことはしない」