Lという名の男の話《前編》

僕は現在一緒に行動していたクリボー達に裏切られた上に取り押さえられて身動きが取れないでいる。

そしてそんな僕の目の前には、赤い縁のメガネとピンクのお団子頭が特徴的な女の人が立っていた。

「貴方も彼等同様、伯爵様に従ってもらいます」

その言葉と共に僕の周りを赤い光が幾つもの輪っかになって囲ったのだ。

「伯爵様の元で伯爵様の為に働きなさい。そして、伯爵様の邪魔をしてくる勇者、赤い男を倒すのです」

赤い光を介して彼女の言葉が僕の頭の中をグルグルと駆け廻る。

黒の予言書…ノワール伯爵…ピュアハート…赤い男…

伯爵様の元で働く為に知っておくべきワードが映像として頭の中にインプットされていくのが分かる。
そして赤い男として頭の中に出てきたのが、兄さんの後姿だったのだ。

赤い男って、兄さんのこと…!?
じゃあ僕は兄さんを倒さないといけないの…!?

「や…いや…だ…!!」

「⁉︎」

僕は無我夢中で叫んだ。身体が言うことを聞かない中で叫ぶのは大変だった。でも嫌なものは嫌だ。何とかしてここから逃げたい。兄さんと敵対するくらいなら、ここで抵抗して死んだ方がマシだ。

「往生際が悪いですね…。ですが、私の超催眠術には…誰からも逃げられないのです」

突然僕を囲っている赤い光の輪っかが更に追加される。それと同時に辛うじてあった身体の自由がどんどん奪われていくのが分かった。

い、嫌だ!!嫌だ嫌だ!!兄さんを倒すだなんて!
そんなの嫌だ!!!こんなこと僕じゃない奴にやってくれよ!!

「貴方はとても強い力を持っているようね。流石勇者の弟と言ったところ。もうこれ以上抵抗できないよう、貴方の記憶も消しておきましょう」

「!?」

なっ!?記憶を消すって…!それじゃあ兄さんとの記憶が…!!
くそっ、どうすればいいんだ…、どうすれば…。
…気休めかもしれないけど、記憶だけは消されませんようにって念じてみようか?…て、無理か…。

「…さぁ、貴方は生まれ変わるのです。…そうね、名前は…頭文字を取ってエル、Mr.Lとでもしましょうか…」

くそ…現実逃避してる内にタイムオーバーか…!嫌だ!嫌だよ!兄さんとの思い出を!無くしたくなんか無いよおおお!!!!

僕がそんなことを思っている内に、彼女の冷たい声が聞こえ僕の意識は途切れたのだった。
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