Lという名の男の話《前編》


「!!?」


突然誰かがコイツに声をかけてきたのだ。俺もだがこの情けない声…もといルイージという奴も「うひゃああ!」と情けない声をあげながら飛び上がっていた。いや後から声かけてきたらそりゃあ誰だって驚くだろ普通。そう普通なのだよ。だからつい飛び上がってしまった俺だって普通の反応って訳だよ、うん。

だが、俺はこれだけじゃない、とんでもないことが起きたことにもっと衝撃を受けていた。

「な、なんでジャンプマニアがここにいんだよ…!?」

コイツが驚いた後振り向いた時、今一番見たくなかった人物を見てしまった。つい先程まで戦闘を繰り広げた末、我が愛機であるエルガンダーZを木っ端微塵にし、俺のガラスのハートまでボロボロに砕いていった張本人、ジャンプマニアことマリオが今コイツの目の前に現れたのだ。
え?コイツ弱そうだしヤバくない?俺だったら何とかなりそうだが、コイツこんなんじゃ戦えないじゃん。

「ちょ、やばいやばい。おい!早く逃げろ!殺されちまうぞ!?」

焦りつつも画面に向かって声を張り上げるがやはり何も変化はない。くそ。これは所詮モニター。コイツと俺は意思疎通が不可能なのか。

だがコイツは、びっくりしてはいるが焦る俺とは真逆の態度をとっていたのだ。なんていうか、嬉しそう…?なんで?

俺が混乱する中、コイツは恐ろしい一言を言ったのである。

『に、兄さん…!?』

「!!!?」

『うん、久しぶりルイージ!』

『うわ~ん!!会いたかったよにいさ~ん!!』

…は?…え?…はぁあっ!?

「に、兄さん…だと!?」

俺はこの兄弟のやりとりを聞いた途端、ハンマーで頭をぶっ叩かれたような強い衝撃を覚えた。

えっ、何兄さんって、血縁…⁉︎ええええ!!?そんな偶然ってあるのか…!?嘘だろ!?

あまりにも衝撃過ぎてそんなことしか頭に浮かばない。まさかの事実である。
じゃあ俺は今まであの忌々しいジャンプマニアの弟の視界をずっと眺めていたということになるのか。

もう何というか、凄く複雑。

確かにコイツにはイライラしてた。だがこのイライラはジャンプマニアに抱く絶対的にダメ!許せない!というような、憎しみに近い苛つきとはベクトルが全く異なるイライラである。
なんというか、…自分の嫌な所を見てやきもきしているような、同族嫌悪…?みたいな苛つき。
…いや、いやいや違う違う、俺何言ってんだ、奴と俺は決して同族なんかじゃない!決して!断・じ・て!違うからな!!
同族ではないが、一時的にアイツの視点を覗いていていた訳だし、同情?というか、少なからずアイツには感情移入をしている部分というのがあったんだ。アニメやゲームの主人公とかそうだろ?それに近い感じだ。

まぁ話が逸れたが、そんなアイツと憎むべき対象であるジャンプマニアがとても近しい関係であって、それでいて仲が良さげときた。言うなれば、今まで信頼していた味方が実は敵のスパイでしかも組織のナンバー2位のポジションだったって知った時位の裏切られた感。そう、俺はアイツに裏切られたのだよ。まさかアイツが…とは思うだろ?

…まぁ、これは全部俺が勝手にアイツに感情移入して、それでいて勝手に裏切られたって逆ギレしているだけなんだってことも頭の隅で分かってはいるんだが…どうしてもな…どうしてもアイツ…ルイージには怒りたくなるんだ。
うーん、なんていうか…なんでなんだ?って、なんで俺の様に振る舞わない?って、訳の分からない憤りを覚える。

俺だったら…

俺がアイツだったら…きっとアイツの様にメソメソはしないし、もっと強く、そう、ジャンプマニアにだって勝てるくらい強くなってやるんだ。
そしたら伯爵の野望もまた一段と近づいて…

あれ…

そういえばなんで俺は伯爵を尊敬して、しかも野郎の部下になっているんだっけ…?んん…?

…まぁ、いっか。この状況をなんとかしないと伯爵の所へは帰れない。それにディメーンがまた殺しに来ないとも限らない。…言ってるそばからだがもう戻りたくねぇな…。

『え?僕がどうしてここにいるのかって?』

『うん』

『それが分からないんだ。そもそもここは一体どこ?』

『ここはね、アンダーランドだよ。どうやら死後の世界みたいなんだ』

…は?アンダーランド?

『え?アンダーランド?』

『うん』

死んだ奴が来るところだと…?

『死んだ人が来るところ???』

『うん』

な、ど、どどどういうことだよ!?お前さっきまでモノノフ王国にいただろ!なんで死んでんだ!?

『どどどどういうこと!?詳しく教えて!』

『うーん、それは…』

どこから説明すればいいのか…と考えているのか、マリオは少々考えながらルイージと離れてからここに来るまでの経緯を話していた。
そして奴がここに来たのはどうやらディメーンが関わっているらしく、話の限りでは俺が受けたものと同じ魔法を受けたようだ。

チッ…あの野郎、時間の流れ的に俺を殺ってからそのままの足でジャンプマニア共を襲撃したようだ。一体どういう風の吹き回しだ。
…そういえばあの野郎、俺に魔法を放つ前に"すぐにほかの仲間も追いつく"っていう感じなこと言っていなかったか…?俺はてっきりドドンタスやマネーラの事を言っているのかと思っていたが…。奴の言う仲間っていうのがジャンプマニアだとでもいうのか…?

「い、いやいやないない」

どこにでもなく俺は全力拒否をする。いやいやだってないだろ普通に!普通にありえない。アイツと仲間だなんて!ディメーンの野郎の目はきっと節穴だ。そしてどこに目付いてんだって言いたい。きっと尻とかに付いてんだよきっと、あ、なんか想像したらちょっと笑えてきた、プークスクス。

だが、笑っている最中に気付いた。

あの野郎は俺とジャンプマニアとの確執を知ったうえで、あえてその言葉を送ったのだとしたら?
そうなるとその言葉への捉え方も違ってくる。

俺には暗黒城に来るまでの記憶が無い。
もしかしたら暗黒城に来る以前はジャンプマニアとは親しくしていた可能性もあるが…どうなんだろう。サルガッゾーンで会った時は初めて会いました的な感じっぽかったんだよなぁ。一度会ったことのある奴なら敵にしろ味方にしろ普通また会ったねー的な態度とるだろ?あの感じが一切無かったんだよな。きっと昔は親しい仲だったという線は薄いだろう。

じゃあ、ジャンプマニアは間違えてアンダーランドに送られたのか?
…いや、話を聞くにあの無力になったピュアハートを持って帰った矢先の出来事のようだ。時間的にもやはり俺を殺した後すぐの出来事で間違いはなさそうだ。きっとあの野郎はジャンプマニア共をここに送ることを目的としていたに違いない。

そうなると、あの野郎は俺にではない誰かにその言葉を送ったということになる。俺はきっとジャンプマニアの仲間じゃないと思うからな。そういうことだろ?
だが、あの場には俺とあの野郎しかいなかった。あんな何も無い真っ白な世界で俺に見られないようにするって不可能に近いと思う。


じゃあ、あの野郎は一体、何を知っていて誰に向けて話をしていた…?
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