Lという名の男の話《後編》


ボクはゆっくりと目を開ける。
ムクリと起きると、そこは何も無い真っ白な空間が広がっているだけだった。

あれ…?ボクはエリリンと一緒に爆発に巻き込まれて死んだ筈じゃ…?

『まだ死んでないわよ』

「!?」

ボクの背後で声がした。とてもとても懐かしい声だった。ボクは急いで振り返る。
そこにいたのは、ボクがずっとずっと会いたかった、大好きな姉様だった。しかも生前の姿をしているのが途轍もなく懐かしく感じる。

「姉様…」

ボクは嬉しくて嬉しくて声が震えた。
姉様の姿を見れて声まで聞けるなんて、死んでよかったかもしれない。

『だから死んでいないわよ』

「え、そうなの?」

『全く、私の話を聞いていないなんて良い度胸してるじゃないの?』
「ごめんなさいわざとじゃないんですすみませんでした」

ボクは光の速さで頭を下げた。姉様を怒らせてはいけないというのは何千年経とうとも身体に染み付いているのが分かった。
姉様は『ふん、まぁいいわ』と言ってくれたので取り敢えず助かった。

「でも姉様、あんな爆発があって死んでいないのは俄に信じ難いのです」

『まぁ、そうでしょうね。盛大な自爆でしたものね』

「あ、あははは…」

見てたんだ、と思っていたら『当たり前じゃない、気になるに決まってるでしょ?』と言われた。どうやらボクはあの世から見られる程心配されていたようだ。

『貴方は生かされたのよ。勇者の末裔とフェアリンの永遠の愛っていうやつにね』

「永遠の愛…ということは…ピュアハート!?」

何という事だ。世界は消滅しないどころか彼等の愛に助けられたなんて…。もう驚愕だった。

「は、ははは…。とんだお笑い草だね。ボクの決死の自爆は無駄だったんだ」

そう言い乾いた笑いをするボクに、姉様は一言『馬鹿ね』と言った。

『確かに貴方の作戦は失敗したわ。でもね、それは結果論よ。私は行動の全てに無駄なことなんか一つも無いと思っているわ。結果的に失敗して無駄だったって事になっても、行動の一つ一つに思いがある。その行動に込められた思いは無駄なんかじゃないわ。それに…』

「それに?」

『貴方のお陰で黒の予言書が消えた。これはとても素晴らしいことよ』

「…え?え!?」

黒の予言書が消えた!?ボクは予言書に対しては何もしていない筈なんだけど、どうしてそうなったんだ!?
訳が分からないという表情のボクを見た姉様は『うふふ、そうね、分からないわよね』と、事の経緯を教えてくれた。

『貴方が助長させた混沌のラブパワーと勇者の末裔とフェアリンが誓った永遠の愛が衝突したの。激しい衝突の末、永遠の愛、ピュアハートが打ち勝った。その時に放出された大量の愛のエネルギーが黒の予言書の中の闇の魔力と怨念を打ち滅ぼした。貴方とお友達も蘇ったのはその愛のエネルギーのお陰って訳』

成程、ボクがなけなしの魔力を混沌のラブパワーに注いでいったから、二人はラブパワーを打ち消す為崩壊間際に挙式を挙げ永遠の愛を誓ったのか。
そう考えるとボクのお陰ということになってしまう。本当、姉様と言いボクと言い、どうしてこうも皮肉な終わりになってしまうのか。そういう星の下で生まれてしまったのだろう。きっと。
…でも、姉様の言葉の最後に聞き捨てならない単語があった。

「姉様、お友達って言うのは…?」

『あら、お友達じゃないの?貴方同様中々に哀れな緑の男よ』

「!?、エリリン!?」

そうか、ボクも生き返ったならエリリンも生き返った筈!でもエリリンは何処に…?というかここは何処だっけ?何でこんな白い空間の中にいるんだっけ…?

「姉様!此処はどこです!?後エリリンは何処にいるんです!?」

その焦りっぷりからか、姉様は『あははは!本当貴方は』と腹を抱えて笑い出した。

『こんなに私と話していたのに今更…あー久しぶりにこんな笑ったわ』

「姉様、ボク一応真剣なんだけど?」

『うふふ、ごめんなさい?此処は貴方の夢の中よ。貴方が夢から醒めれば此処から出られるわ。でも夢から醒めたら急いだ方がいい』

「何を急ぐのですか?」

『貴方のお友達は今魂だけの状態なの』

「た、魂!?」

『そう、彼は今代の勇者の弟と勇者の末裔の部下の手によって創られた。魂自体が仮初であり摩耶かしなの。あのままの状態ではあの世にすら行けず消滅してしまう。流石にピュアハートでも元々無いものを復活させるのは難しいみたいね』

ボクは今姉様に何回驚かされているんだろう。いや、ボクの予想を超える事が起きすぎている。
でもそんな魂だけの状態のエリリンをどうしたらいいのか分からない。

「姉様、ボクはどうしたら?どうしたらエリリンを救えますか?」

そう懇願するように尋ねるボクに、姉様はさも当たり前のように言うのだ。

『あら?貴方は知っている筈よ?』ってね。

ボクは意味が分からなくてポカンとしてしまった。「ど、どういうことですか…?」と尋ねると姉様は『覚えてないの?』と言ったのだ。

『貴方は母様にしてもらったでしょ?魔力の人体造形。フェアリン化を』

「!?」

そうだった。そういうことか。母様のように、ボクがエリリンをフェアリン化すれば良いんだ。エリリンを生かす為にはそうするしかないんだ…!
でも、父様がどうやっても成功しなかった完璧な人間化を、ボクが出来るのだろうか…?

「姉様、ボク…」

出来なかったらどうしよう…と言おうとした時、『大丈夫よ』と姉様が遮ぎるように言った。

『貴方は父様の子ではあるけど母様の子でもあるのよ?あの男と貴方は違うわ。あの男に出来なくても貴方にできることだってある筈よ。そして何より…』

そう言うと姉様はボクにニヤリと不敵な笑みを浮かべこう言った。

『私の弟であることをお忘れでなくて?失敗なんて許さないわよ?』ってね。

本当姉様は…そんなこと言われたら成功させるしか無いじゃないか。…まぁ、させるけど。

「ははは、おぉ怖い。それじゃあ、姉様のご期待に添えるように頑張らせてもらいますよ」

『そうして頂戴』

そんなやり取りをしていると急に視界がぼやけてきた。今まで見えた姉様がシルエットだけになっていく。あぁ、やっと会えたと思ったのに、短い時間だった。

「姉様、今まで本当にありがとう。エリリンは面白い奴だから、面白い土産話を期待しててよ」

『それ、何千年後の話?…まぁ、気長に待ってるわ。お友達に宜しくね』

そんな言葉を聞きながら、ボクは意識を手離した。



次に目を覚ました時は、もう夢の中ではなく暗黒城の中、ボクが自爆をした広い部屋にいた。
そして周りを見渡すと、小さくて丸い光がボクから少し離れた所に浮いていた。ボクはハッとしてその光に近づく。きっと、これだ。これがエリリンの魂だ。
その光はまるで蝋燭の火のように温かくて小さい。今にも消えてしまいそうな光だった。

「エリリン、まだ消えないでくれよ」

ボクは両手を光にかざし自らの魔力をエリリンの魂に流し込む。
やり方は何となくだ。ただ、ずっと昔母様から聞いていた魔力譲渡のコツをボクは思い出していた。

まだ母様が生きている頃、ボクと姉様は何度か魔力譲渡について教えてもらったことがある。

『魔力を他人に流し込む時はね、想像力が大事よ。こうやって手を繋いでいる状態で魔力を渡す時、自分の手にある魔力が相手の手に伝わることを想像するの。それから腕に、肩から胴へ、胴から頭と手足へ、自分の魔力がゆっくりと巡っていくのを想像する。そうしたらその想像通りに魔力が動く筈。いい?魔法は想像力よ?』

そう言いながらよく魔力を譲渡して貰ったっけ。流してもらった母様の魔力は本当に温かかった。

母様の教えに基づいてボクはエリリンの魂に魔力を流し込み、その流し込んだ魔力を身体に変換していく作業を行い始めた。
魂から胴体、胴体から手足、頭。そして臓器、流れる血液…。後エリリンの着てた服も。

だけど、途中から自身の魔力が無くなってきたのを感じた。これは、マズイかも。これじゃエリリンが不完全な身体になってしまう。
でもそれじゃいけない!姉様とも約束した。エリリンには完全なフェアリンでいてほしいんだ…!
でも…もうボクの魔力が…。後は母様がボクにくれた魔力しか残ってない。この魔力はボクにとっては母様の唯一の形見のようなものなんだ。どうしたら…。

そう悩んでいた時、ボクの身体から母様の魔力がいきなり一気に抜けエリリンの魂に移っていったのが分かった。
分かった時凄くショックだったけど、次第に母様はきっとボクのやっていることに協力してくれているのだと気付いた。

「母様…。ありがとう…」

大好きだった母様。でもあの事故からなんでこんな身体にしたんだって思う時もあった。それでもボクの中に巡る母様の魔力はいつでも優しくて温かかった。今なら分かるよ。自分自身を犠牲にしてでもボクを救いたかったんだよね。
魔力になった今も尚ボクの為に動いてくれてるんだ、ボクも頑張らないといけない。

ボクは兎に角全力をエリリンの魂にぶつける。ボク自身の身体が維持できなくなってきても構いやしなかった。母様の魔力も合わさったエリリンの魂は次第に光を増し大きくなっていった。

そして光がパァンと弾けた時、そこにはしっかり元の姿に戻ったエリリンが眠っていたのだった。

「よかった…」

気がつけばボクは魔力が無くなり過ぎて今までの半分位にまで縮んでいた。母様の魔力も無い。魔法も思ったように使えない。飛ぶのもやっとだ。
そんな状態になってもボクは後悔なんてしてなかった。気がつけばボクの中にいたあの黒い魔力も消えて本当に晴れやかな気分だった。今考えてみればあの黒い予言書の魔力にやられていたのかもしれない。

「おい、結局何処に行くんだよ!?」

後からエリリンが問いかけてくる。
さっきボクの魔力を回復出来る所に行こうってエリリンが提案してくれたんだ♪
さて、何処に行こうか。

「うーん、そうだねぇ。取り敢えずこのままこの空を飛んでいってみようか♪風が気持ちいいんだよねぇ」

「はぁ!?そんな暢気なこと言ってていいのかよ!?」

「いいのいいの♪どうせボク等飲まず食わずでも大丈夫だし、キミも飛ぶ練習もできるし良いことづくめでしょ?」

「そこまで良い事のような気がしないんだが」

それでも「たく、しょうがねぇなぁ」とかぶつぶつ言いながらエリリンはついてきてくれる。本当、お人好しなんだから。
あぁ、これからが楽しみで仕方がない。何処へ行こう、何しよう?男二人旅はきっと楽しいさ♪
でものんびり行こう。時間は沢山あるのだからね♪



所変わってここはマリオの家。
現在マリオ兄弟はハザマタウンから戻り一時の休息を楽しんでいた。
ルイージがマリオにコーヒーを淹れながら話しかけた。

「今回の旅も大変だったよねー、本当僕何回死んだと思ったか」

「本当大変だったよねぇ、君がディメーンに取り込まれてしまった時は生きた心地がしなかったよ」

「あぁ、そうらしいよね。僕なんだかそこら辺の記憶無くって…」

「そうか…あまり良い記憶でも無いし思い出さなくても良いかもね」

「うん、そうだね。…あ」

「?、どうしたんだい?」

ルイージが少々悩みながら二人分のマグカップを持ってきた。そしてルイージはマリオにコーヒー入りのマグカップを手渡しながら話し出す。

「はい、熱いよ」

「ありがと」

「…そういえばね、誰かが兄さんに宜しくって…言っていた気がしたんだけど…」

「誰か…?ハザマタウンに住む人かな?」

「うーん、違う気がするんだけど…あー、何だろう。全然思い出せない」

「それは困ったな、仕事の依頼じゃなければ良いんだけど…その人の特徴とか分からないかい?」

「特徴?うーん、どういう人か全然思い出せないけど、兎に角カッコよかったってことだけが記憶にあるね!」

「ぅ、うーん…抽象的過ぎて分からないな…」

「あはは…だよねぇ…」

その後散々思い出そうとしたが全く思い出せなかったルイージなのでした。


おわり

奴はルイージの心の底ごと爆破した為Mr.Lの記憶はもうルイージの中に残っていません。結果的にルイージは最初から最後までMr.Lのことを知ることはありませんでした。
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