Lという名の男の話《後編》

あとがき

ここまで読んでいただきありがとうございました。ヨシエさん、リクエストありがとうございました!

お題がMr.Lのその後ということで、ディメーンに56されてから結局どうなったのかを書かせて頂きました。

一番初めに思い浮かんだのが一番最後のシーンでした。でも公式では何も情報が無い為どうしたらそのシーンにまで繋がるのか自分の妄想で説明するしかなく、そうすると一から十まで全て説明しなければいけなくなり、結果こんな長々となってしまいました。
いやぁ、まさかこんなに長くなってしまうとは書き始めた当初全く予想だにしてませんでした。
結構途中で思いついたシーンを入れてみたりしてました。やっぱり作業中にモンハンの戦闘BGM聞いてるとつい戦闘が長くなる。こんなに書くつもりは無かったのに…笑
ディメーンに一発お見舞いする所書きながら英雄の証聴いてたらアドレナリンがブワアッ!て出てましたね笑
本当遅くなってすみません。文才と語彙力が無いゆえに中々早く書けませんでした。これも全部良い護石が出なかったせいですね…あれ?

本当にありがとうございました!


そして下からおまけな訳ですが、今回は奴の過去について書いています。
奴の過去については本当に公式の資料が無く…。よって、バーのマスターの噂話を基にした一個人の妄想話であります。
奴が色々可哀そうな目に合っていますが、あくまで一個人の妄想であること、そして奴は最初から今までずっと誰かしらに愛されているんだよ、という二点を念頭に置いて読んでくれると嬉しいです。

という訳で下からおまけです。
















おまけ




とても穏やかで気持ちがいい風が吹き抜ける。かつてのボク達の根城である暗黒城の上空は、今までの惨事が嘘かのように見える程、雲一つもない快晴だった。
久しぶりだな。こんなに空が綺麗に見えるのは…。

もうきっと、軽く2,3千年は見てなかったんじゃないかな。


Dという名の男の話


ボクは、今の時代から見ても裕福な環境の家庭に生まれ落ちた。
父、母、姉、そしてボクの四人家族。

父は下級貴族ではあるが代々魔法に長けている一族の長男で、幼いころから優秀さを発揮し古の民達の中でも一目置かれていた存在だった。父が成人になる頃には様々な魔法を開発し、国に恩恵を与えたとして恩賞という形で上級貴族の仲間入りを果たし、後に大魔法使いとまで言われていた。
そんな父の元に国中から何人もの弟子志願者がやってきた。父も魔法研究の為人手が欲しく、何人もの弟子を受け入れた。その中の一人が母だった。

母は上級貴族の次女だった。上級貴族なだけあって母は裕福な家で育ち、彼女の両親も母の好きなようにさせていたようだ。昔は貴族の女性は家同士のつながりの為早々に嫁がすのが主だったんだけど、よっぽど裕福で子煩悩だったんだろうね、お爺様達は。

弟子志願をするほどだから分かると思うんだけど、母も魔法に長けていた人だった。
母は繊細な魔力操作が得意で発動させるのが難しい魔法を誰よりも早く発動させることができたという。何度か魔法を見せてもらったことがあるけど、何も唱えることなくノーモーションで発動させてた。子どもの頃から魔法が好きで、とにかく魔導書を読み漁りながら魔法の練習をしていたと言っていたな。
そんな魔法への愛と熱意を持っていた人だったから、見事父の弟子入りを果たし魔法研究に勤しんだと言う。

そんな中、母が完成させたのが"魔力譲渡による人体への影響"という論文だった。

魔力操作を得意な母は、自分の魔力を操り物や動物、人へ自らの魔力を移すことができたのだ。母だからできた研究だった。
研究によると、魔力を譲渡された人間は大なり小なり魔力を譲渡される前よりも体の細胞が活性化され、被験者は皆生き生きとしていたと言う。今でいうアンチエイジングという効果があるという結果だった。

その論文に、父が目を付けた。
いや、その論文で母の存在に気付いたというのが正しいのかな。

元々父は研究者肌で一度魔法研究のことで考え込むと他が目に入らなくなる人間だった。

魔力譲渡という新たな魔力の使い道の可能性、人体への効果の期待、そして母の家柄(研究費用の捻出、貴族社会の後ろ盾)という彼女の存在価値に気が付いた父はすぐに母を自分の側に置くようになった。そこから男女の仲になるのも時間の問題だった。
そして元々の頭の良さから口も回る為(そこら辺はボクも似たのかもしれない)、父はあっという間に母の実家にも話をつけトントン拍子に婚約をもぎ取ったそうだ。

何でボクがこんな生前のことを知っているのかというと、父は筆まめ?という奴で研究や魔法の考えや思ったこと、日頃の出来事を手帳に記していたから。書斎の机の鍵付きの引き出しの中にあったのを読んだんだよね。
まぁ、魔法バカで自分の損得しか考えてない父でも、それなりに母には愛情を持っていたようだった。
え?何故そんなもの読んだんだって?んっふっふー、焦っちゃあいけないよ♪後々わかる事さ♪

そしてそんな二人の間に生まれたのが姉様とボク。

母様は子育てで前線から離れたものの、両親やお弟子さん達は揃いも揃って魔法バカばかりだったからね、勿論子どもであるボク等も魔法漬けだったさ。母様もお弟子さん達も快く魔法のことについて教えてくれた。父様は忙しくあまり喋った記憶は無いが、たまに会った時の会話は総じて魔法のことばかりだった。
まぁ、こんな環境だったのもあってボクも姉様も沢山の魔法を習得していった。今思えばこの時が一番家族してたなぁって思う。

姉様はボクよりも優秀で膨大な魔力を持っていたけど、生まれつき身体が弱くてちょっとしたことで体調を崩しがちな女の子だった。だからあまり外出もできなくて、女の子同士のお茶会なんかも片手で数えられる位しか行けなかったと思う。

そんな深窓の令嬢な姉様だから勘違いされがちだったけど、本当はとても気が強い人だった。なんならボクと魔法で張り合ってた。姉様の体調が万全な時は絶対に勝てなかったよ。
でもボクが勝った時なんか凄く悔しがってね、ある時姉様がボクと張り合ってる途中貧血で倒れた時は「もぅ~悔しい~!!」とフラフラになりながら怒ってたよ。あの勝利への執念にはゾッとしたね。これには流石に母様も呆れて「もぅ、誰に似たのかしらね」と言っていた。

まぁ、そんな姉様だけど、ボクはそんな姉様が大好きだった。
その時のボクはいい子だったからね。体調を崩してベッドで退屈そうにしている姉様に、街で見た面白い事や面白い人達を面白おかしく語って姉様を笑わせるのが日課だった。時には魔法も使って面白い事をしてみたりもした。…まぁ、たまにやり過ぎて母様にしこたま怒られたりもしたけど。

でも、そういう事をするボクにゲラゲラ笑う姉様が好きだった。

だって、ベッドで過ごす姉様はいつも寂しそうだったから。
子どものうちからベッドで大人しく過ごさなきゃいけないなんて辛いに決まってるじゃないか。たった一人の姉弟なのに、一緒に遊べないなんて嫌じゃないか。
子どもながらにそんな事を考えていたと思う。

そんなボクに姉様は笑いながら「貴方は本当に人を笑わせる天才ね、将来は魔導師じゃなくて道化師にでもなるのかしら?」と、皮肉めいた賛辞をよく言ってきた。
だからボクもよく「道化師は人々を笑顔にする魔法を使うのさ!だから道化師も魔導師と似たようなもんだよ!」と返していたっけ。
そんなやりとりをするようになってからボクはより面白く滑稽になるよう演出を考えていた気がする。


そんな道化師もどきをしていたボクだったけど、ある時本物の道化師を観れる機会が訪れたんだ。

いつも出掛ける街とは少し遠くの街にサーカス団がやってくるらしかった。
ボクはそれはもうワクワクしたさ。だって本物の道化師を間近に観れて、そして見たものを真似して姉様に披露できるからね。勿論姉様も体調が良ければ一緒に行くことになっていた。

でも、開催される数日前から姉様は風邪を拗らせていた。
熱は上がって下がっての繰り返しでとてもじゃないけど遊びに行けるような状態じゃなかった。
姉様は珍しく皮肉無しに「ごべんで!だのじんでぎで!」と酷い鼻詰まりの中送りだしてくれたのを覚えている。…あ、でも最後に人差し指をビシッとボクに刺しながら「どうげじぐらいじっがりおぼえでぐるのよ!」と言われたっけ。

こうして母様とボクは馬車に乗って少し遠くの街まで行く事になった。

目的の街までの道のりは決して平坦な道だけではなく、山を挟んだ向う側に街がある為途中で山道を通らなければいけなかった。この道が厄介で、馬車も通れるようにはなっていたけど綺麗に舗装されてる訳ではなかった。
そして前日までの数日間此処らへん一帯で雨が降ったらしく、道の地面がぬかるんでいたのだ。そのせいで何度も車輪がぬかるみに取られうまく進む事ができず、予定よりも時間がかかりだした。

何とか登りを終え下りに差し掛かった時にはもう陽が傾いていた。片方が切り立った崖になっていたこともあり、この山を降りた先に街があるのがよく見えたのを覚えている。
サーカスが始まるのは夕方からだったからギリギリ間に合えば良いなぁと、ボクは暢気にそう思っていた。そんな矢先。

ぐらっ…と馬車が傾いた。

馬車の重みで崖の道が崩れてしまったんだ。
バランスを崩した馬車は崖の下へ転がり落ちた。
気付いた時にはもう遅かった。急勾配な坂道を転がり落ちていった為中にいたボク達はまるで洗濯機のようにぐるぐると転がり、色々な所に身体のあちこちを連続で叩きつけられた。今の時代のようにシートベルトやエアバックなんて付いてないからね。こんな状況じゃボクも母様も魔法で何とかすることなんて出来なかった。きっと今のボクでも難しいかも。
回る視界、ガラガラバキバキと岩や馬車が崩れる音、皆の叫び声。そんな絶望的な状況の中、ボクは意識を手離した。
11/16ページ
スキ