Lという名の男の話《後編》


再び目を開けると、真っ黒な天井が見えた。またあのゴミ箱に戻ったのかと一瞬思ったが違った。そこは俺のかつての根城、暗黒城の大広間、兄貴達が伯爵と戦っていた一室だった。俺はそのだだっ広い部屋の真ん中で寝転がっていたのだ。

とりあえず俺は起き上がり大きく伸びをする。あぁよく寝た…のか…?
そういえばあの色々不思議な女性の夢を見ていたせいか、凄く寝てたって感覚が無いな。

「おはよう」

あの時はそんなもんかって納得していたが、そもそも俺はルイージの心にいた精神体だった訳で。どうやって現実の世界に出てこれたのだろうか…?

「あれ?おはようってば」

こうやって身体(ちゃんと五体満足)を見ても透けていることなくしっかりと世界に存在しているし…って、何だこれ?俺の身体、魔力で溢れかえってるぞ。この身体、普通の肉体じゃないのか。

「ちょっとー!エリリン!!」

「誰がエリリンだ!!」

「あ、やっとこっち向いた~♪おはようエリリン♪よく眠れたかい?」

くそ、無視してたのに。つい条件反射で突っ込んでしまった。
だがその時に初めて奴の方を振り向いた時、俺は奴を見て衝撃を覚えたのだ。
何てったって、奴の大きさが今までの半分くらいに小さくなっているからだ。これじゃまるで子どもだ。
余りにも衝撃的過ぎて俺は奴を指さし「なっ!?…おま…!?」と、とぎれとぎれにしか言葉にできなかった。

「あぁ、これ?やっぱり気になる?」

「あ、当たり前じゃないか!何があったんだよ!?」

「んっふっふ、ちょっとねぇ~♪君の身体を作ってあげたら魔力が足りなくなってさぁ~。それで縮んじゃった♪」

「はぁあ!?なんだそれ!」

俺は思わずそう叫ぶ。
だって、魔力だけで身体が本当にできるもんなのか…?後なんで身体が縮む程魔力使ってまで俺の身体を作って生かそうとしたのか訳が分からない。奴は他人の事を考えない糞野郎だ。他人の為に自己犠牲をするような情け深い奴ではない。どういう風の吹き回しだ…!?
そんな事を考えていたら、奴は「実はねぇ…」と切り出してきた。どうやら表情に出てしまったようだ。

「キミはあのまま死んでしまっていたら二度とボクと会えなくなると分かったからなんだ」

「二度と?」

「そう、キミの魂はルイルイ君が作った人格をナスタシアが超催眠術で作り上げた仮初の魂なんだ。本当はキミが思考の主導権をルイルイ君に渡した時に消滅するはずだった。でも君はボクに激しい恨みを持ってしまったんだ。ボクをボッコボコにしたいって言ってたよね、きっとそうだろ?」

「ま、まぁ、そうだな」

そういう聞き方をされて俺は思わずどもった返しになる。本人を目の前にしてそういう確認をとれる奴はやっぱり肝が据わってると思う。
…だがこの話すげぇ聞いたことがあるなぁ。…あれ?どこでだっけ…。

「その強い思いが念になり君の魂を強くしたんだ。だからボク達が爆死するまで君はルイルイ君の中で生きていたんだ。
でもそれは所詮消滅するまでの時間が延長されていたに過ぎなかった。仮初の魂はあの世に行くことなく消滅する運命だったんだ。それじゃあキミはボクをボッコボコにするっていう目的を果たせないだろ?」

俺は最後の一言を聞いて思わず目が点になる。もしかして俺の為に…?

「は?じゃあテメェ、その目的の為だけに…?」

「だってその方が退屈しないで面白そうじゃないか!キミがどんな方法でボクをボコボコにするのか気になって気になって…!」

そう言って奴は面白そうに笑う。
やっぱ違った。やっぱり奴は奴だった。ちょっとは改心したのかと思ったぜチクショウ。
俺がイラっとしていたのが顔に出ていたのか、奴はヘラヘラと笑いながら俺の肩にポン!と軽く手を置いた。

「まぁまぁ♪そんな顔しないでおくれよエリリン♪これからは同じフェアリンとして楽しく生きていこうじゃないか♪」

「だからエリリンじゃね…て…は…?

フェアリン…!?」

奴の言葉に俺は思わず聞き返す。今コイツフェアリンって言ったか…!?

「そう、フェアリン。キミは、今にも消えそうだったキミの魂にピュアハートの力とボクの魔力を注ぐことで誕生した新たなフェアリンなのさ」

俺はその言葉に開いた口が塞がらなかった。



暫くして、俺達は暗黒城を出て空に飛び立った。フェアリンになった俺の身体はちゃんと浮けるらしい。
この世界を覆い尽くそうとしていた黒い次元の裂け目は綺麗さっぱりなくなり、本当に世界滅亡一歩手前だったのが嘘だったんじゃないかって思う程穏やかな空だった。
きっと、兄貴達が何とかして食い止めたんだろうな。もう俺には分からないや。

あれからフェアリンの事について奴から基本的なことを教えてもらった。
といっても、この身体は魔力でできている事と、空の飛び方ぐらいだがな。その他の事は「後々ね♪」…だそうだ。
奴は相当な魔力を使って俺の身体を作り上げたようだ。ちょっと魔力が溢れてるなぁって思っていたが、言われなければ分からなかった。こうやって手をグーパーしても手の感触があるのだから。…あ、でも重力はあんまり感じないかもしれない。…意外とこれは良いのかもしれない。

「どうだい?飛ぶのには慣れたかい?」

前を扇動していた奴が俺の方に振り向きそう問いかける。

「へっ、これ位余裕だぜ」

「んっふっふー、流石♪じゃあこのままどっかの世界に行ってみる?ずっとこの世界にいてもつまらないよ」

「あぁ?そうだなぁ」

俺は腕を組み考える。
そういえばコイツの言う通りだ。どこか違う世界に行ってみるのもいいな。…コイツと一緒なのが不安でしかないが。別れようとしてもきっとついてくるだろうしな。…仕方ない。

「じゃあまずは、テメェの魔力回復させっぞ」

「…え?ボクの?」

「当たり前じゃねぇか。そんなチビの姿じゃ、殴ったってぜんっぜん嬉しくもなんともない!それにこの身体の恩もあるしな…だから俺は、テメェの魔力が回復するのを全力でサポートする。ボッコボコにするのはそれからだ」

先程までポカンとしていた奴であったが、俺の言葉を聞くとすぐに嬉しそうな表情になったのが仮面越しでもわかった。

「んっふっふ~!そっかー!じゃあ慰安旅行だね♪楽しみだなぁ!」

「おい!何勝手に楽しい旅行にしてんだ!?テメェの魔力を回復できる所に行くだけだろうが!」

「ノンノン!エリリン甘いなぁ、こういうのは思いっきり羽を伸ばしてリラックスする事によって回復するんだから!ボクの好きなことをするのが一番でしょ?」

「ぐっ…!まぁ、そうだが…」

「じゃあ決まりだね☆楽しい所にいっぱい行こうねエリリン♪」

さっきからコイツはすげぇはしゃいでいる。だがそんな事よりも俺はさっきからある事で途轍もなくイライラしていた。

「さっきからテメェは!俺の事をエリリンと呼ぶなって言っただろうが!!俺のこと何だと思ってる!?」
「エリリン」

「即答かよ!違うわ!!」

「んっふっふ~!ごめんごめん、これからが楽しみ過ぎて!…で、本名なんだっけ?」

「テメェ…!いいか!耳かっぽじってよぉく聞いとけ!!」

俺はそう叫ぶとその場で華麗にクルクルとターンし、お決まりのL字ポーズをとる。…ふ、キマったぜ。


「俺の名前はエル!泣く子も黙る緑の貴公子、Mr.Lだ!!」


おわり



次、あとがきとおまけ
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