Lという名の男の話《後編》
リンゴンリンゴンと、遠くから鐘の音が聞こえる…。
爆発を受け気絶してからどの位時間が経ったのか。長い年月が経ったのか、それともほんの数分しか経ってないのか、気絶してたからよく分からない。
目を開けたら一面真っ白だった。何処を向いても白。天井も床も何もかもが無い、真っ白な空間と言った方がいいかもしれない。
そんな真っ白白な空間の中を俺は水中に漂う水死体の様にフヨフヨと漂っていたのだ。
ていうか何処だここ。俺はあの時死んだ筈だろ。こんな無重力でフヨフヨ浮ける場所なんて現実には無いだろうし…。
「ここは、あの世…なのか…?」
「うーん、ちょっと違いますわね」
・・・。
「!?」
まさか独り言に返事をされるとは思っていなかった俺はかなりビビった。
いやいやだって普通いるとは思わねぇじゃん。さっき周り見渡した時俺以外誰もいなかったんだからな!本当だぞ!こんな何も無さすぎる空間で人一人見逃すってどんだけ俺の目節穴だよ!って話じゃん!
兎に角慌てて声のした方へ振り向くと、そこには如何にも高そうなドレスを身に纏った女性が浮いていた。
うん、立ってたんじゃない、浮いていたんだ。そりゃそうだ、俺だって浮いているんだもの。こんな天井も床も無い所でどうやって立つんだよ…と、俺は全くもって頭の理解が追いついていない現状に対してちょっとした現実逃避をしていた。
そんな下らないことを考えポカンとしている俺を見て、女性は「あら、驚かせちゃったかしら?ごめんなさいね」と苦笑しながら謝ってきた。
「ここは…そうね、貴方の夢の中、だと思ってくれればいいわ」
「は、はぁ…」
「貴方は、まだ死んでいない。今はまだ、夢から覚めていないだけ」
「俺は、死んでないだと…?」
どういう事だ!?あんなに凄い爆発の中生き延びたとでも言うのか!?何だか頭がこんがらがってきやがった。
俺が混乱しているのを見越してか女性はその事について話し出した。
「そう、貴方は肉体から離れ思念…ようは魂だけになってしまった。言わば幽霊ね。しかもその魂も人造による紛い物。あの世にすら行けずそのまま消滅するはずだった者」
なんだかすげぇ言われようなんだが。これは怒った方がいいのではないか…?
俺がそう思っていた所に女性は「でもね…」と話を続ける。
「二人の男女が永遠の愛を誓ったことによって生まれたピュアハートの力と、あの子の魔力によって、貴方はもう時期目覚めようとしているわ」
二人の男女?永遠の愛??あの子の魔力???それが何故俺に関係がある…?
くっ…、ここまでよく分からないともうどうでも良くなるな。取り敢えず俺はもうすぐ目覚めるということは理解した。
「うーん、色々よく分からんが、取り敢えず俺は生きてるってことで良いのか?」
「えぇ、そんな所よ。後…」
「あと?」
「私は貴方に感謝をしにきましたの」
「…は?」
唐突の感謝の言葉に俺はもう何がなんだかさっぱり分からない。
「別に、アンタに感謝されるようなことはしていないんだが…」
「いいえ、私はあの子の母親として貴方に感謝をしているのです」
「は、母親!?」
「えぇ、…あ、これは言わない方が良いわね、きっと怒ってしまうわ。
…誰かはちょっと内緒だけれど、あの子は貴方といるととてもイキイキしているのです。この長い時の中で貴方と話をしている時は本当に楽しそうだった。
でもそれで貴方に迷惑を掛けていたのも事実。それは謝罪をしなければなりません、ごめんなさいね。
でも、あの子はこれからも貴方と遊びたいのですって。きっと貴方を良い友達だと無自覚に思っているのかもしれません」
そう言って女性は苦笑していた。
…一体誰の話をしているのかさっぱり分からん。
「よくは分からんが…そいつは良い母さんを持ったんだな」
「うふふ、そう言ってくれると嬉しいわ」
そう言って彼女は微笑む。だが俺はその彼女の微笑みが段々と霞掛かってきたのだ。
「ん?…何だ…?」
よく分からず取り敢えず目を擦ってみる俺に対し、彼女は「目覚めの時ね」と一言呟いた。
「目覚め…?」
「えぇ、貴方は此処から目覚めるの。あの子はしっかりできたのね」
「?」
本格的に視界がぼやけてきた。もう女性はちゃんと見えず輪郭だけしか分からない。そんな中…
「あんな子だけど、仲良くしてあげてね」
彼女からのその言葉を最後に、俺は完全に視界が真っ白になり何もかも見えなくなった。最初から最後までよく分からない人だったなぁと思いながら俺は再度意識を手離すことになったのだった。