Lという名の男の話《後編》
近くにいた俺は爆風で倒れ数メートル程転がった。痛かったが奴がどうなったのか分からない為いてもたってもいられず、何とか起き上がり急いで爆心地へと向かう。
爆心地には、今までの闘いと先程の爆発でボロボロになったマイブラザー。そしてそのすぐ傍にもっとボロボロになっていたマイブラザーの両手が落ちており、奴はその両手から出た瓦礫の中にボロボロの状態で埋まっていたのだった。
「…」
奴は気を失っているのか、それか喋れないのか喋らないだけなのか判別がつきにくい状態ではあるが、俺はお構いなしに喋ることにした。
「けっ…ざまぁねぇな…」
「…キミ…もね…」
「なんだ、喋れるのか」
「ギリギリ…だよ…ちょっと、遊びすぎちゃった…」
「ディメーン、もうこれに懲りたらとっとと僕の身体から出て行ってくれるかい?」
マイブラザーから降りてきたルイージがこちらにやって来て早々ディメーンにそう言った。
「…んっふっふ、まだ…だよ」
「な!?…どうして!?」
「…君の身体は忠実だし混沌のラブパワーは健在だ。予言の力はボクについている」
「そんな事ないよ!だって、今の君はこんなにもボロボロじゃないか…!」
「…ボクの精神はちょっと傷ついたけど、まだボクの魔力は残ってる。ボクの魔力が尽きるまではヒゲヒゲ君達と戦うさ、予言は絶対だ」
「そんな…これ以上ボロボロになってまで予言通りにしないといけない訳!?」
「当り前じゃないか。…予言は、覆されるものではない…この世界は、予言通りに滅ぼされなければならないのさ…」
「テメェさぁ!…ととっ」
何かイライラしてきた俺は我慢できずにそう口を出した。だがその途端身体がぐらついて倒れそうになった所を後からルイージに支えられる形となった。俺はルイージに「すまん」と言いつつ、ちょっと恥ずかしいから軽く咳払いをした。
「んん、テメェはさぁ予言に囚われ過ぎだっつーの!ヘラヘラしてる割には頭カッテーんだな」
「なん…だと…!?」
「世界を壊したい理由があるのかもしれんが、それはテメェのワガママだ!テメェだけが住んでるわけじゃねぇんだぞ!それぞれの営みってもんがあるんだ!」
その俺の言葉に奴はガバッと起き上がり俺の前までツカツカと怒りながら歩いてきた。ダメージも気にならない程の怒りようだ。俺もだがな。
「さっきから偉そうに…!キミにボクの何が分かる!」
「分かるかぁ!!伝える努力をテメェが怠った癖に何逆切れしてんだ!」
「だからと言って知らないくせにキミがそんなに怒る権利なんて無いね」
「大有りだわ!!こちとらすげぇテメェに迷惑掛けられてるから怒ってんだよ!!」
「ボクがいつキミにどんな迷惑を掛けたって言うんだい!?」
「全てだよ!テメェと出会った最初から最期まで全部だぁ!!」
「ちょ、ちょっと!落ち着いてよ!」
レフェリー(ルイージ)からの止めが入り俺達は一度クールダウンする。
だが奴が先に吠え出したのだ。
「とにかく!予言は絶対なんだ!ボクはこの世界を滅ぼさなければならない!」
「なんでそんなに頑ななんだよ!全ての命を奪うことなんだぞ!?お前一人がそんな業背負わなくたっていいじゃねぇか!そんなこと考えずにもっと自由に生きろよ!」
「…。それでいいんだ。新世界の王になれるのなら。それでいい」
「…バカだろお前、国民のいない国王なんて、滑稽にも程がある」
「滑稽?…はは、その言葉程ボクに似合う言葉はない。ボクは魅惑の道化師ディメーンだ。人々を惑わせ面白おかしく、滑稽に魅せるのがボクさ」
そして奴は浮き上がり両手を上に掲げ始めた。
「滑稽な王は僕一人で十分さ!キミ達はボクの為に今この場でゆっくり眠りにつくがいいさ!」
「「…!」」
こいつ…!まだ動けるのか…!?
俺はルイージから離れ、二人とも何が来てもすぐ避けれるよう身構えた。
奴が笑いながら「死ねえええ!!」と叫んだ瞬間、突然画面の方から物凄い爆発音が響いてきたのだ。
『「グ…ガッ!?」』
何が起こったのか分からなかったが、爆発音と同時に奴がうめき声と共に下に落ちてきたのを見て向こうでも決着が着いたのだと悟った。
「あ、あれ…?」
下に落ち大の字になって倒れた奴を見ていた俺の後で、ルイージが何か驚いていた。それに気づいた俺は後を振り返ると、なんとルイージが光り輝いていたのだ。
もしかしたら、ルイージはここから戻れるのかもしれない。だが当の本人は突然のことでオロオロしていた。
「ど、どうしよ、僕消えるのかな…?」
「ばぁか消えねぇよ。お前は戻るんだよ」
「え!?そうなの!?良かったー!…君は?君はどうなっちゃうの!?」
ほんと、表情豊かな奴。さっきまで喜んでたのにもう俺の事を心配してやがる。あ、またやっちまったブーメラン。
「俺はいい。ここに残る」
「な、なんで!?君は僕なんだろ!?一緒に行こうよ!!」
そう言ってルイージは俺に手を伸ばした。ったく、コイツは…。
「俺を誰だと思ってやがる?」
「え?」
ポカンとしている奴の目の前で俺はお決まりのLポーズ(ターンしない簡略版)をした。
「俺は緑の貴公子Mr.Lだ!俺の生きざまは俺が決める。俺がここに残ると言ったからにはここに残る!さぁ!行け!…兄貴によろしくな」
「…うん。ありがとう!Mr.L!ありがとう!」
そう言って涙目になっていたルイージは光の粒となってここから去ったのだった。
そして俺は振り返り奴の元へと向かう。
ルイージが消えてから辺りがドン!ドン!と爆発し出した。
そんな中奴は未だに大の字になったままだった。
何でだろうなぁ。
あんなに奴がボロボロな姿になるのを望んでいたのに…。嘲笑ってやろうと思ってたのにな…。
今は全くもって何も感じないんだ。逆に奴を痛々しく思っている自分がいる。片腕片脚が無い自分の方が痛々しいのにな。皮肉な話だ。
奴は戻ってくる俺に気付き力なく笑った。
「キミは馬鹿だな戻ってくるなんて」
「うるせぇ、俺はテメェをぶん殴るって言う目的を果たせていないんだ」
「…はは、面白い目的だ。じゃあ今殴ったらいい。もう今のボクは力を使い果たして動けないんだ。殴り放題だよ?」
「バカかテメェ。今じゃ意味ねぇんだよ。いつもの様におどけて俺を小馬鹿にしてくるテメェじゃなきゃ意味ねぇんだよ」
爆発が激しくなってきた。もうすぐ俺達は消え去るのだろう。俺は意味が分からないですって顔をしている奴にヘラッと笑った。
「どうせ俺達死ぬんだ。だから…
あの世でテメェをボッコボコにしてやるぜ、ディメーン」
これは俺の我儘だ。俺が死ぬまで奴には奴でいてほしいんだ。
それに本当に、あの世で奴と会ったら殴ってやりたいとは思っている。
俺の言葉に奴はポカンとしていたが、次第にタガが外れたように笑いだした。
「…はは、ハハハハハ!!そうか!ハハハハハ!!そりゃあ楽しみだ!
…じゃあ、アデューエリリン!次会うときは地獄だ…!」
「ふん、首洗って待っとけ」
そう言った直後、俺達は激しい爆発に巻き込まれ、俺は意識を手離したのだった。