Lという名の男の話《後編》


先程のテンションはどこに行ったのか、ルイージは俺の言葉を理解した途端急に慌てふためきだした。

「ちょ、ちょちょちょ待ってよ何かの冗談!?あ、そうだよ冗談でしょ!ドッキリ?もー!僕騙されちゃったよ焦ったー!そうならそうと最初から言って…ぐえっ」

俺は突然のことで混乱(?)しているルイージの首根っこを掴みエルガンダーZの元へ歩き出す。首根っこを掴んで歩き出した際に「くっ…!ドッキリで押し通そうとしたのに…!」と小さく言っていたがスルーしといた。流石に無理があるだろ。

「ちょ、ちょちょちょっと待って!!僕!?僕が乗るの!?」

「そうだ」

「いやいやいや無理だって!あのロボットは君のだろ!?君が乗ればいいじゃないか!」

「いや、無理だ」

「な、なんで?」

「俺は今利き手が無い。マイブラザーの操縦は繊細だからな、両手を使わなければ十分な力を発揮させることができねぇ。だから今乗れるのは五体満足なお前しかいないんだよ」

「で、ででででも僕一度も乗ったことないし、ましてや今さっき初めて見たんだよ!?操縦なんてできる訳が…」
「いや…」

俺はルイージの言葉を遮るようにそう言葉を発した。そしてルイージの顔をジッと見る。ルイージはいきなり遮られて戸惑っているようだった。

「お前ならできる。身体が覚えている筈だ。なんてったって…


お前は俺なんだからな」


「…え…?」

「という訳で行ってこい。適当に触っときゃ何となく分かるだろ」

「え!?ちょ、…あいたぁ!!」

さて、マイブラザーの足元に着いた。俺はポカンとしているルイージをマイブラザーの方へ転がす。アイツから抗議の声が上がる前に早く乗るよう促しておこう。

「早く乗れ!お前が慣れるまでの時間は俺が稼ぐ!」

「ぐ、…う~~…もう!どうなっても知らないからね!!」

俺の言葉に文句すら言えなくなってしまったルイージはそう吐き捨てるように言って大きくジャンプし、マイブラザーのコックピットの中へ入っていった。なんだよ、乗り方教えた訳じゃないのにすんなり入れているじゃねぇか。これは思ったよりも大丈夫かもしれないな。

俺はそう思いニヤッとしつつも急いで奴の行方を探し始めていた。それは先程までミサイル攻撃をしていた俺の愛機ことエルガンダーZが関係している。
現在マイブラザーはルイージが搭乗したことにより俺がした口頭での攻撃命令が無効となって待機状態に戻っていたからだ。
雨のように降り注いだミサイルの猛攻が止んだということは此方の大きな隙であり、奴にとっては大きな好機であるということだ。

くそ、奴を見つけようにもミサイルの爆発による煙が邪魔で何処にいるか分からない。これは思わぬ誤算だったな。
俺はとにかく周囲を見渡し気配を探る。するとここから少し離れた所の煙が不自然に動いているのに気付いた。
きっとあそこだ!そこに奴がいる!と思い駆け寄ろうとした時俺の周りの煙が晴れてきた。そのお陰で視界が良好になった時、煙を動かしていたものの正体が分かったのだ。

それは奴の放った魔法弾だった。
ゆっくりだが確実に俺に目掛けて飛んできていたのだ。視界不良と俺が駆け出していた為気付いた時にはもう俺の目の前まで迫っていた。

「うわっ…!?」

やべ、正直すげぇビビった。思わず声に出ちまった。俺は咄嗟に横へ倒れ込み魔法弾との接触をギリギリの所で回避した。
だが避けた魔法弾はそのままふよふよと飛んでいき、なんとマイブラザーの足元に着弾したのだ。マイブラザーは少しダメージを負ったようだが遠目から見て装甲が少し削れただけで済んだようだ。

今の攻撃は俺…というよりもマイブラザーの方を狙っていたのか?…いややっぱりそうだわ先程の攻撃を皮切りに次々と魔法弾がマイブラザー目掛けて飛んでいきやがる。
ルイージも被弾に気付いた様で、ぎこちない動きではあるが何とかマイブラザーを動かし魔法弾を避けていた。中にいるルイージも相当焦っているのが目に浮かぶ。
だが焦っているのは俺も同じだ。奴は俺達の主戦力であるマイブラザーを落としにきているのだ。うかうかしてられない。まずは標的をマイブラザーから俺に変えなければ…!

…と思った矢先、此方から煙の中に隠れている奴の姿を発見した。丁度良く煙も晴れてきている。そしてありがたいことに奴は未だ俺に気が付いてねぇ。
…もうここは行くしかないだろ…!

そう思った直後俺は立ち上がり勢いよく走り出していた。

片腕が無いせいかバランスが崩れ今までのようにうまく走れなくなっているのが分かった。だがそんなの構う余裕なんてなかった。奴が気付かない内に一気に距離を詰める!

全速力で走り奴との距離が後数メートルという位置で、少し高い位置に浮いているあの野郎目掛けジャンプした。きっとマイブラザーへの攻撃に集中していたのだろう。奴は俺がジャンプしたその時になって気付いたらしく、俺に気付いた瞬間「うそんっ!?」と軽くビビっていた。
そして俺は左拳に力を籠め驚いている奴の仮面に向かって思いっきり殴りかかった。

「おっとっと☆危ない危ない」

そう言いながら奴は後方へ飛び退き間一髪の所で俺の攻撃を躱した。相変わらず減らず口である。
だが俺もこの攻撃だけでは終わらない。地面に着地した直後すぐにジャンプし奴へ飛び蹴りを仕掛ける。

「おっと♪流石エリリン良い蹴りをしているね」

「ちっ…!だから…エリリンじゃ…!ねえ!!」

俺は何度もジャンプ蹴りやパンチを繰り返しているが未だ奴に一発も当たっていない。奴に俺の動きを読まれてしまっているようだ。先程の奇襲が失敗に終わった今、悔しいがこのままでは奴に一発でも当てる可能性はもう無きに等しいのだ。
俺の言葉を聞いて奴は俺から少し離れ「これは失敬、ちゃんと直さなければならないね」と言ってきたのだ。

「では…身体を失い、相棒と言っていたロボットも壊され、伯爵ズの幹部という地位もなくなり、今度は自分の右腕まで失くしたMr.L」

「…っ!?」

「キミは…今度は一体、"何を"失くすんだろうねぇ…?」

「てめぇ…!!!」

俺は奴の言葉でカッと頭に血が上り一目散に走り出していた。そして怒りのままにジャンプからのパンチや跳び蹴りなどを繰り出していくが、悔しいことに悉く避けられてしまう。それが余計俺を苛つかせていた。
そしてそんな中奴が俺の攻撃を躱した時に少し高く飛び上がったのだ。奴が飛び上がった隙に、俺は身体を文字通り折り曲げた後勢いよく奴に向け大ジャンプをしたのだ。

「スーパージャンプ!!」

「ノンノンノン、当たらないよ~エリリン?」

奴の言う通り俺の渾身の大ジャンプは奴から外れそのまま大きく飛び上がる形となった。
この大ジャンプは普段だったら外した場合天井にぶつかって力無く落ちるしかないという隙の大きい技であるが、今回は特別だ。何てったって此処はぶつかる天井が無いんだからな!ぶつかって力無く落ちることなく降りてこられるのだ。これは大きいメリットだぞ?

何てったって、このまま攻撃ができるのだからな。

俺は上昇から下降に入るタイミングで身体をクルッと一回転させ、奴の頭目掛けて左脚を突き出した。所謂ライダー的なキックって奴。
浮いている奴よりもずっと高い所からの蹴りだ、きっと当たったら高威力になるに違いない。そして幸いなことに奴は俺が技を外したと勘違いをしている様でその場から動く気配が無い。全くもって好都合だ、このまま俺の蹴りの餌食になるがいい。

「…っ!?」

奴との距離が後数メートルという所で奴は俺に気付いた。だがもう遅い。
下降の力を借りた俺の蹴りは豪速球の様に速いのだ!そのまま当たっちまえ!!

「おりゃあああっ!!!」

ドゴーン!!という凄まじい音と衝撃。そして何かに当たった感触が脚に伝わる。
これは絶対に当たっただろう。そう思い視線を足下に落とすと…

奴の仮面があると思っていた所には、小さいが黄色く四角い空間が作られていた。
俺が蹴ったのは奴の次元魔法である黄色の空間だったのだ。

しかも俺の左脚はその黄色い空間にめり込んでしまっていた。これを見てからはもう顔面蒼白だ。
どんなに抜け出そうともがいても全くもって抜けない。もう俺は逃れられないのだ。

「いやぁ、今のはちょっと危なかったかな♪もうギリギリだったよ。それにしても凄い蹴りだったね~、まさかめり込んじゃうなんて」

そう言いながら此方を見上げてる奴と仮面越しに目が合う。ニタニタと、とても気持ちの悪い笑みを浮かべているのが分かった。

「次失くなるのは、左脚だね♪」

そう言いながら奴は指をパチンと鳴らしたのだ。

ドーン!!という爆発音。言葉にならない脚の痛みと共に俺はその場から下へ抵抗することもできず力無く落ちた。

一発も奴に当たらなかった。
それが堪らなく悔しい。

だが、悔しくもあるが内心俺はニヤリともしていた。

「へっ、ざまぁみろ」

俺は落ちながらもニヤリとした顔でそう吐き捨てる。
それは、俺が下へ落ち始めたと同時に巨大な拳が俺の上を通り見事に奴へとぶち当たったからだ。
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