Lという名の男の話《後編》


ピリピリと伝わる奴の殺気と俺が身構えるのを見てルイージも身構える。
そんなコイツに俺は話しかけた。

「おい」

「な、何?」

「俺に協力しろ。あの野郎をぶん殴ってお前の身体取り戻すぞ!」

「え、で、でも、君は一体…どうして僕を…」

「うるせぇ!早くあの野郎をぶっ潰さないと世界どころかお前の兄貴も死ぬぞ!」

「!?」

「俺も奴をぶん殴りたい、ただそれだけだ。お前も俺に協力すれば世界と兄貴を救える。悪くはないだろ?」

そう言って俺はルイージの顔を見る。
奴はさっきから気味の悪い笑い方をしながら両手を上げ魔力を込めているのを感じる。ここで早急にコイツと協力して奴を倒さなければ俺と共にコイツも仲良く消えるだろう。急がなければならなかった。

「…分かった、協力するよ!」

ルイージもこのままでは消されるということを分かったのだろう。そして覚悟したのだろう。俺が何者かも分からないが協力しなければいけないということを。俺がちゃんと説明しなかったせいか色々大変なことになった。悪ぃなルイージ。反省はしていないがな。

そしてルイージが承諾した瞬間、奴の手から無数もの魔法弾が放たれたのだった。
魔法弾は先程のルイージとの闘いでも見たものではあるが、数がエグかった。やはり混沌のラブパワーの影響からか、一度に出せる数が格段に増えたのだろう。何十もの魔法弾が幾重にも重なり、まるでシューティングゲームの弾幕を見ているかのようだ。

「来たぞ!」

「うん!」

俺とルイージは此方に飛んできたいくつもの魔法弾を避けていく。
きっと魔法弾一つ一つの攻撃力も相当跳ね上がっているだろう。それに精神体の俺達が魔法を食らった場合無事でいられるか保証がない。出来るだけ被弾は避けたいものだ。
そんな避けゲー状態の中、ルイージが俺に話しかけてきた。

「ね、ねぇ!」

「なんだ!?今更降りるとか無しだぞ!」

「わ、分かってるよ!…うわっ!」

ルイージは驚きながらも顔面に飛んできた魔法弾を間一髪で避けた。ルイージが避けた魔法弾は後のソファに当たった瞬間パァン!と爆発した。勿論そのソファは魔法弾が当たった所は見る影も無かった。ありゃ当たってたら首ごとイッて即死だったかもな。

「そうじゃなくて!彼を倒さなきゃいけないのは分かるけど、何か…作戦とか、勝算とかないの…!?」

「勝算?ねぇよそんなもん」

「ええっ!!?無いの!!?」

ルイージは魔法弾を避けながらも「無いのにあんな大口叩いたの!?嘘でしょ!?」と言ってきた。
俺も此方に向かってくる魔法弾を避けつつ「まぁな」とその言葉に答えたのだ。

確かにそうだ、大した策なんて考えてないからな。

「え、いや褒めてはないよ…?そんなカッコつけて言うことではないからね!?…ねぇ聞いてる?」

それは奴の強さが分かっているからだ。真っ向から勝負しても負けるだけだとな。

「ちょっと聞いてる…!?僕褒めてないからね!?このまま避け続けるだけじゃ僕達お陀仏確定なんだよっ!?」

…だが、俺はただあの野郎に素直にやられて消されたくはない。だって納得いかないし腹立つじゃん。

「僕達で何とかして僕の身体を取り返さないと兄さん達まで危なくなっちゃうし…て、ねぇ、やっぱり聞いてないよねっ!?」

絶対何が何でも足掻いてやる。死物狂いでもな。そして奴の悔しがる顔を見てやるんだ。

「ねぇってば!!」

「あ?」

「急に一人の世界に入らないでくれよ!ビックリするじゃないか!」

「おぉ、悪りぃ」

「もう!このまま避けてるだけじゃ駄目なんだって君も分かるだろ!一発ぶん殴るって言うんなら何か策が無いとっ…とと!?」

一応言っておくが俺とルイージは今こうして話している時も、途切れる事なく降り注ぐ奴の魔法弾を躱し続けている状態だ。俺もコイツも跳んだりしゃがんだり身をよじったりして魔法弾の隙間を縫うように避けている。こんな激しい攻撃の中でコイツは躱すだけでなくまぁよく喋る。何気に器用なんだよなぁコイツと思わず感心してしまう。あ、俺もコイツだったわブーメラン。

だがなぁ、マジで無いんだよなぁ、策。

足掻いてやる、なんて偉そうなこと言っちまったがマジで何も思いつかないのだ。だって考えてもみろよ、奴が混沌のラブパワーの力を会得した以上、先程の兄貴の場合と同様にこの精神世界でも奴が無敵であるという可能性があるんだぜ?加えて奴との実力差。このまま何も考えず突っ込んでいった場合、確実に此方側が負けるのだ。

そうなると無駄に体力を減らしながら果敢に攻撃をするよりも、こうして必要最低限の動きだけで奴の攻撃を避け、此方の体力を温存しながら出方を伺い隙を突いた方が良いだろう。
まぁ、こんなに魔法弾をばら撒かれては此方もそう大胆には動けないし、そこまで体力を消耗することはないだろう。まぁ、奴が速攻で畳み掛けてこなければって話だがな。

「という訳でこのまま避け続けるぞ」

「ぇ、ええ?という訳って?え?」

「奴の攻撃の合間の隙を突く。それまでとにかく生き残るんだ。被弾したら死ぬぞ!」

「わ、分かったけど自己完結で話を進めていくのやめてくれるかな!?話の流れさっぱり分かんないんだけどっ!」


「さっきからゴチャゴチャと何喋ってるんだ~い?」

「「!?」」

突然奴の声が聞こえたかと思った途端、突如足元の空間が揺らいだのを見て俺は反射的にルイージに叫んでいた。

「ルイージ!下だ!!」

「!?」

俺の声を聞いたルイージは「うわわ!」とビビりつつも後ろへ飛び退いた。ルイージが飛び退いたと同時に俺も後方へ飛び退く。その瞬間俺達がいた場所に黄色くて四角いものが形成され、その空間もものの数秒で爆発した。危ねぇ、間一髪だ。
だがうかうかしていられない。この次元魔法は前回での戦い同様連続で仕掛けてくる筈だ。そしてそう思っている間にも次の空間の揺らぎが見える。

「まだ来るぞ!逃げろ!」

「うんっ!」

俺とルイージは走り出す。幸いなことに奴もこの次元魔法を撃つにはコストがかかるらしく、この魔法を撃っている間は魔法弾のばら撒きはしないようだ。だがやはりと言うべきか発動させる魔法の回数が前回よりも多いし発動させるまでの時間も速い。此方も結構なスピードを出しているが後の爆発音が全く遠ざからない。やべぇな、下手したら追いつかれるかもしれない。本気で逃げ回らなければいけないだろう。

だが、避け続ければ必ず切れ間があるはず。唯一の勝機はそこだ。

「おい!奴の攻撃が終わったら急いで奴の下へ行くぞ」

俺は奴には聞こえない位の声でルイージに伝える。まぁこんなに爆発もしているし遠くにいる奴には聞こえないだろう。だがルイージは俺の言葉の意味を汲み取ったのだろう。しっかり俺の目を見て首を縦に振るだけに留めたのだ。
え?何でルイージと一緒の方向に逃げてるんだって?
うっせぇよ!俺はコイツなんだぞ!?咄嗟に逃げる方向も一緒になるに決まってるじゃねぇか!あぁもう恥ずかしいから言わせんな!

兎に角、奴の攻撃の切れ間に間に合うように急いで奴の元へ向かう。
俺もルイージも攻撃射程範囲が狭いからな。それに奴は今も尚、『「ルイルイルイ!!」』と壊れたように笑い狂っている。きっと大きな力を手に入れて悦に入っているのかもしれない。そんな緩み切った心の隙を突くのは今しかない。
そして奴はタイミング良く俺達のジャンプが届きそうな位置まで下りてきていた。これは好機だ!
俺とルイージは攻撃がギリギリ届きそうな距離に達した瞬間、力強く地面を蹴り高くジャンプをする。そして奴が自らよりも高い所にいる俺達に気付き顔を向けた瞬間、俺達は奴の顔を力強く踏み抜いたのだ!

だが、踏み抜いた瞬間、まるで分厚い金属を踏んだような途轍もなく固い感触とカン!といういかにもダメージ入ってませんよ的な音が聞こえてきた。うわー、やっぱり効いてないかぁ。予想していたとは言え実際そうだと中々にキツイ。そして俺達が着地した時に、あの野郎は俺達を小馬鹿にしたようにせせら笑っていたのだ。

「ンフフ、そんな攻撃、痛くも痒くもないねぇ~」

そう笑いながらほざいてる奴に背を向け俺達は走り出す。兎に角今は逃げなきゃヤバい。次にどんな攻撃が来るか分からないし、当たったらひとたまりもないからな。

「ね、ねえ!攻撃効かなかったよ!?どうするのさ!?」

「兎に角今は逃げるんだよ!次の攻撃がくるぞ!」

「何処に行くんだ~い?ルイルイルイ!」

奴の声が聞こえた瞬間、俺達の進行方向に次元魔法である黄色い空間が出てきたのだ。

「うわあ!!」「おわっ!!」

俺達は叫びつつもぶつからない様慌てて減速をして事なきを得た。
だが、それが間違えだったのだ。

俺は見えてしまった。
俺から見て右側、止まったルイージの足下に空間の揺らぎが出ていることに。そしてルイージはまだ気が付いていないんだ。

「っ!?」

俺は咄嗟にアイツへ手を伸ばす。
俺はどうなってもいいがコイツは駄目だ。もうそう思ってからは無我夢中だった。

俺は右手でルイージの肩をドン!と強く押した。その衝撃でルイージは「あばばっ!?」と奇声を上げながらその場から吹っ飛んだ。ふぅ、取り敢えず良かった、と思った瞬間。

俺の右腕が黄色い空間に巻き込まれた。

「…っ!?」

「え…」

俺は息を呑む。どんなに腕を動かそうとも黄色い空間はびくともしない。流石次元魔法とでも言うべきか。ルイージは俺に押されて以降、何が起こったのか理解が追いついていない様子だった。

「んっふっふ~」

そして奴の笑い声が聞こえた途端、パチン!という指鳴りと共にドーーーン!!と耳をつんざく大きな爆発が目の前で起きたのだった。
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