Lという名の男の話《中編》


「る、ルイージーーー!!!」

俺はアイツの名前を叫ばずにはいられなかった。
な、何てこった…。恐れていたことが起きてしまった…。アイツは一体どうなった…!?

「ま、まさか…死んだとかじゃ…ないよな…?」

予想される最悪なシチュエーションに、俺の心臓はさっきからフル稼働を超えてオーバーヒート寸前だ。静寂な空間だからか鼓動がドコドコ鳴ってるのがすげぇ分かる。

「お、落ち着け…落ち着け…」

兎に角落ち着かなければ…!俺は何度かスーハーと深呼吸を繰り返す。少し落ち着いた所で改めて考えを巡らすことにした。
あの野郎が最後に繰り出した魔法は、かつて俺や兄貴達がやられたことのある魔法だ。空間を魔法で指定し固定、そして固定した空間を爆破させるという、いくつもの魔法を応用した高度な魔法攻撃だ。

だがそうだと判断したと同時にある疑問が湧き出てくる。それはその魔法攻撃はどれ程の攻撃力を有しているのか?という点だ。

あんな凄い爆発を受けたのにも関わらず、アンダーランドに着いた時の俺達は無傷、ピンピンしていたのだ。その時は色々混乱してたし、俺はあの魔法で死んだからそこにいたのだと思っていたが、地獄の番人であるジャーデス様曰くルイージ達は死んではいないらしい。
そこから考えると、魔法攻撃の攻撃力が高かった場合、あの野郎は爆発させてボロボロになった俺達をワープさせた後わざわざ回復させたってことになっちまう。

…いや、いやいや!絶対ない断・じ・てありえない!あんなに周りの事を考えていないあの野郎が俺達の身体をいたわる訳ない。この考えはなしなし!
ということは、あの魔法自体に攻撃力が然程無かったかも、という仮説に行き当たる。やはりあの魔法に何かカラクリがあるはずだ。

ここでおさらいしておこう。
奴が主に自慢してよく使っていたのは、次元魔法、爆発魔法、幻影魔法、魔法弾を入れての四つだ。
そしてその魔法の使い手が、よく相手を欺くあの野郎ってことを忘れてはいけない。相手を欺く為に魔法を使うということもある筈だ。ふん、とんだ嘘吐き野郎だぜ。

(…ん?嘘?)

そう思った時、俺の頭の中で一つの考えが導き出されたのだ。

「そうか…!あの魔法、爆発魔法じゃねぇんだ!」

爆発自体の攻撃力が弱い訳じゃ無く、爆発しているように見せているんだ!幻影魔法を使って!

くっそー!なんだよそれ普通に熱かったし!錯覚までしてくんの反則だろ!いやほんと、錯覚じゃなかったら大火傷だったぞ絶対!これは死んだ!って思った位なんだからな!ほんとだぞ!

ごほん、まぁ、こっちの考えの方がしっくりくるな。奴は次元魔法で空間を指定して、その空間内を幻影魔法で爆発しているかのように見せる。そして錯覚からの思い込みによって気絶した俺達をそのまま次元魔法でワープさせたんだ。俺達にも周りにも爆死したと思い込ませる為に。一回分かっちまえば簡単なことだったのだ。やってることはかなりふざけているがな。使用魔力も俺から見たら結構エグいと思うし。

そしてそう考えると、今この状況にも説明がつく。

もしルイージが死んだとしたら、その時点でルイージの中にいる俺も消えている筈なのだ。この俺が消えてないって事実が、あの野郎の魔法は幻影だったって証拠だな。

「…ってことは、アイツは生きているんだ!よかったー!」

ホッとした俺はひとまず胸を撫で下ろす。だが、安心してはいられない。アイツは今も気絶している。

そして何より、一緒に爆発を受けたあの野郎も生きているはずなのだ!

アイツが生きているということは必然的にあの野郎も生きているということ。何をするか分かったもんじゃない!
ていうかそもそも!何故あの野郎はあんなことまでしてルイージを道連れに自爆したと見せかけたんだ!?奴の目的が全く分からない。分からない状況の中俺は腕を組み、うーん…と奴の目的をあれこれ悩んでいた時だった…。

『んっふっふっふ~♪』

「!!?」

砂嵐状態から変わらない画面からいきなり笑い声が聞こえてきたのだ。この声、笑い方は間違えようがない。…奴だ。やはり奴は死んではいなかった…!

俺は驚き画面を見る。未だに画面は元の状態に戻ることはない。アイツは気絶したままだということだ。

…これってかなりやばくね…!?

本当に何されるか分からなねぇじゃねぇか!

「おい!ルイージ!起きろ!!おいって!!」

俺は画面に向かって叫びまくる。だがアイツからの反応は全く無い。
焦る俺に対し、画面からはまたあの野郎の笑い声が聞こえてきたのだ。

『んっふっふー♪…さて、これでよし。君はこれからボクのしもべだ。そしてボクの作った最高のショーに欠かせないダンサーさ♪』

はぁあ!?しもべ!?ダンサー!?どういうことだ…!?
ていうかあの野郎やはりルイージに何かしやがったな…!

『でも、ダンサーとして芽吹くにはまだ時間がかかる。最後の自由を、少しだけキミに与えよう』

ちょ、ちょっと待て!時間がかかるってどういう事だ!?ダンサーとして腕を磨けって事か?いやそんな訳ねぇだろ!そもそもダンサーなんかにならんわ!

「だー!!もう!意味分からん!!言うんだったらしっかりと説明しやがれ!!」

イライラから思わず叫んだ矢先、奴は『んっふっふっふ~♪』というムカつく笑い方をしながら次元魔法を使って消えていったようだ。バシュっていう音がした後はもう声が聞こえなくなったからな。もうここにはいないのだろう。

「あーくっそー、腹立つなー!もー!」

俺は奴への文句を垂れつつどかっとソファに座った。そういえばあの野郎を見てからずっと画面の前に立って叫んでばっかりだったな。なんだか今頃になってドッと疲れが出てきた。はぁー、ソファふかふか、落ち着く。

だが落ち着いてばかりじゃいられない。
…本当は意味が分からな過ぎて考えたくもないが、奴の言葉の意味を考えなければ。

「えーと?しもべ、ダンサー、時間がかかるとか言ってたな。…後は…えーと…自由?最後の自由だったかな」

しもべとダンサーが印象的過ぎて他のワードが全く出てこねぇ。だがそれだけでも奴の話の内容がいかに不穏なのかが分かる。
しもべって…要は奴隷ってことだろ?怖っ!逆にダンサーとして育て上げられる方が良かったんじゃないかって思う位不穏だ。
しかも最後の自由ときた。今はまだ良いが後々奴隷になるということが確約しているということだろう。うわー…怖っ!しかも俺からはアイツにアプローチできないし対処もできそうもない、もうどうしようもないじゃん!怖ああっ!!


『ちょっと!誰か倒れているわ!』

「!?」

どうにもならないこれからのことに恐怖していると、ルイージではない誰かの声が遠くから聞こえてきた。

『緑色のオッサンが倒れているわ』

あの声と腹立つ言い方…マネーラか…!生きていたのか!

『ルイージ!?』

ピーチ姫も!?何で一緒にいるんだ!?

『何故こんな所に倒れておるのだ…?』

『確かここはディメーンがいた部屋だった気がするぞ!』

クッパとドドンタスの声も聞こえる。よく分からないが戦い終わった後合流したのか?だがよく生きていたな。俺はもう死んだものだと思っていたぞ。

『ルイージ!起きて!…ルイージ!』

『ん…ふああ…あれ…ピーチ姫…?』

どうやらアイツはピーチ姫に揺すられて意識を取り戻したようだ。欠伸をしながら伸びまでしやがって…、こちとら中々怖い目にあっているのに暢気なものだな。ちょっとイラっとするぜ。
だが画面の砂嵐がクリアになったことにより、画面いっぱいに心配そうにしているピーチ姫を見ることができた。…これはちょっと眼福だな。

『アンタ何でここで寝てた訳!?』

『オマエここでディメーンと戦っていたのではないか!?ディメーンはどこに行った!?』

『マリオはどうしたのだ!?何故奴はいないのだ!?』

『え、え、ちょ、ちょっと、一度に言われると分かんないって…っ』

うわっ、画面がピーチ姫から一気にマネーラ、ドドンタス、クッパのどアップになった。うわー凄い勢い、アイツ大変だな。まぁ、暢気に寝てた分ちゃんと説明しとくといい。
さてアイツ等の話を纏めると、戦ってた最中城の崩壊により死にそうになったが色々なラッキーが重なり無事四人とも合流できた、ということだ。なんてラッキーなんだ。

情報交換が終わると四人とルイージは様々なことを言い出した。

『気絶するくらいの爆発なのに火傷の痕がないなんて…アンタ本当に爆発したの?』

『し、したって!そりゃもう怖かったんだからっ!』

『とりあえずルイージに怪我が無さそうで良かったわ!』

『ふーむ…ディメーンがいないというのもよく分からんが…。もし爆発して吹っ飛んでいるならその内合流できるかもしれないな!』

『とにかく先を急ぐぞ!今頃マリオは伯爵と戦っているかもしれん!』

『『そ、そうだった!』』

『そうよ!行かなきゃ!伯爵様がピンチよ!』

『ドドンと伯爵様の元へ行かねば!』

『マリオ大丈夫かしら!?』

『兄さんならきっと大丈夫!僕らも行こう!』

ルイージの言葉を皮切りに五人は走り出す。今のルイージはきっと兄貴を助けることで頭がいっぱいになっているのだろうが、俺はこの先に進むことがもう不安で仕方がない。

きっと奴は待っている。

コイツが伯爵の元へ辿り着くことを。
そして予言の書の通りにことが運ぶことを。

何故奴はルイージをしもべにしようとしているのか。それは今のところ分からない。
だが奴が兄貴達に提案していた"伯爵の野望を阻止すること"だけが目的では無いのだろう。
恐らくは、伯爵や兄貴達すら利用しなければいけない程のこと…例えば…世界征服とか…?…いやなんか違う気がするな、あの野郎がクッパの様に世界征服を目指してる姿が想像つかねぇ。
と、とにかく!あの野郎が何かしらの計画を企てているのは明白だ!

俺は、あのクソ野郎が殴られる所を見ればいつ消えてもいいと思っていた。

だが今、俺の想像を超えたことが立て続けに起きてしまっている。

あの野郎は本当に一体何を企てているのか、そしてルイージはこれからどうなってしまうのか…。
くそぉ!気になって消えるに消えれない…!何なんだよもう!俺の予定には全く無かったぞこんなこと!
こうなったらアイツとあの野郎の最後まで見てやる!とことん付き合ってやるからなああああ!!!

そう思いつつ俺は、急いで兄貴の元へ向かうルイージを画面から見守るのだった。


つづく
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