Lという名の男の話《中編》
奴はふわりと宙に浮き頭上から攻撃魔法を放つ。ふよふよと飛んでくる紫と黄色でできた魔法弾をルイージは軽く躱す。
奴もその初弾を皮切りに部屋の様々なところに魔法でワープしては魔法弾を撃ってくるというヒットアンドアウェイをしてきた。銃撃戦とかでは基本になると思うが、遠距離技をあまり持ち合わせていないルイージにとっては、その戦法を取られるとちょっときつい。
それ故にルイージは現在奴から放たれる魔法弾を躱すのに精いっぱいになってしまっていた。
『くっそー、変な魔法使ってちょこまかと…!降りてきたらどうなんだ!』
ルイージは宙に浮いている奴に向かって声を荒げた。アイツも相当苛ついているようだな。
それに対して奴はふぅ…とため息を吐きながら両手を軽く上げ首を振るという、所謂やれやれポーズをしたのだ。は、腹立つー!
『やれやれ、変な魔法とは些か失礼じゃないのかい?それにボクは君の命を取りに来ているんだよ?自分の得意な方法で君と戦うに決まっているじゃないか』
『うっ…!それはそうだけど…』
『あぁ因みに、僕の使っている魔法は次元魔法。この魔法を使って空間を操ることができるのさ♪まぁ、他にも色々できるけど。次元魔法は君のお兄さんも使っているよね。でも僕は彼の力よりも"もっと"強力だから気を付けてね♪』
!!!?
え!!?あれ次元魔法だったのか!?やっべー勘違いしてた。普通に空間魔法だと思ってた。う、うわ、なんか恥ずかしー!
『わ、分かってるよ!そんなこと!』
俺は恥ずかしさから顔を両手で抑えうわー!と悶えている間に話が進んでいるようだ。
ルイージの返答に奴はニタニタと笑い始めたのだ。
『んっふっふ~、そうかいそうかい。じゃあこれはどうかな?』
そう言いだした途端、奴は一気に三人に増えたのだ。奴のお得意の幻影魔法である。幻影なので偽物には実体は無いが、偽物の攻撃もしっかりとダメージを食らう為注意が必要だ。
え?なんでこうも詳しいのかって?
その理由は実に簡単。俺が暗黒城にて俺の愛機であるエルガンダーを直している時、あの野郎はふらっと俺の所に来ては意味もなく一方的に話しかけてきて、ある程度喋り倒したら帰るっていう迷惑行為をよくしていたからだ(俺は殆ど無視してやったが)。
適当な話の中に奴の魔法のことも自分で説明しては自慢していたからな、何となく覚えてしまったのだ。…まぁ、本当に何となくだったんだがな。適当に聞いといて分かったつもりになるのはまずいって事だ。
俺が少しだけ反省している間に、三人のあの野郎がルイージに目掛け一斉に魔法を仕掛けてきた。
奴の魔法弾の速さは結構ゆっくりだ。こうして見ていても目で追えてしまうからな。だが一つ二つだけなら難なく躱せるが、それが三方向からいくつもの魔法弾をばらまかれると途端に躱すのが難しくなる。一つを避けたら他のに当たってしまうっていうのもざらだと奴は言っていた気がする。
『あいてっ!もうー!ちょこまかと!』
どうやらアイツ、死角から飛んできた魔法弾に当たったらしいな。画面からは確認出来なかったが、ちょっと痛そうだ。
だがアイツもやられっぱなしではない。
あの野郎が降りてきたのを見計らいジャンプ攻撃をしかけたのだ。高くジャンプし奴の頭を踏みつける。
『ぐぅっ!?』
「よおっし!!」
踏みつけられた際奴から呻き声が漏れ出る。
俺はもう嬉しくて大きく拳を振り上げた!よし!そのままガンガンやっちまえ!
気分はもう総合格闘技のテレビ中継をリビングで見ている感じだな。この空間に来てから今まで一番楽しかった瞬間かもしれない。
これで奴の動きに慣れたルイージは二度三度と踏みつけで攻撃を与えていく。そして攻撃を受けたあの野郎はお得意の空間魔法を使い、ルイージの攻撃が届かない空中にワープをしたのだ。
『ふふん、いい気になっているのも今の内さ!』
奴はそう言うと両手を頭上に掲げ力を籠め始めた。何かの魔法を発動させようとしていたのだ。
「む、何かくるのか…?」
今までに出した攻撃とは違うモーションだ。俺は少しの変化も見逃さないよう画面を食い入るように見た。ルイージも警戒しているようで奴の動きを注視している。
そんな中、俺は画面下、ルイージの足元に空間が揺らいでいるのを見つけたのである。
しまった!?
未だにルイージはその空間の揺らぎに気付いていない。これはまずい…!
「おい!!ルイージ!!下だ!!どっかに飛び退け!!」
焦った俺は無我夢中でそう叫んだ。アイツに届かないのは分かっている。だが、頭で考えるよりも先にその叫びが口から出てしまったのだ。
『へ?…うわっ!』
ルイージは一瞬何かに反応したような気がするが、下を見た瞬間慌てて後に飛び退いたのだ。そして飛び退いてすぐにルイージが先程までいた空間が覆われ、その空間の中で小さな爆発が起きたのだった。
あ、危ねぇ…間一髪だった。まさか下からくるとは思っておらず油断した!
あれは奴の次元魔法(さっき馬鹿にされたからな、もう忘れない)の一つだ。下から空間を指定しルイージを覆ってそこから爆発を起こすという、俺も喰らったことのある奴の得意な戦法だ。
そしてその次元魔法が、先程の爆発を皮切りに連続してルイージに襲い掛かってきたのだ。
『わわわわわっ!?』
ルイージはその空間に覆われないよう必死に逃げる。アイツの後で何度も小さい爆発が起きている。奴の空間に入ってしまったが最期、集中砲火を浴びることになるだろう。奴の攻撃が止むまで逃げるしかない。
「よし!走れルイージ!逃げ切れ!!奴の攻撃が途切れた時がチャンスだ!!」
俺はとにかく応援するしかない。声に力を籠め盛大にアイツを鼓舞するのみだ!
そして俺が応援する中、奴の攻撃が遂に途絶えたのだ。これは絶好のチャンスだ!
その好機にルイージも気付いたようで、急いで浮いている奴の真下に走り出す。
奴の真下に着いたや否や自らの体を折り曲げ小さくなったのだ。これは俺も知っているあの技だ!よし!奴に一発お見舞いしてやれ!
『スーパージャンプ!!』
ルイージは自らを小さく折り曲げることによって力を大きく貯め込めることができ、その大きな力を足に全振りすることでとてつもなく高く飛び上がることができるのだ。そのジャンプ力は勿論凄まじく、ジャンプした先にいる奴にもれなく大ダメージを与えることができるのだ。
アイツがスーパージャンプした先には勿論あの野郎がいる訳で。ルイージの頭があの野郎の顎へ見事にクリーンヒットしたのだ!
『ぐあっああ!!?』
「おっしゃああああ!!」
奴の叫び声を聞き、俺は大きくガッツポーズをする。もう嬉しすぎる。綺麗に決まりすぎだろ。やだ、凄く嬉しい。
『ノーーーーーン!』
先程の大ダメージが効いたのか、奴はヘロヘロ状態だ。よし、勝ったな。
『こ、こうさ~ん!降参だよー!』
『参ったかディメーン!兄さんの手を借りなくたってお前くらい倒せるんだからな!』
ルイージも相当嬉しいのだろう。凄く満足気だ。うん、その気持ちは凄く分かる。物凄~く分かる。
俺はもうこの時点で凄く満足している。あのくそ野郎を(ルイージが)ボコボコにすることができたのだからな。このまま消えても後悔はないつもりだ。
『そ、そうだね…。キミのその力はやっぱり本物みたいだ…』
うんうん。そうだろそうだろ?アイツもだが俺もこの言葉を聞いてかなりご満悦になっていたと思う。
…奴の一言を聞くまでは。
『だからこそキミを伯爵の元へやる訳にはいかないな…』
「!?」
俺は奴の言葉を聞いた途端体がゾクリと震えるのが分かった。
この感覚を俺は味わった事がある。奴が俺に攻撃をしてきたあの時を思い出す。
そして、それを思い出すことによって今理解させられたことがある。それは…
あの野郎はルイージ相手に全く本気を出していなかったということだ。
奴は物凄い速さでルイージに近づきルイージと奴の周りを次元魔法で覆ったのだ。アイツも反応することができない程のあっという間の出来事だった。もうこれで、アイツもあの野郎もこの黄色がかった空間から逃げられない。
『な、なにをする…!?』
『フフフ…キミはボクだけのものだ…ルイージ!だから一緒に…』
まさか…お前…
言い方は不愉快極まりないが、この状況でこんな台詞じゃあ、奴は何をしたいのか嫌でも分かってしまう。
あの糞野郎はルイージを巻き添えに自爆するつもりなんだ…!
『まさか…』
ルイージも状況と言葉の意味に気付いたのだろう。ハッとした気付いた瞬間慌てだしたのだ。
『よよよよよよよせー!うわー!!うわうわうわうわうわうわうわわー!!』
『オ・ルヴォワール…!』
奴の指パッチンの音と共に爆発が画面いっぱいに広がった。爆発の閃光と凄まじい爆発音の中、ルイージの悲鳴が鮮明に聞こえた後画面が砂嵐になってしまったのだった。