目覚めの声

「「!?」」

いきなり元気な声でそう言ったピーチはガシッ!と自らの腕をマリオの腕に絡めたのだ。これにはマリオだけでなく周りにいた者達も驚きを隠せない。そして腕を絡まれたマリオは顔を赤らめかなり動揺している。

「わ、わわわ…!?ちょっと、姫!いきなり何を…!?」

「フフ、前からやってみたかったの!腕を組んで歩くの」

身長に差があるため、マリオの腕はかなり高い位置に上がってしまっている。もはや彼女の腕に吊り上げられていると言ってもいい。マリオはどうしたらいいのか分からないようであわあわとしているのが傍から見てもよく分かった。
だが、ピーチはそれでもいいようでかなりご機嫌のようだ。

「フフフ、これで試合会場まで行きましょ?私へのお詫びはこのプチデートで良いわ」

「ぷ、プチデ…!?」

「さぁ!行きましょ!」

「ちょっ…!姫…!?」

そう言って既に赤い顔が更に赤くなったマリオを引きずるように連れていくピーチであった。

残された者達は唖然として彼女らを見送ったのである。

「なんか…流石ピーチ姫って感じだね…」

「う、うん…」

「途中から二人だけの世界になっちゃって、私たちなんていないかのようになってたわね…」

「ね、凄かったね…」

「ぽよ…」

子ども達も彼女に圧倒されたのであろう。まるで台風が通り過ぎた後のように呆然としていた。

(まぁ、気持ちは分かる)

フォックスはそう思いながら腕を組みこくんと大きく頷く。彼も概ね子ども達と同意見であった。だが、ここでうかうかとしてはいられない。

「さて、お前達も行くぞ。間に合わなくなる」

「「はーい」」

元気な返事と共に子ども達も歩き出す。フォックスも子ども達と一緒に試合会場へと向かう。
だが現在、彼はもう既に一試合終えたかのような徒労感に包まれていた。この昼休憩の約1時間程マリオの件で振り回されていた。そして仕舞には自由乱闘はお流れ。そのまま午後の乱闘になってしまったのだ。フォックスの有意義なお昼休憩は頓挫してしまったのである。彼の労力も無駄骨になってしまった。

(くっそー、マリオめ…。どうせなら一発殴っとくべきだったか…いやそれよりも両手を締め上げて殴るべきか…)

フォックスはそう思案しながら試合会場へと歩き出す。必死に探し回った末姫とのイチャイチャを見せつけられた独り身の男の気持ちになってみろとフォックスは言いたい。
こうなったら当初の考え通り乱闘でマリオを真っ先に撃墜後脱落させ、その後に子ども達と一緒になってマリオに何か作ってもらおうと画策するフォックスなのだった。

そしてマリオはというと、ピーチは宣言通りマリオと腕を組んだまま会場入りを果たし、他のファイター達からの注目をかっさらうこととなった。そんなリア充体験を見せつけられた独り身ファイター達はやっかみやら嫉妬やら冷やかしやら、そして約束を破った者への制裁も少々入り込み、乱闘は荒れに荒れた。勿論マリオは必死に抵抗したが、彼らの怒りと嫉妬のパワーには太刀打ちできず初っ端に撃墜され午後の試合の成績は散々な結果となった。

その後、子ども達の他に乱闘の約束をしていたメンバーにも追加でお菓子を作ることになり、ここ数日の仕事の疲れからちょっと休憩しようとベンチで休んだだけなのに結果として中々散々な一日を送る羽目になったマリオなのだった。


おわり


次、あとがきとおまけ
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