目覚めの声


きっとこの場にいる者達全員がこう思っただろう。その一言だけでは起きることはないだろう、と。
だが、彼らの予想は大きく外れることになる。


「ううん…」

「「!!?」」

ピーチが囁いてから数秒、マリオの睫毛が震えたかと思ったら、どんなに起こそうと頑張っても開くことのなかった青色の瞳が薄く開かれたのである。
これには周りのファイター達に衝撃が走る。

「「え、えええええええええ!!!?」」

「お、起きちゃった!起きちゃったよ!?」

「まじか、嘘だろ!?」

「ぽよーー!!」

「す、凄いよピーチ姫!」

「すごーい!!」

「な、なんでなんだろうすごーい…!?」

今までなにをしても起きなかったマリオがたった今起きて、大きな伸びなんかしている。そんな状況に子ども達とフォックスは強く衝撃を受け、テンション高く感想を叫んでいた。ピーチも「えへへ…」と満足そうだ。
だがマリオだけがこんな状況について行けず戸惑っていた。

「ん?え、えっと…?これは一体どういう…?」

そんなマリオへ一気に視線が集まる。フォックスが代表して話しだした。

「マリオ、俺たちは皆お前を探してここまで来たんだぞ」

「僕を?…え⁉僕探される位寝てたの!?」

「あぁ、今はもう14時45分だ」

「ええええええ!?」

因みに午後の部の乱闘が始まるのは15時からである。きっとマリオはこんなに寝るつもりはなかったのだろう。彼の顔色がどんどん青くなっていく。

「もう!ずっと寝てたんだよ!?何回起こそうとしても起きなかったんだから!!」

ネスの文句に子ども達も「そうだそうだ!」とぶーぶー文句を言っていく。そのガヤが動揺しているマリオには効果てきめんだったらしく「あれ!?ごめん…そんなつもりじゃ…ええ…!?」と一応の謝罪をするものの彼自身は混乱を極めていた。

だがそんな中、フフフ…とピーチ姫が小さく笑い出したのだ。何故こんな時に笑っているのか分からず、全員が不思議そうに彼女を見つめた。

「フフ…マリオ、貴方慌てすぎよ。落ち着いて?」

そう言ってピーチは人差し指で、マリオの鼻を小さくツンッとつついたのだ。
鼻を指でつつかれたマリオは小さく「は、はい…」と返すも、驚きと恥ずかしさで顔が赤らみ、手を鼻に当てているのであった。

「まぁ、そこが可愛いのだけどね。…皆もそんなにマリオを責めないであげて?彼もお仕事で疲れていたみたいなの。今日は無理がたたって寝ちゃったのね」

ここ数日、マリオは仕事が立て込んでいたのは確かだ。フォックスも忙しそうにしているマリオを何度か見ていた。それは子ども達も同じであったらしく、渋々ではあったが「分かった」と了承した。

「そう、良かった!」

子ども達の返事を聞きピーチはそう言いにっこりと笑った。その屈託のない笑顔の破壊力は凄まじく、その場にいる者達は皆ぽぉっと彼女の笑顔に見とれてしまっていたのだ。

そんな中いち早く原状復帰を果たしたマリオは、この場を仕切りなおすかのように「んんっ」と軽く咳をした。その咳に気付いた周りはハッと我に返る。

「ピーチ姫も皆も僕を起こしてくれてありがとう。それと悪かったね。かなりの時間手間をかけさせてしまったようだね」

「ったく…、お陰で乱闘よりも疲れちまったよ」

そう呆れながら言うフォックスに周りにいた子ども達もそうだそうだ!と同意していく。皆マリオの為に頑張ったのだ。

「ごめんごめんっ。皆には午後の乱闘が終わった後何かしらお詫びをするよ」

そう言って顔の前で手を合わせるマリオに、子ども達の目がキラーンと光ったのをフォックスは見逃さなかった。

「ほんと!?じゃあお菓子作って!」

「お菓子?分かった、いいよ」

マリオが「何が食べたい?」と言い終わる前に子ども達から様々なお菓子の名前が上がる。例え仕事がひと段落しても今日一日マリオは大変だろうなとフォックスは哀れみの目を向けていたのだった。
子ども達の怒涛の勢いに圧されてタジタジになっているマリオを見かねて、フォックスは助け舟を出す事にした。

「さぁ、皆行くぞ。リクエストは後だ。もうすぐ乱闘が始まる」

「そ、そうだね。乱闘が終わってからまた聞くよ。姫もそれでよろしいですか?」

そう言ってマリオはピーチの方へ振り返る。だがピーチはうーん…と思案顔だ。その表情にマリオは「姫?」と聞きながら不思議そうに彼女を見つめた。

「そうね!決めたわ!」
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