目覚めの声


(これはやはり何かあるな…)

きっとこれはただの居眠りではない…そう思ったフォックスは腕を組み考えを巡らせる。
ここスマブラの世界は様々な世界のファイター達が集まってできたものであり、自分達の世界の常識が通用しない世界である。そして様々な世界が干渉する故に何が起こるのかも分からない、ハプニングの連続で大変だが退屈しない世界でもある。フォックスはこの世界のことをそう捉えていた。

そして今回のマリオの異変については、この世界の創造主達が犯人ではないかと予想を立ててもいた。
創造主である創造神と破壊神ことマスターハンドとクレイジーハンドは事あるごとにファイター達へ厄介事を振り撒いているのだ。ここで起きるハプニングの原因の8割程が彼等であり、最早ハプニング製造機と言っても過言ではない。
特にマリオはここのファイター達のリーダーである。その立場からマスターとクレイジーとは何かしら顔を合わせる間柄でもある。それ故彼等からの厄介事に巻き込まれることも多い。

よって、これらのことを纏めると、両手のどちらか、はたまた両方からの厄介事に巻き込まれてしまった故の眠りではないかという仮説に行き着く。
その仮説に行き着いた時、フォックスは片手で顔を覆い、苛立ち半分げんなり半分の盛大な溜息を吐きながら思ったのだ。またあいつらか…と。

(さて、どうするか…)

嘆いていても始まらない。何か対策を考えなければ。フォックスは再び腕を組み直し思案する。

側にいる子ども達はフォックスが此方に来る前から起こそうとしていた為、既に万策尽きたのだろう。寝ているマリオを囲んで駄弁っているだけのようだ。あまり充てにならない。

よってここからは自分自身か、他のファイターを呼んでマリオに何かしらの策を施すか、はたまた元凶であろう両手を締め上げるか。それとももう暫く様子を見た方がいいのか…。
あれこれフォックスが悩んでいると、カツン…カツンとヒールの音がこの廊下に鳴り響いてきたのだ。

(ヒール…、何故こっちに来ているんだ…?)

フォックスは耳をピクリと動かし音に集中する。
その足音は鼻歌でも歌っているかのように軽やか、それでいて歩みはゆったりとしていて優雅だ。粗野っぽさのかけらも無い。そんな足音が段々と此方に向かってきているのが分かった。

現在ここにいるエリアは一般のファイターなら出入りする機会はあまり無い場所である。ヒールを履くような女性陣ファイターは殊更此処に来る機会はない。逆に言えば何かしらの用があってこちらに向かって来ているということになる。

(此処に用があるヒールを履いた人物って…誰だ…?)

全く予想がつかなかったフォックスは足音の主がやって来る方向を振り返る。そのフォックスの動きに気付いた子ども達は、今まで喋っていたので全く気付いていなかった足音に気付きフォックスと同じ方向を向いた。

彼等の目線の先にいる、優雅に歩いてくる人物は…

黄色く艶やかな長い髪、ピンク色の上等なドレス、そして頭に輝く黄金の冠。

「あ!ピーチ姫!」

子ども達が一斉に声をあげる。皆彼女には好印象をもっているものの、何故彼女が此処に来たのかが分からず不思議そうな顔だ。フォックスも彼女が何故此処に来たのか分からないので(確かにな。そんな顔になるよな…)と納得していた。
そんな空気が漂う中、ピーチは優雅に微笑んだ。

「あら?貴方達もここまで来たの?」

「貴方達も…ということはピーチ姫もマリオを探しに?」

「えぇそうよ」

フォックスの問いにピーチはニコリと答えた。

「お昼休憩の時に、マリオを探していたサムスと会って話をしたのよ。いくら探してもマリオが見つからないって。だから私もお散歩がてら探していたの」

ピーチは優雅に微笑みながら「見つかって良かったわぁ」と付け加える。

「ピーチ姫聞いてよ!マリオったら全然起きないんだよ!」

「あら、そうなの?」

ネスの一言をきっかけに、子ども達が先程のフォックス同様物凄い勢いでピーチに話し始めた。
ピーチもその威圧に圧されることなく、ちゃんと子ども達の目を見ながら話の節々で相槌を打ちしっかりと話を聞いているようだ。

ピーチは一国の主で公人であり、地方や施設の慰問もするのであろう。こうやって子どもの話を嫌な顔する事なく聞けるというのはある種プロの技である。

(流石お姫様だよな…)

彼女の卒の無いやり取りを側から見たフォックスはそう感心していた。

「そうだったの、大変だったのね」

「「うん!」」

フォックスが気がつくと、子ども達の怒涛の説明が終わりピーチはそんな子ども達を慰めている所であった。

「じゃあ私もマリオを起こしてみるわね!」

そう明るく言うピーチはコツン…コツン…とヒールを鳴らしながらマリオの座っているベンチにゆっくりと歩み寄り、彼の隣にストンと腰かけた。その彼女の一挙手一投足に誰もが振り返って見てしまうような気品さ、魅力がきっとあるのだろう。その間誰も喋ることもなく、全員がピーチの動向をただじっと見守っていたのだ。

その場にいる者達全員の視線が一手に集まっている中、彼女はまるで周りには誰も居ないかのように恥ずかしがることなどなく、マリオの横顔にゆっくりと自らの顔を近づける。そしてピンクの口紅で艶やか、その上マシュマロのようにプックリ柔らかそうな唇で…


「マリオ、起きて?」


彼の耳元に優しい声でそう囁いたのだった。
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