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一歩逃げれば一歩追う

治side

監督「何度も言うが、自主練はアカンからな!休むんも練習や!」

練習が終わって先輩たちが帰っていく。1年の俺らも片づけをして終いや。

侑「はよ行くで」

自主練禁止でもっと拗ねとるかと思うたけど、今日はちょっと違うらしい。

侑「紬ちゃん待ってんねんから」

銀島「わかっとるわ」

角名「治、制汗剤なくなったから俺にもちょうだい」

治「おん」

角名に俺がいつも使うてるそれを手渡してスマホを開く。練習が終わったことを紬ちゃんに知らせとこ。メッセージを送ればすぐに返ってきた。きっと時間的にも気にかけてくれてたんやな。

紬【校門で待ってるね】

治「紬ちゃん、校門で待ってるって」

侑「おー」

校門に行けば紬ちゃんが立っとった。

侑「紬ちゃん!」

紬「お、おつかれさま」

銀島「紬ちゃん、それなんなん?」

持っていた紙袋を指さす。紬ちゃんは少し躊躇しながらもその中身を俺らに見せてくれた。

紬「これ、昨日作ったんだけど・・もしよかったら」

角名「カップケーキ?」

紬「う、うん。て、手作りがダメなら無理しないで」

角名「俺、平気だから貰っていい?」

紬「!うん」

角名「ありがとう」

角名、お前なに一番に貰ってんねん。

銀島「俺も欲しい!」

紬「ど、どうぞ」

銀島「ありがとな!」

侑「他からの手作りなら考えるけど紬ちゃんのなら大歓迎やで!」

紬「あ、ありがとう」

侑「紬ちゃん、お礼言うの俺の方やけど」

クソツム。今まで女子から手作りなんてもらっわんかったのに。

紬「・・治君は、手作り、だめ?」

治「、ダメやないよ。嬉しい、ありがとう」

俺の手に乗せられたそれ。甘い匂いが漂っとる。うまそう。

紬「治君、」

治「?」

紬ちゃんが小さく手招きするから少ししゃがんだ。

紬「治君のだけ、中身一つ多いから、侑君にバレないようにね」

治「!」

紬「治君には、たくさん迷惑かけちゃったから」

こ、この子は俺を殺す気ですか?特別な意味がないと知ってても嬉しいことに変わりない。いや待て、特別な意味てなんや。

侑「なんや、またお礼せんとあかんくなったなぁ」

紬「?」

角名「俺たち紬に勉強教えて貰ったから、みんなで何かお礼しようって決めてたんだよ」

紬「え?」

銀島「紬ちゃんのノートすごかったで!暗記系ほぼ合ってる自信あるし!」

紬「そ、それは私も嬉しい。で、でもお礼なんて」

治「俺らがしたいんや。ダメ?」

紬ちゃんはこれに弱い。知っとってするや、許してな。

紬「・・あ、ありがとう」

侑「可愛えなぁ、紬ちゃん」

角名「あんまり遅くなるといけないし、行こう」

ツムと俺の間に紬ちゃんがおるだけで、なんや違う道歩いとるみたいやな。

銀島「紬ちゃん何欲しい?あんまり高いのは無理やけど出来るもんなら俺ら買うで」

紬「!い、いいよ。ほんとに」

角名「でもそれじゃお礼にならないよ」

紬「、みんながこうしてしてくれることが、嬉しいよ」

侑「な、なんてええ子なんや」

治「ええ子すぎるで紬ちゃん」

銀島「ん~じゃあ俺らが勝手に決めるな!」

銀のそれしかないな。いつもと違う道を歩くと店が出てくる。

角名「紬、髪留めとかどう?」

アクセサリーショップに目を止めた角名。こいつ案外慣れとるな。

紬「え、でも」

侑「気に入ったのがあれば買えばええやん?」

紬「う、うん」

正直一度も入ったことがないような店や。

「気になるものがあれば、試していってくださいね」

角名「どうも」

銀島「ちっさ」

角名「あんまり触って壊すなよ」

侑「これどうやって使うん?」

治「俺が知るわけないやろ」

紬「ふふ、貸して侑君」

紬ちゃんが三つ編みをほどく。緩い三つ編みの跡が残ってるけど、それがよく似合っとった。

紬「こんな感じかなぁ」

侑「紬ちゃん、、」

紬「!」

ツムが紬ちゃんのかけていた眼鏡を外した。

侑「めちゃくちゃ可愛えやんけ!!」

角名「・・そうだね」

銀島「・・・」

なに余計なことしてんのや、クソツム。

紬「あ、侑君」

侑「髪三つ編みもええけど、それも似合っとるよ?」

紬「そ、そう?」

銀島「似合っとる!」

角名「うん」

侑「なあ!サム!」

治「・・似合っとる」

侑「なぁ、これとか紬ちゃんに似合っとるし、どう?」

紬「!、かわいい」

侑「せやろ?」

角名「それ買おうか」

銀島「おお!」

紬「い、いや本当に大丈夫だよ」

侑「ええから!」

あれを買えば、紬ちゃんはそれをつけて学校に来るんやろか。俺らが買ったそれをつけて可愛くなるんやろか。

侑「?なんやサム」

治「・・紬ちゃん、この近くにめっちゃ美味いクレープあるんやけど、そっちにせん?」

紬「?、うん」

治「決まりやな」

侑「おいサム、勝手に進めんなや」

睨んで来よるツムに俺も睨み返す。

紬「あ、侑君、いいから」

侑「紬ちゃんも可愛い言うてたやん」

紬「、みんなが楽しいままの方がいい」

角名「・・まぁ紬が言うならいいんじゃない?」

銀島「せやな。ならそのクレープにしよか」

紬「うん。ありがとう、侑君、治君」

角名と銀島に連れられてお店を出ていく紬ちゃん。

侑「お前への礼とちゃうぞ」

治「わかっとる」

わかっとるけど、紬ちゃんが可愛くなるのに俺らがプレゼントしたもんなんて嫌やねん。

侑「・・お前、面倒くさいやつやな」

治「うっさい」

侑「あそこのクレープ、少し高いやつやんな。サムが多めに出すんで許したる」

治「お前に許される必要ないわ」

俺はさっき紬ちゃんが手に取っていた髪留めをレジに持って行った。


紬「クレープ、美味しかった。ごちそうさまでした」

角名「いや、喜んでくれたなら良かった」

銀島「もう一個くらい食ってええんやで?」

紬「お、お腹一杯だから」

侑「紬ちゃん、この後ラーメン行くで」

紬「!?」

治「嘘やで紬ちゃん」

侑「バラすの早いわサム」

角名「でも腹減って来し、紬もあんまり帰り遅いと家の人心配するだろうから今日はこの辺で解散しようか」

銀島「せやな、明日も普通に学校あるしな」

侑「おん、紬ちゃん俺らが送ったるよ」

紬「だ、大丈夫だよ。ちゃんと帰れる」

治「送らせてや」

紬「、、お、お願いします」

これが一番効くんや、紬ちゃんには。

侑「やるやんけサム」

治「せやろツム」

紬「倫君、結君、今日はありがとう」

角名「いや、お礼言うのは俺たちのほうだから」

銀島「また学校でなぁ」

角名と銀と駅で別れた。紬ちゃんの家は案外学校から近い。

紬「治君、侑君送ってくれてありがとう」

侑「ええよー」

治「ちゃんとご飯食べなあかんで」

侑「オカンか」

クスクス笑とる紬ちゃんは俺とツムを見て言った。

紬「侑君と治君もちゃんと帰ってご飯食べて体休めなあかんよ」

侑・治「「!」」

紬「二人のマネっ子」

そう言って笑った紬ちゃんに俺もツムもニヤケル顔を必死に隠した。

紬「また、明日ね」

手を振って俺らの姿が見えんくなるまでおってくれる紬ちゃんにツムは呟く様に言いよった。

侑「紬ちゃん、ホンマ可愛え子やな」

治「可愛えだけとちゃうわ」

侑「せやな・・・サム、正直お前に紬ちゃんは勿体無いで」

治「お前に言われると腹立つねんヤメロ。あと別にそんなんとちゃうわ」

家に帰って紬ちゃんがくれたカップケーキを食べた。ホンマ売りもんかと思うくらい美味かったわ。ツムもこれには同意しとったな。

ガサ

治「?」

紙?

そこには綺麗な字が並んどった。

【私も治君を見習ってちゃんと頑張ってみようと思います。治君ありがとう】

治「あかん」

ホンマ、紬ちゃんなんなん?紬ちゃんが何歩か引かんでも俺は詰め寄ってしまいそうや。

侑「サム、顔キモイで」

治「俺は今嬉しさを噛み締めてんのや。邪魔すな」
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