奪われたもの
侑side
最初は根暗でハッキリせん女。それが隣の席になった女の印象やった。
「おい侑」
侑「なんです?」
「これ、稲荷に渡したってくれ」
職員室に行って呼び止められ、任されたのは雑用。めんどくさ。そんな俺の表情を読み取ったんか、先生が言うた。
「お前が日直の日誌出し忘れたん知ってんやぞ」
侑「な、なんでそれを」
「随分遅くに日誌が来た日があってん。稲荷が持ってきたんやけど、あの日の日直お前やったぞ」
知らんかった。本人からも聞いてへんし。
「それ頼んだで」
日誌出しといた言うて俺にまとわり付いて来るつもりもないみたいやな。クラスの女子は頼んでもないのに、スポドリ買って俺にくれるけど、代わりに遊びに行こう、だのなんだの言ってくる馬鹿どもや。
侑「変わりもんってことやな」
その日の昼休みが終わるとき、ようやくどこかから戻ってきた稲荷紬。なんやびくびくしとるなぁ。連れてこられた小動物みたいや。
紬「・・・」
彼女が席に座ってどこかホッとしてるのが横目に見て取れる。分かりやすいなぁ。それぞれの席に戻っていくクラスメイトをよそに、俺は隣の彼女に初めて声をかけた。
侑「あ、稲荷さん」
初めて話しかけたんやし驚くのはわかるけど、驚きすぎとちゃうん?
侑「これ化学の先生に渡すように言われとったん忘れてたわ」
なんやまたホッとしとる。
侑「稲荷さん?」
紬「!す、すみません」
侑「ええよ」
俺の笑みにクラスの女子みたいな反応は一切見せない彼女に俺はこの時、初めて興味がわいた。延ばされた手、指案外綺麗やな。そう思ってわざとチョンと自分の指と当てる。
紬「ひぃ」
侑「ふ、ふはははは、あ、あかん」
ひぃって、初めての反応や!
侑「ほんま小動物やな」
困惑したような視線を向けられるんも初めてや。
侑「からかっただけや、ごめんな」
おもろい子。
侑「前に俺が日直のとき、日誌を職員室に届けてくれたの、稲荷さんなんやろ?」
思い出したような表情からも下心なんて一切なかったんがわかる。俺やからしたんやない。そこに日誌が置いてあったからやった、そんな子なんやな。
侑「今日先生から聞いてん。ありがとう」
紬「あ、はい、い、いいえ」
侑「どっちやねん」
ええ子でおもろい子。
紬「あ、あの宮君」
侑「侑」
紬「?」
侑「俺の名前や。侑って呼んで。紛らわしいから」
俺のことは先生も含めてみんな侑って呼ぶしな。治の方もきっとそうやろ。
紬「あ、侑君、あの」
「授業始めるぞー」
侑「あらら、またあとでな紬ちゃん」
それからちゃんと話すときちんと返してくれるええ子やってわかった。最初はびくびくしてたけど、極度の恥ずかしがりなんやな、ってなんや許せた。
侑「紬ちゃん、次の英語の課題やってる?」
紬「う、うん」
侑「見してー」
紬「ど、どうぞ」
侑「ありがとう!」
紬ちゃんは基本断らん。課題ではよくこうしてお世話になってん。相変わらず、空欄のない課題ノート。
侑「紬ちゃん、勉強できるんやなぁ」
紬「え、いや、そんなことないよ」
侑「でも小テストいつも満点やん?俺半分くらいやで」
紬「、でも侑君の間違ってるところ、ちょっとしたケアレスミスだから。ちゃんと勉強してるんだなって、思うよ」
侑「・・・」
ホンマこの子ええ子やんな。俺の小テストに答えをちゃんと書いてくれてるし、一問ミスなんてときは、小さく絵を書いて惜しい!なんてコメントまでつけてくれる。それがちょっと楽しみだったりするんやけど。
紬「!ご、ごめんなさい。なんだか偉そうに言っちゃって」
侑「いや、なんか嬉しいな思てん」
紬「?」
俺をクラスメイトの宮侑として接してくれる少ない友人や。
侑「紬ちゃん、次の授業なん?」
後ろの黒板に書いてあるけど。って思ってんのがバレバレや。
侑「後ろ見るの面倒やん?」
え?声に出てた?って思ってんのもバレバレ。
侑「顔に出とるよ」
ホンマ、おもろい。
紬「っ、、次は国語」
侑「睡眠学習の時間やな」
国語って眠なんねん。現代文なだけマシやな。ん?
侑「お!なぁ紬ちゃん!」
サムがうちのクラス来てんのは珍しい。
侑「あれ、治言うねん」
紬「・・え?」
侑「俺ら双子やねん」
紬ちゃんの驚いた顔、一日に何度見ても飽きんなぁ。
侑「サム!なんや用か?」
治「用か違うわボケ。俺の数学の教科書返せ」
侑「せやった!」
「ねぇ、あれって」
「侑くんそっくり」
「宮ツインズやね」
サムが嫌そうに眉をしかめたのが俺には分かった。まぁわからんことはないわ。
侑「あれー?」
治「ッチ、何もたついてんねん」
いづらくて来たんか。待っとれや。
侑「・・そうやった、お前の返したわ」
治「は?受け取ってへんぞ」
侑「返した、家の机に置いてきた」
治「それは返したちゃう、忘れたいうんやクソツム!!もうええ、お前の貸せ!!」
侑「俺のも家や」
治「はぁ?じゃあなんで昨日俺の使ってたんや!」
侑「お前のが出てたからちょうどええやん」
治「もう俺のもんに触んなや」
侑「無くてもええんちゃう?どうせ聞いてへんのやろ?」
治「お前と一緒にすな」
侑「しゃーないなぁ」
困ったときの紬ちゃんや。
侑「紬ちゃん」
紬「!」
紬ちゃんめっちゃ驚いてんなぁ。
侑「数学の教科書持ってへん?持ってるなら此奴に貸してほしいねんけど」
俺の言葉に悶々と何か考えとる。嫌やった?まぁ確かに知らん相手にいきなり教科書貸したないな。俺も他のクラスの女子から貸して言われても知らんわボケ、って言うな。
治「気にせんといて。大丈夫やから」
おぉ、サムが気をきかせとる。
侑「でももう時間ないで」
治「別にええわ。隣に見せてもらう」
侑「あっそ」
最初からそうしろや。
治「お前プリン奢れや」
侑「はぁ?」
なんで忘れもんしたお前の為に紬ちゃんにまで頼んでやった俺が、更にプリンまで奢らなあかんねん!
紬「どう、ぞ」
治「!」
サムに数学の教科書を差し出す紬ちゃんは、最初に俺と話した時の様にガチガチやった。
侑「お!流石、紬ちゃんや!」
差し出した紬ちゃんに対して全く動く気配がないサム。なにしとんねん。
治「あんた!」
紬「ひぃ!」
侑「ちょ、サムどうした!?」
なんや!?こいつ頭大丈夫か!?
治「!ご、ごめんな」
紬「あ、、い、いえ」
申し訳なさそうにしながらも、此奴は紬ちゃんの教科書から手を離さんかった。
治「、教科書借りてええ?」
紬「、はい」
治「ありがとう」
なんや、アレ。あんなサム初めて見たんやけど。いや、ちゃうな。教科書を借りて出て行ったサムの後姿は、浮き足立って帰りよったあの日の姿と重なる。ってことは、最近サムがずっと探しとった子って、、
侑「紬ちゃん、サムと会うたことあるん?」
紬「え?、いや、初めて」
紬ちゃんが嘘を言っとる様には見えへん。というか、紬ちゃんの反応からして俺が双子いうんもさっき初めて知ったみたいやったな。ってことは紬ちゃんはサムを俺や思って会っとる可能性があるってことやな。それも俺が紬ちゃんと話すより前に。
紬「、、えっと、、侑君」
侑「ん?」
紬「今日、数学あるよ?」
侑「・・・紬ちゃん、俺にも見してな?」
サム、困ったときは紬ちゃんやで。
治「稲荷さん」
5限が終わってすぐに俺のクラスに教科書を返しに来たサム。俺のことはガン無視で紬ちゃんに話しかけるあたり、流石双子やと思う。俺もサムと同じ立場ならそうしとるし。
治「助かったわ、ありがとう」
紬「い、いえ」
治「教科書の書き込み勝手に見てもうた、ごめんな」
紬「あ、、い、いえ」
ちょっと恥ずかしそうな紬ちゃん。反応がいちいち可愛えんよなぁ。あーサムも同じこと思っとるな。俺と同じ顔でなんちゅー顔しとんじゃボケ。
侑「次、俺に見せてな」
俺は紬ちゃんと机をくっつける。
治「あ?お前どっかから借りて来いや」
侑「紬ちゃんがええって言うてくれたからええんや。な?」
紬「う、うん、大丈夫だよ」
俺にはサムより少し砕けて話してくれる紬ちゃん。それがサムは気にくわないらしい。もうあたりやな。サムが探してた子は紬ちゃんや。
治「ツム、稲荷さんに迷惑かけんなや」
侑「お前に言われたないねん」
最初は根暗でハッキリせん女。それが隣の席になった女の印象やった。
「おい侑」
侑「なんです?」
「これ、稲荷に渡したってくれ」
職員室に行って呼び止められ、任されたのは雑用。めんどくさ。そんな俺の表情を読み取ったんか、先生が言うた。
「お前が日直の日誌出し忘れたん知ってんやぞ」
侑「な、なんでそれを」
「随分遅くに日誌が来た日があってん。稲荷が持ってきたんやけど、あの日の日直お前やったぞ」
知らんかった。本人からも聞いてへんし。
「それ頼んだで」
日誌出しといた言うて俺にまとわり付いて来るつもりもないみたいやな。クラスの女子は頼んでもないのに、スポドリ買って俺にくれるけど、代わりに遊びに行こう、だのなんだの言ってくる馬鹿どもや。
侑「変わりもんってことやな」
その日の昼休みが終わるとき、ようやくどこかから戻ってきた稲荷紬。なんやびくびくしとるなぁ。連れてこられた小動物みたいや。
紬「・・・」
彼女が席に座ってどこかホッとしてるのが横目に見て取れる。分かりやすいなぁ。それぞれの席に戻っていくクラスメイトをよそに、俺は隣の彼女に初めて声をかけた。
侑「あ、稲荷さん」
初めて話しかけたんやし驚くのはわかるけど、驚きすぎとちゃうん?
侑「これ化学の先生に渡すように言われとったん忘れてたわ」
なんやまたホッとしとる。
侑「稲荷さん?」
紬「!す、すみません」
侑「ええよ」
俺の笑みにクラスの女子みたいな反応は一切見せない彼女に俺はこの時、初めて興味がわいた。延ばされた手、指案外綺麗やな。そう思ってわざとチョンと自分の指と当てる。
紬「ひぃ」
侑「ふ、ふはははは、あ、あかん」
ひぃって、初めての反応や!
侑「ほんま小動物やな」
困惑したような視線を向けられるんも初めてや。
侑「からかっただけや、ごめんな」
おもろい子。
侑「前に俺が日直のとき、日誌を職員室に届けてくれたの、稲荷さんなんやろ?」
思い出したような表情からも下心なんて一切なかったんがわかる。俺やからしたんやない。そこに日誌が置いてあったからやった、そんな子なんやな。
侑「今日先生から聞いてん。ありがとう」
紬「あ、はい、い、いいえ」
侑「どっちやねん」
ええ子でおもろい子。
紬「あ、あの宮君」
侑「侑」
紬「?」
侑「俺の名前や。侑って呼んで。紛らわしいから」
俺のことは先生も含めてみんな侑って呼ぶしな。治の方もきっとそうやろ。
紬「あ、侑君、あの」
「授業始めるぞー」
侑「あらら、またあとでな紬ちゃん」
それからちゃんと話すときちんと返してくれるええ子やってわかった。最初はびくびくしてたけど、極度の恥ずかしがりなんやな、ってなんや許せた。
侑「紬ちゃん、次の英語の課題やってる?」
紬「う、うん」
侑「見してー」
紬「ど、どうぞ」
侑「ありがとう!」
紬ちゃんは基本断らん。課題ではよくこうしてお世話になってん。相変わらず、空欄のない課題ノート。
侑「紬ちゃん、勉強できるんやなぁ」
紬「え、いや、そんなことないよ」
侑「でも小テストいつも満点やん?俺半分くらいやで」
紬「、でも侑君の間違ってるところ、ちょっとしたケアレスミスだから。ちゃんと勉強してるんだなって、思うよ」
侑「・・・」
ホンマこの子ええ子やんな。俺の小テストに答えをちゃんと書いてくれてるし、一問ミスなんてときは、小さく絵を書いて惜しい!なんてコメントまでつけてくれる。それがちょっと楽しみだったりするんやけど。
紬「!ご、ごめんなさい。なんだか偉そうに言っちゃって」
侑「いや、なんか嬉しいな思てん」
紬「?」
俺をクラスメイトの宮侑として接してくれる少ない友人や。
侑「紬ちゃん、次の授業なん?」
後ろの黒板に書いてあるけど。って思ってんのがバレバレや。
侑「後ろ見るの面倒やん?」
え?声に出てた?って思ってんのもバレバレ。
侑「顔に出とるよ」
ホンマ、おもろい。
紬「っ、、次は国語」
侑「睡眠学習の時間やな」
国語って眠なんねん。現代文なだけマシやな。ん?
侑「お!なぁ紬ちゃん!」
サムがうちのクラス来てんのは珍しい。
侑「あれ、治言うねん」
紬「・・え?」
侑「俺ら双子やねん」
紬ちゃんの驚いた顔、一日に何度見ても飽きんなぁ。
侑「サム!なんや用か?」
治「用か違うわボケ。俺の数学の教科書返せ」
侑「せやった!」
「ねぇ、あれって」
「侑くんそっくり」
「宮ツインズやね」
サムが嫌そうに眉をしかめたのが俺には分かった。まぁわからんことはないわ。
侑「あれー?」
治「ッチ、何もたついてんねん」
いづらくて来たんか。待っとれや。
侑「・・そうやった、お前の返したわ」
治「は?受け取ってへんぞ」
侑「返した、家の机に置いてきた」
治「それは返したちゃう、忘れたいうんやクソツム!!もうええ、お前の貸せ!!」
侑「俺のも家や」
治「はぁ?じゃあなんで昨日俺の使ってたんや!」
侑「お前のが出てたからちょうどええやん」
治「もう俺のもんに触んなや」
侑「無くてもええんちゃう?どうせ聞いてへんのやろ?」
治「お前と一緒にすな」
侑「しゃーないなぁ」
困ったときの紬ちゃんや。
侑「紬ちゃん」
紬「!」
紬ちゃんめっちゃ驚いてんなぁ。
侑「数学の教科書持ってへん?持ってるなら此奴に貸してほしいねんけど」
俺の言葉に悶々と何か考えとる。嫌やった?まぁ確かに知らん相手にいきなり教科書貸したないな。俺も他のクラスの女子から貸して言われても知らんわボケ、って言うな。
治「気にせんといて。大丈夫やから」
おぉ、サムが気をきかせとる。
侑「でももう時間ないで」
治「別にええわ。隣に見せてもらう」
侑「あっそ」
最初からそうしろや。
治「お前プリン奢れや」
侑「はぁ?」
なんで忘れもんしたお前の為に紬ちゃんにまで頼んでやった俺が、更にプリンまで奢らなあかんねん!
紬「どう、ぞ」
治「!」
サムに数学の教科書を差し出す紬ちゃんは、最初に俺と話した時の様にガチガチやった。
侑「お!流石、紬ちゃんや!」
差し出した紬ちゃんに対して全く動く気配がないサム。なにしとんねん。
治「あんた!」
紬「ひぃ!」
侑「ちょ、サムどうした!?」
なんや!?こいつ頭大丈夫か!?
治「!ご、ごめんな」
紬「あ、、い、いえ」
申し訳なさそうにしながらも、此奴は紬ちゃんの教科書から手を離さんかった。
治「、教科書借りてええ?」
紬「、はい」
治「ありがとう」
なんや、アレ。あんなサム初めて見たんやけど。いや、ちゃうな。教科書を借りて出て行ったサムの後姿は、浮き足立って帰りよったあの日の姿と重なる。ってことは、最近サムがずっと探しとった子って、、
侑「紬ちゃん、サムと会うたことあるん?」
紬「え?、いや、初めて」
紬ちゃんが嘘を言っとる様には見えへん。というか、紬ちゃんの反応からして俺が双子いうんもさっき初めて知ったみたいやったな。ってことは紬ちゃんはサムを俺や思って会っとる可能性があるってことやな。それも俺が紬ちゃんと話すより前に。
紬「、、えっと、、侑君」
侑「ん?」
紬「今日、数学あるよ?」
侑「・・・紬ちゃん、俺にも見してな?」
サム、困ったときは紬ちゃんやで。
治「稲荷さん」
5限が終わってすぐに俺のクラスに教科書を返しに来たサム。俺のことはガン無視で紬ちゃんに話しかけるあたり、流石双子やと思う。俺もサムと同じ立場ならそうしとるし。
治「助かったわ、ありがとう」
紬「い、いえ」
治「教科書の書き込み勝手に見てもうた、ごめんな」
紬「あ、、い、いえ」
ちょっと恥ずかしそうな紬ちゃん。反応がいちいち可愛えんよなぁ。あーサムも同じこと思っとるな。俺と同じ顔でなんちゅー顔しとんじゃボケ。
侑「次、俺に見せてな」
俺は紬ちゃんと机をくっつける。
治「あ?お前どっかから借りて来いや」
侑「紬ちゃんがええって言うてくれたからええんや。な?」
紬「う、うん、大丈夫だよ」
俺にはサムより少し砕けて話してくれる紬ちゃん。それがサムは気にくわないらしい。もうあたりやな。サムが探してた子は紬ちゃんや。
治「ツム、稲荷さんに迷惑かけんなや」
侑「お前に言われたないねん」