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体育祭

治side

借り人競争は毎年盛り上がるってアラン君たち言っとったけど、理由がわかった。

ーーお題は?--

「結婚相手にするなら」

何やねん、それ。そう思っとっても誰かしら連れてゴールせなあかん。

「えぇぇ!?」

「まじでか!お前らそうだったの!?」

一枚は必ずああいうお題があるみたいや。

パンっ

あ、紬ちゃんや。

治「紬ちゃん、ファイトや」

紬ちゃんの引くお題がめちゃくちゃ気になる。いや、お題もやけど一緒にゴールする奴が気になるから、こんな前まで来て彼女の番を待っとった。

「校長先生どこや!?」

どんどん自分のお題にあたる人を探しに行ってとる中、紬ちゃんはやっと札を手に取った。

紬「!」

治「!」

札から顔を上げた紬ちゃんと目が合った。え?なにが書かれてたん!?気にな

紬「治く」

俺!?こっちに向かって走ってくる紬ちゃん。俺やんな!?俺が立ち上がった瞬間、向かってきていた紬ちゃんの足が止まった。

紬「え、っと川島くん」

治「はぁ!?」

紬「!」

今完全に俺に来とったよな!?川島てアイツやろ!?

治「ん!」

お題はなんか知らん。でも俺の所に来てたくせに急にアイツんとこに行こうとすんのが気に入らん!

「宮ー、借り人の方が自分から行ってどうすんねん」

「ちゃう競技になっとるぞ」

俺の差し出す手を見て周りの奴らから野次が飛ぶ。喧しいわ。

紬「あの、」

治「ん!」

紬「・・うん」

俺の手に重なった小さな手を握り締めてゴールに走った。握った瞬間、紬ちゃんが少し笑った気がしたんは気のせいやろか。

ーー紅組早かった!暫定1位です!--

そう言えば、俺お題全く知らん。なんやろ。背が高い?いや、川島に行きそうになってたあたりちゃうな。別に低くないけど、俺の方が高いし。じゃあなんや?

ーーではお題をどうぞ!--

紬「、、私にとってのヒーロー」

治「・・・ん?」

ヒーロー?

ーー彼女のヒーローさん!お名前は?--

治「、宮治」

ーーはい!では彼をヒーローとして選んだ理由をお答えください!--

紬ちゃんはマイクを向けられて詰まりながらも、教えてくれた。

紬「、転んだ私を運んでくれました」

ーーそうでした!午前中に熱い視線を集めていたお二人でした!--

こいつなに余計なこと言っとんねん。

紬「そ、それだけじゃなくて、溺れたとき助けてくれて、私の背中を何度も押してくれました。私にとって治君はヒーローです」

ーーはい!合格!ありがとうございました!ーー

こんな人前で言うの恥ずかしかったんやないかな。それでも俺の目をしっかりと見て伝えてくれた紬ちゃん。めちゃくちゃ嬉しい。

治「紬ちゃ」

紬「ご、ごめん!」

治「え!?」

相当恥ずかしかったんやろうな。逃げて行ってもうた。

角名「あ、紬のヒーローだ」

銀島「おーすヒーロー」

煩いのが来よった。

侑「サムが紬ちゃんのヒーローなら俺は大ヒーローやな」

治「なに言っとんねん、お前なんて眼中にないわ」

侑「ああ?!」

角名「はいはい、いいから次選抜リレーでしょ」

そうやった。もう集まっとるやん。

侑「角名は出らんの?」

角名「うん、俺選抜で走るほど足速くないし。紬のヒーロー頑張れよ」

治「からかいに来たんやったら帰れ」

「出る奴はさっさと並べー!」

紅組の列に行けば、あの川島もおった。

川島「治?やんな?」

治「おん」

川島「さっきはお疲れさん」

紬ちゃんは一度こいつの方に行こうとした。たぶん紬ちゃんにとってヒーローって言える人間は一人やないんや。

治「俺はヒーローじゃ足りんねん」

ーーさぁ!体育祭のトリ!選抜リレーが始まりますーー

人数が少ないぶん早くバトンが回ってくる。1年から3年まで続くバトンや。

パンッ

一斉に走り出した。

侑「サム!抜かれたらあかんで」

治「俺が一緒に走んの陸上部やぞ」

侑「だから差をつけろ言うてないやろ。抜かれんな言うてんねん」

無茶苦茶言うなや。どの団もそう大差ない。それでも紅団が1位で来とった。

「治!」

バトンを受け取って全速力で走る。一周てなんや、長いわボケ。

侑「こらぁサム!!全速力キープせんかい!」

だから無茶言うなや。つーか声デカイねん。

紬「治君!頑張って!」

やっば、俺、紬ちゃんのこと好きすぎやろ。決して大きくないその声を俺の耳は拾うんや。


ーー優勝は紅団ですーー

歓喜の声が響く。

侑・治「「当然やな」」

体育祭も終わった。

角名「侑、治、部活の時間少し遅らせて今日は早く終わるってさ」

侑「おー。サム?どこ行くん?」

治「先行っとけ」

紬ちゃん、もう行ってしもたんかな。

「あ、あの!」

治「?」

知らん女の子やな。

「わ、私、治君のこと好きです!」

治「・・俺が治ってようわかったね」

「あ、クラスTシャツで」

ああ、そうやった。

「あの、」

治「あー、ごめんな。俺、好きな子おんねん」

「そ、それって今日の借り人競争の子?」

やっぱりあれは中々インパクトがあったらしい。

治「ごめんな」

「っ、ハチマキだけでも!もらえませんか?」

治「ごめん」

「わかり、ました」

ちょっとの涙を流して行った子。でも悪いとは思わん。俺が好きなんは

治「紬ちゃん」

紬「・・治君」

俺を見てすぐに視線をそらした。逃げたくて仕方ないんやろうなぁ。でも、

治「ちょっとええ?」

逃がしたらんよ。

紬「う、うん」

治「紬ちゃん、俺のことヒーローって思ってくれてたん?」

紬「あ、あの、、はい」

顔を赤くしとるの、可愛え。

治「でもな、俺ヒーロー嫌や」

紬「え、」

治「あの時、川島と俺で迷ったやろ?」

紬「あ、あれは迷ったんじゃなくて、その、治君が怪我してたの、思い出して」

たぶん本当にそうなんやろうな。あの後俺がリレー出るのも忘れて、心配してくれてたんやと思う。

治「それでも実際アイツも紬ちゃんのヒーローなんは、変わらん。俺、嫌やねん」

紬「ご、ごめんなさ」

治「紬ちゃんの唯一やないやろ?」

紬「?」

治「俺を紬ちゃんの唯一にしてくれへん?」

紬「?治君?」

治「俺、紬ちゃんが好きや」

紬「・・・え?」

治「俺を紬ちゃんの彼氏にしてほしい」


紬side

選抜リレーすごかったなぁ。侑も治君も速かった。

紬「・・・」

治君に会いづらい。借り人競争の後、何か話してたのに逃げちゃった。

治「紬ちゃん」

この声は、

紬「・・治君」

侑君たちもいない。どうしよう。ものすごく逃げたい。

治「ちょっとええ?」

紬「う、うん」

私に断れるわけない。

治「紬ちゃん、俺のことヒーローって思ってれてたん?」

紬「あ、あの、、はい」

なんだか、恥ずかしい。もう埋まりたい。

治「でもな、俺ヒーロー嫌や」

紬「え、」

治「あの時、川島と俺で迷ったやろ?」

紬「あ、あれは迷ったんじゃなくて、その、治君が怪我してたの、思い出して」

川島君もクラスリレーでお世話になったのは事実だし。

治「それでも実際アイツが紬ちゃんのヒーローなんは、変わらん。俺、嫌やねん」

そ、そんなに嫌だったなんて。そっかあの時、治君はお題を知らなかったんだ。

紬「ご、ごめんなさ」

治「紬ちゃんの唯一やないやろ?」

紬「?」

どういうこと?

治「俺を紬ちゃんの唯一にしてくれへん?」

唯一?

紬「?治君?」

治「俺、紬ちゃんが好きや」

紬「・・・え?」

治「俺を紬ちゃんの彼氏にしてほしい」

カレシ?

紬「えっと、」

治「理解できん?」

紬「お、治君、近い」

治君が目の前まで距離を縮めて来た。

治「紬ちゃんは?俺のこと好き?」

治君の、こと?

紬「あ、あの」

治「うん」

紬「わ、たし、治君のこと、男の人って思ってみてなったから」

治「本当に?」

紬「!」

私の耳元まで迫ってきた治君。な、なにこれ。

治「一緒に勉強したときは?一緒に二人三脚の練習したときは?」

治君の手が私の頬を撫でた。

治「俺が紬ちゃんに触ったときは?一度も、俺を男やって思ったことあらへん?」

紬「あ、の治君、」

治「逃げんといて、紬ちゃん」

紬「!ごめん」

逃げちゃだめだ。人に伝えるってどれだけ大変か、知ってる。

紬「、私、治君のことは大好きだけど、、でも、それは友達として、、ごめんなさい」

治「・・・分かった」

スッと治君が離れていった。その当然の距離がなんだかちょっとだけ、寂しい気がした。

治「紬ちゃん」

紬「!」

治「俺また告うから。その時までに俺のこと、男として意識させてみせる」

私、治君のこと誤解してたかもしれない。

治「覚悟しときや」

その時浮かべた笑顔が今までに見たことのない表情だった。
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