奪われたもの
紬side
私のクラスには有名人がいるらしい。
「中学からかっこよかったけど、更にかっこよくなってん!」
クラスの女の子が夢中になっている人は、私の隣の席の人。名前は宮侑君。私が知っているのはそれだけ。
「侑ー、今日私らとカラオケ行かへん?」
侑「部活あんねん」
休み時間のたびに彼の席には女の子が集まる。本当にモテモテ。いけない、彼のことより、私友達がまだ出来てないだった。
「どこでお昼食べるー?」
「食堂行かへん?」
もともと私は積極的な方じゃないから、自分から声をかける勇気がでなくて、いまだ一人。こんな自分が嫌い。
紬「・・屋上、開いてるかなぁ」
入学してすぐに知った屋上の存在。施錠されてる時も多いから人がほとんど来ない。私にとってすごく心地いい場所。
紬「開いてる!」
ぽかぽか暖かい。
紬「今日のおかずは、ハンバーグ!」
美味しい。そういえば、昨日のドラマ良かったなぁ。私もあんな強い女の人になりたい。
紬「たしか、・・・どうしてあなたが泣くの?」
昨日のドラマのセリフ、どんな女の人なのか、何を思っているのか、そんなことを考えている間に私は彼女になりきっていた。
紬「どんなに世界があなたを隠しても、私だけはあなたを見つけ出すから、だからこの手を掴んで」
孤独に生きようとする男を愛してしまった女と、初めて愛に触れる男のストーリー。あなたがこの手を取ってくれるなら、私はあなたから孤独を飲み込むほどの愛情で満たしたい。そんな、お話し・・。
「・・・・」
紬「・・え!!?」
一気に現実に引き戻された。誰もいないと思っていた屋上。でも誰も来ないわけじゃない。そんなこと分かってたのに、失念してしまってた。しかも、見られたのは、あのクラスの有名人。
「!」
目が合った!?
紬「あ、あわ、、す、すみません!!!」
私はとりあえず頭を下げて、そのまま脱ぎ捨ててた上着とお弁当を掴んで必死に階段を駆け下りた。
紬「っ、みられた・・」
最悪すぎる。それからすぐに教室に戻る勇気がなくて女子トイレに籠ってた。
紬「・・・戻らないと、、」
何か言われるかな・・。隣の席、嫌だなぁ。役になりきってほどいていた髪をいつも通り三つ編みにしてメガネをかける。いつもの格好にちょっと落ち着いた。
紬「・・よし、」
意を決して教室に入る。すでに宮君は席にいた。いつも通り友達と楽しそうに話してる。心臓がいたい。何か言われないか、そう考えるだけで、足がすくむ。
紬「・・」
私が席についても宮君たちはなんら変化もなく話続けている。ちょっとほっとした。
侑「あ、稲荷さん」
授業が始まる直前、隣の宮君から声が掛けられた。や、やっぱりあの事
侑「これ化学の先生に渡すように言われとったん忘れてたわ」
じゃなかった!!
侑「稲荷さん?」
紬「!す、すみません」
侑「ええよ」
そう言って笑った顔は、確かにモテるだろうなって思った。宮君の手から化学のノートを取ろうとした瞬間、触れた手。
紬「ひぃ」
侑「ふ、ふはははは、あ、あかん」
急に笑いだした宮君に私はハラハラするばかり、周りの人も首をかしげて宮君を見てる。
侑「ほんま小動物やな」
何を言ってるんだ、この人は。
侑「からかっただけや、ごめんな」
からかっただけ、とは今のこのことだよね?あの屋上のことじゃないよね?
侑「前に俺が日直のとき、日誌を職員室に届けてくれたの、稲荷さんなんやろ?」
確かに放課後置きっぱなしになっている日誌を職員室に持って行ったことはあるけど、宮君が日直だったなんて知らなかった。
侑「今日先生から聞いてん。ありがとう」
紬「あ、はい、い、いいえ」
侑「どっちやねん」
またクスクス笑う宮君。フレンドリーなんだなぁ。屋上のこと、誰にも言わないようにお願いしてみようかな。
紬「あ、あの宮君」
侑「侑」
紬「?」
侑「俺の名前や。侑って呼んで。紛らわしいから」
紛らわしい?宮君って他にもいたっけ?
紬「あ、侑君、あの」
「授業始めるぞー」
侑「あらら、またあとでな紬ちゃん」
言えなかった。でも少し話した感じだと言いふらすとか、そんなことする感じじゃない。それにもしかしたら私だって気づいてないかもしれない。髪も下ろしてたし、メガネも外していた。うん、たぶんそうだ。念のためにしばらく屋上に行くのは控えよう。
侑「紬ちゃん、次の英語の課題やってる?」
紬「う、うん」
侑「見してー」
紬「ど、どうぞ」
侑「ありがとう!」
あれからちょくちょく侑君とは話すけど、屋上のことを口にすることは一度もない。きっとすぐに記憶から抹消されたのかな。そっちの方が助かるんだけど。ちょっとショックかもしれない。
侑「紬ちゃん、勉強できるんやなぁ」
紬「え、いや、そんなことないよ」
侑「でも小テストいつも満点やん?俺半分くらいやで」
隣の席で交換して丸付けをするから知ってる。
紬「、でも侑君の間違ってるところ、ちょっとしたケアレスミスだから。ちゃんと勉強してるんだなって、思うよ」
侑「・・・」
紬「!ご、ごめんなさい。なんだか偉そうに言っちゃって」
侑「いや、なんか嬉しいな思てん」
紬「?」
侑君はニコニコして課題を写していた。
屋上でのことは忘れかけていたころ、新たな事実に直面する日がきた。
侑「紬ちゃん、次の授業なん?」
後ろの黒板に書いてあるけど。
侑「後ろ見るの面倒やん?」
机に伏せながらそういう侑君。え?声に出てた?
侑「顔に出とるよ」
笑う侑君からすぐに視線を外した。
紬「っ、、次は国語」
侑「睡眠学習の時間やな」
そんな風に呟いた侑君。確かに国語の先生緩いけど、
侑「お!なぁ紬ちゃん!」
侑君がパッと笑顔になって私の名前を呼ぶとそのまま視線を投げる。その視線の先を見て私は驚いた。
侑「あれ、治言うねん」
紬「・・え?」
侑「俺ら双子やねん」
知らなかった。侑君は席を立って侑君そっくりの彼に駆け寄って行く。
侑「サム!なんや用か?」
治「用か違うわボケ。俺の数学の教科書返せ」
侑「せやった!」
「ねぇ、あれって」
「侑くんそっくり」
「宮ツインズやね」
宮ツインズ。確かにそっくり。戻ってきた侑君は自分の机を漁ってる。きっと彼の教科書を探しているんだろう。なんか、お菓子の袋とか出てきてるけど。
侑「あれー?」
治「ッチ、何もたついてんねん」
うわ、こっちの侑君も大きい!
侑「・・そうやった、お前の返したわ」
治「は?受け取ってへんぞ」
侑「返した、家の机に置いてきた」
治「それは返したちゃう、忘れたいうんやクソツム!!もうええ、お前の貸せ!!」
侑君が怒ったらこんな感じなのかな。
侑「俺のも家や」
え?今日の6限目数学だけど?
治「はぁ?じゃあなんで昨日俺の使ってたんや!」
侑「お前のが出てたからちょうどええやん」
治「もう俺のもんに触んなや」
侑「無くてもええんちゃう?どうせ聞いてへんのやろ?」
治「お前と一緒にすな」
侑「しゃーないなぁ」
侑君がクルリとこっちを向いた。
侑「紬ちゃん」
紬「!」
え?私?
侑「数学の教科書持ってへん?持ってるなら此奴に貸してほしいねんけど」
持ってないとダメな日だよ?今日は。貸すのは、構わないけど、私教科書に書き込んだりしてるから・・。
治「気にせんといて。大丈夫やから」
渋る私に、気を遣うように言ってくれた彼。いや、別にあなたに貸すのが嫌なわけではないんです。
侑「でももう時間ないで」
治「別にええわ。隣に見せてもらう」
侑「あっそ」
治「お前プリン奢れや」
侑「はぁ?」
きっと私が貸さなくても彼は言った通り隣に見せてもらうんだろう。でも、
紬「どう、ぞ」
治「!」
困ってるのに、ムシするのは消極的な自分とは関係ない。人として、そこら辺はちゃんとしたい。
侑「お!流石、紬ちゃんや!」
侑君の言葉に少し心が軽くなる。でも目の前の彼は私の手元を見て固まったまま。よ、余計なお世話だったのかな?最初渋ってたくせに、みたいな?ど、どうしよう
治「あんた!」
紬「ひぃ!」
急に掴まれた手に私は驚いて変な声を出してしまっていた。
侑「ちょ、サムどうした!?」
侑君の声でハッとしたように彼は私の手を放してくれた。
治「!ご、ごめんな」
紬「あ、、い、いえ」
眉を下げて謝る彼は、なんだか侑君と似てないかな。
治「、教科書借りてええ?」
紬「、はい」
治「ありがとう」
去って行った彼の後姿を見ていた侑君が急に私の方を見て言った。
侑「紬ちゃん、サムと会うたことあるん?」
紬「え?、いや、初めて」
侑君はふぅん、とどこか意地悪そうに笑ってた。
紬「、、えっと、、侑君」
侑「ん?」
紬「今日、数学あるよ?」
侑「・・・紬ちゃん、俺にも見してな?」
私のクラスには有名人がいるらしい。
「中学からかっこよかったけど、更にかっこよくなってん!」
クラスの女の子が夢中になっている人は、私の隣の席の人。名前は宮侑君。私が知っているのはそれだけ。
「侑ー、今日私らとカラオケ行かへん?」
侑「部活あんねん」
休み時間のたびに彼の席には女の子が集まる。本当にモテモテ。いけない、彼のことより、私友達がまだ出来てないだった。
「どこでお昼食べるー?」
「食堂行かへん?」
もともと私は積極的な方じゃないから、自分から声をかける勇気がでなくて、いまだ一人。こんな自分が嫌い。
紬「・・屋上、開いてるかなぁ」
入学してすぐに知った屋上の存在。施錠されてる時も多いから人がほとんど来ない。私にとってすごく心地いい場所。
紬「開いてる!」
ぽかぽか暖かい。
紬「今日のおかずは、ハンバーグ!」
美味しい。そういえば、昨日のドラマ良かったなぁ。私もあんな強い女の人になりたい。
紬「たしか、・・・どうしてあなたが泣くの?」
昨日のドラマのセリフ、どんな女の人なのか、何を思っているのか、そんなことを考えている間に私は彼女になりきっていた。
紬「どんなに世界があなたを隠しても、私だけはあなたを見つけ出すから、だからこの手を掴んで」
孤独に生きようとする男を愛してしまった女と、初めて愛に触れる男のストーリー。あなたがこの手を取ってくれるなら、私はあなたから孤独を飲み込むほどの愛情で満たしたい。そんな、お話し・・。
「・・・・」
紬「・・え!!?」
一気に現実に引き戻された。誰もいないと思っていた屋上。でも誰も来ないわけじゃない。そんなこと分かってたのに、失念してしまってた。しかも、見られたのは、あのクラスの有名人。
「!」
目が合った!?
紬「あ、あわ、、す、すみません!!!」
私はとりあえず頭を下げて、そのまま脱ぎ捨ててた上着とお弁当を掴んで必死に階段を駆け下りた。
紬「っ、みられた・・」
最悪すぎる。それからすぐに教室に戻る勇気がなくて女子トイレに籠ってた。
紬「・・・戻らないと、、」
何か言われるかな・・。隣の席、嫌だなぁ。役になりきってほどいていた髪をいつも通り三つ編みにしてメガネをかける。いつもの格好にちょっと落ち着いた。
紬「・・よし、」
意を決して教室に入る。すでに宮君は席にいた。いつも通り友達と楽しそうに話してる。心臓がいたい。何か言われないか、そう考えるだけで、足がすくむ。
紬「・・」
私が席についても宮君たちはなんら変化もなく話続けている。ちょっとほっとした。
侑「あ、稲荷さん」
授業が始まる直前、隣の宮君から声が掛けられた。や、やっぱりあの事
侑「これ化学の先生に渡すように言われとったん忘れてたわ」
じゃなかった!!
侑「稲荷さん?」
紬「!す、すみません」
侑「ええよ」
そう言って笑った顔は、確かにモテるだろうなって思った。宮君の手から化学のノートを取ろうとした瞬間、触れた手。
紬「ひぃ」
侑「ふ、ふはははは、あ、あかん」
急に笑いだした宮君に私はハラハラするばかり、周りの人も首をかしげて宮君を見てる。
侑「ほんま小動物やな」
何を言ってるんだ、この人は。
侑「からかっただけや、ごめんな」
からかっただけ、とは今のこのことだよね?あの屋上のことじゃないよね?
侑「前に俺が日直のとき、日誌を職員室に届けてくれたの、稲荷さんなんやろ?」
確かに放課後置きっぱなしになっている日誌を職員室に持って行ったことはあるけど、宮君が日直だったなんて知らなかった。
侑「今日先生から聞いてん。ありがとう」
紬「あ、はい、い、いいえ」
侑「どっちやねん」
またクスクス笑う宮君。フレンドリーなんだなぁ。屋上のこと、誰にも言わないようにお願いしてみようかな。
紬「あ、あの宮君」
侑「侑」
紬「?」
侑「俺の名前や。侑って呼んで。紛らわしいから」
紛らわしい?宮君って他にもいたっけ?
紬「あ、侑君、あの」
「授業始めるぞー」
侑「あらら、またあとでな紬ちゃん」
言えなかった。でも少し話した感じだと言いふらすとか、そんなことする感じじゃない。それにもしかしたら私だって気づいてないかもしれない。髪も下ろしてたし、メガネも外していた。うん、たぶんそうだ。念のためにしばらく屋上に行くのは控えよう。
侑「紬ちゃん、次の英語の課題やってる?」
紬「う、うん」
侑「見してー」
紬「ど、どうぞ」
侑「ありがとう!」
あれからちょくちょく侑君とは話すけど、屋上のことを口にすることは一度もない。きっとすぐに記憶から抹消されたのかな。そっちの方が助かるんだけど。ちょっとショックかもしれない。
侑「紬ちゃん、勉強できるんやなぁ」
紬「え、いや、そんなことないよ」
侑「でも小テストいつも満点やん?俺半分くらいやで」
隣の席で交換して丸付けをするから知ってる。
紬「、でも侑君の間違ってるところ、ちょっとしたケアレスミスだから。ちゃんと勉強してるんだなって、思うよ」
侑「・・・」
紬「!ご、ごめんなさい。なんだか偉そうに言っちゃって」
侑「いや、なんか嬉しいな思てん」
紬「?」
侑君はニコニコして課題を写していた。
屋上でのことは忘れかけていたころ、新たな事実に直面する日がきた。
侑「紬ちゃん、次の授業なん?」
後ろの黒板に書いてあるけど。
侑「後ろ見るの面倒やん?」
机に伏せながらそういう侑君。え?声に出てた?
侑「顔に出とるよ」
笑う侑君からすぐに視線を外した。
紬「っ、、次は国語」
侑「睡眠学習の時間やな」
そんな風に呟いた侑君。確かに国語の先生緩いけど、
侑「お!なぁ紬ちゃん!」
侑君がパッと笑顔になって私の名前を呼ぶとそのまま視線を投げる。その視線の先を見て私は驚いた。
侑「あれ、治言うねん」
紬「・・え?」
侑「俺ら双子やねん」
知らなかった。侑君は席を立って侑君そっくりの彼に駆け寄って行く。
侑「サム!なんや用か?」
治「用か違うわボケ。俺の数学の教科書返せ」
侑「せやった!」
「ねぇ、あれって」
「侑くんそっくり」
「宮ツインズやね」
宮ツインズ。確かにそっくり。戻ってきた侑君は自分の机を漁ってる。きっと彼の教科書を探しているんだろう。なんか、お菓子の袋とか出てきてるけど。
侑「あれー?」
治「ッチ、何もたついてんねん」
うわ、こっちの侑君も大きい!
侑「・・そうやった、お前の返したわ」
治「は?受け取ってへんぞ」
侑「返した、家の机に置いてきた」
治「それは返したちゃう、忘れたいうんやクソツム!!もうええ、お前の貸せ!!」
侑君が怒ったらこんな感じなのかな。
侑「俺のも家や」
え?今日の6限目数学だけど?
治「はぁ?じゃあなんで昨日俺の使ってたんや!」
侑「お前のが出てたからちょうどええやん」
治「もう俺のもんに触んなや」
侑「無くてもええんちゃう?どうせ聞いてへんのやろ?」
治「お前と一緒にすな」
侑「しゃーないなぁ」
侑君がクルリとこっちを向いた。
侑「紬ちゃん」
紬「!」
え?私?
侑「数学の教科書持ってへん?持ってるなら此奴に貸してほしいねんけど」
持ってないとダメな日だよ?今日は。貸すのは、構わないけど、私教科書に書き込んだりしてるから・・。
治「気にせんといて。大丈夫やから」
渋る私に、気を遣うように言ってくれた彼。いや、別にあなたに貸すのが嫌なわけではないんです。
侑「でももう時間ないで」
治「別にええわ。隣に見せてもらう」
侑「あっそ」
治「お前プリン奢れや」
侑「はぁ?」
きっと私が貸さなくても彼は言った通り隣に見せてもらうんだろう。でも、
紬「どう、ぞ」
治「!」
困ってるのに、ムシするのは消極的な自分とは関係ない。人として、そこら辺はちゃんとしたい。
侑「お!流石、紬ちゃんや!」
侑君の言葉に少し心が軽くなる。でも目の前の彼は私の手元を見て固まったまま。よ、余計なお世話だったのかな?最初渋ってたくせに、みたいな?ど、どうしよう
治「あんた!」
紬「ひぃ!」
急に掴まれた手に私は驚いて変な声を出してしまっていた。
侑「ちょ、サムどうした!?」
侑君の声でハッとしたように彼は私の手を放してくれた。
治「!ご、ごめんな」
紬「あ、、い、いえ」
眉を下げて謝る彼は、なんだか侑君と似てないかな。
治「、教科書借りてええ?」
紬「、はい」
治「ありがとう」
去って行った彼の後姿を見ていた侑君が急に私の方を見て言った。
侑「紬ちゃん、サムと会うたことあるん?」
紬「え?、いや、初めて」
侑君はふぅん、とどこか意地悪そうに笑ってた。
紬「、、えっと、、侑君」
侑「ん?」
紬「今日、数学あるよ?」
侑「・・・紬ちゃん、俺にも見してな?」