体育祭
銀島side
「ええで銀島!」
銀島「頼むで!」
バトンを渡して呼吸を落ち着かせる。現状1位や。
銀島「いけいけー!」
グランド半周やからな、すぐにバトンを渡すことになる。
銀島「お、角名やんけ」
角名「疲れたっ」
銀島「やっぱり陸上部多いクラスは早いな」
さっきまで俺のクラスが1位やったのに、陸上部の追い上げで3位まで下がっとる。
角名「あいつら容赦ないからね。あ、治だ」
銀島「お!いや、あれ侑やん」
角名「ほんとだ」
クラスTシャツで何とか判別できるけど、顔だけならもうわからん。アイツ結構速いな。
銀島「次こそ治や」
角名「なに、あの双子足の速さまで双子なのか?」
銀島「足の速さまで双子てなんやねん」
リレーも終盤に近付いて来とる。
角名「紬だ」
角名の視線の先にはちょっと不安そうにしとる紬ちゃんがおった。なんや、先生に背中押されて立ち位置に進んどる。
角名「緊張しすぎじゃない?」
た、確かに。
「っ稲荷さん!」
紬「は、はい!」
バトンを受け取って走り出した紬ちゃん。まぁ、速くはないな。
紬「!」
ズサーッ
角名「!」
銀島「うわ!」
盛大に転んだな、紬ちゃん!大丈夫なん!?
「うわー今の子痛そうやね」
「でもすぐ起きて走っとるよ」
「根性あるなぁ」
膝から血が出るのが俺から見ても分かる。でも、紬ちゃんは真っ直ぐ走っとった。
川島「稲荷!」
紬「っ、川島君!」
紬ちゃんからバトンを受けて取った奴、速いな。陸上部か?
角名「紬」
銀島「!そうやった、紬ちゃ」
「きゃぁぁ!!」
俺らが行く前に、紬が横抱きにされとった。身長が高いそいつがやるもんやから、目立っとる。その上、やっとる奴自身が目立つんや。
角名「治、こっち来るの早」
銀島「目立つ奴やなぁ、紬ちゃんがかわいそうや」
まぁ、考える先に体が動く奴やからなぁ。あ、紬ちゃんと侑のクラスが1位やし。
角名「・・銀島?」
銀島「治が言っとった意味が少しわかった気ぃするな」
角名「?」
紬ちゃん、あんな面もあるんやな。
紬side
結君と角名君が走ってるのが見えた。やっぱりみんな速い。
「侑!」
侑「おう!」
もう侑君まで回ったんだ。す、すごい心臓がドキドキする。あ、治君。みんな走ってる。
「稲荷、そろそろお前の番やで」
稲荷「は、はい」
先生に背中を押されながらコースに入る。私のクラスはちょうど真ん中くらい。
「頑張れ!!」
「もう少しもう少し!」
そうか、別に私だけが走るの苦手なわけじゃない。だけどみんなちゃんと走ってる。ごちゃごちゃ考えるのは、やめよう。私もちゃんと走る。
「っ稲荷さん!」
紬「は、はい!」
手に感じた重み。それを力いっぱい握って走った。
紬「!」
ズサーッ
っ、まだ!ちゃんと走りたい!
川島「稲荷!」
紬「っ、川島君!」
先の方まで出て来てくれてた川島君に手を伸ばした。力強く引かれたバトン。その瞬間、彼の背中はもう遠くにあった。私が遅れた分を取り返す様に走ってくれる彼。すごく、速い。
紬「!」
急に感じた浮遊感と少しの汗のにおい。
紬「お、さむくん」
気づけば治君に横抱きにされていた。女の子たちの悲鳴にも似た声が耳をつく。
治「足、手当せんと」
紬「だ、大丈夫、歩けるよ」
治「ええから」
下りられない。
ーーなんと1位は怒涛の追い上げを見せた1組です!--
私のクラス!
侑「紬ちゃん痛そうやなぁ」
紬「侑君」
侑「でもガッツのある走りやったで。流石や」
素直に嬉しい。
川島「稲荷!」
稲荷「か、川島君」
川島君が治君に抱えれてる私を見て一瞬驚いていたけど、私の足を見て眉を下げた。
川島「大丈夫?」
稲荷「う、うん。それより、ありがとう。川島君のおかげ」
川島「!」
治「・・紬ちゃん、手当てしに行こか」
川島「あ、俺が」
治「ええ」
川島「!」
侑「あちゃー」
治君?怒ってる?
治「ちょうど昼休憩入るし、俺が連れてくわ」
川島「、おん!なら頼んだで。稲荷またあとでなぁ!ナイス走りやったで!クラスのみんなも褒めとった!」
紬「あ、ありがとう」
なんだか、恥ずかしくて治君のTシャツを無意識につかんでしまっていた。
「盛大に転がってたもんねぇ」
保健の先生、私別に転がってたわけでは。
「で、今回は侑君?治君?」
治「治です」
「ごめんごめん、よし!ええよ」
ちょっと大げさにネットまでつけられてしまってる。
「稲荷さん、この後まだ出る種目あるん?」
紬「は、はい。借り人競争に」
「ああ、なら大丈夫やと思うけど、もし取れたりしたならまたおいでな」
紬「はい」
治「立てる?」
紬「だ、大丈夫だよ」
「ははは!治君は過保護やなぁ!」
過保護・・。
治「そんなんとちゃいます」
治くんは私の手を握って立たせてくれた。先生が行ってしまった後、もう昼休みでほとんど人がいないのに気づいた。
治「紬ちゃん、俺と飯食わん?」
紬「!うん、食べたい」
治「あっちの日陰で食べよ。俺、弁当取ってくるわ。紬ちゃんのも取ってくるけど、どこら辺?」
紬「ありがとう」
場所を言うと頷いて駆け足で行ってしまった。
「稲荷さん!」
治君と入れ替わるようにして女の子たちが来た。
「稲荷大丈夫?」
紬「!う、うん」
「よかった!」
「治君かっこよかったなぁ!」
「稲荷さん、治君と付き合ってるん?」
治君と?
紬「い、いえ、付き合ってないです」
「そうなん?見るたび一緒におるから付き合ってんのかなって思っとったわ」
そ、そんな風に見えてたの?これは、治君に迷惑なんじゃないかな。
治「紬ちゃん」
紬「!治君」
「じゃあね、稲荷さん」
「お大事に~」
行っちゃった。
治「・・なんか言われたん?」
紬「!う、ううん!なにも!お弁当ありがとう」
治「?ならええけど。歩ける?」
紬「大丈夫」
日陰まで移動すると、治君は手に持っていた上着を地面に置いた。
紬「?」
治「座って」
え?座ってって、治君の上着に!?そ、そんなことしたら、私、治君のファンに・・
紬「殺されたりしないかな?」
治「誰にやねん」
なかなか座らない私にしびれを切らしてついには治君に座らせられた。も、申し訳なさすぎる。
紬「ごめん、ちゃんと洗って返すね」
治「体育祭で体操着が汚れるんは普通のことやで」
いや、汚れ方が違うと思う。きっと治君のこういう優しさが、さっきみたいな誤解をうむのかな。
治「!紬ちゃんのお弁当すごいなぁ」
紬「え?そ、そうかな?」
治「めちゃくちゃ豪華や!」
確かにいつもよりおかずは多いし、おにぎりの味もたくさん用意した。
紬「今日、緊張でちょっと早く起きちゃったから手が込んじゃった」
治「!紬ちゃんが作ったん!?」
紬「う、うん。うち親が共働きで朝家にいないことも多いから。ご飯は基本私が作ってるの」
治の目が輝いてる。
紬「・・気になるのあるならあげるよ?」
治「ええん!?」
紬「うん」
治「ほな、これ!」
紬「それはベーコンアスパラとチーズを餃子の皮で巻いたの」
治「美味い!」
紬「他のも食べていいよ」
治「ほんま!?」
紬「うん」
いつもより手を込んで作って良かった。
「ええで銀島!」
銀島「頼むで!」
バトンを渡して呼吸を落ち着かせる。現状1位や。
銀島「いけいけー!」
グランド半周やからな、すぐにバトンを渡すことになる。
銀島「お、角名やんけ」
角名「疲れたっ」
銀島「やっぱり陸上部多いクラスは早いな」
さっきまで俺のクラスが1位やったのに、陸上部の追い上げで3位まで下がっとる。
角名「あいつら容赦ないからね。あ、治だ」
銀島「お!いや、あれ侑やん」
角名「ほんとだ」
クラスTシャツで何とか判別できるけど、顔だけならもうわからん。アイツ結構速いな。
銀島「次こそ治や」
角名「なに、あの双子足の速さまで双子なのか?」
銀島「足の速さまで双子てなんやねん」
リレーも終盤に近付いて来とる。
角名「紬だ」
角名の視線の先にはちょっと不安そうにしとる紬ちゃんがおった。なんや、先生に背中押されて立ち位置に進んどる。
角名「緊張しすぎじゃない?」
た、確かに。
「っ稲荷さん!」
紬「は、はい!」
バトンを受け取って走り出した紬ちゃん。まぁ、速くはないな。
紬「!」
ズサーッ
角名「!」
銀島「うわ!」
盛大に転んだな、紬ちゃん!大丈夫なん!?
「うわー今の子痛そうやね」
「でもすぐ起きて走っとるよ」
「根性あるなぁ」
膝から血が出るのが俺から見ても分かる。でも、紬ちゃんは真っ直ぐ走っとった。
川島「稲荷!」
紬「っ、川島君!」
紬ちゃんからバトンを受けて取った奴、速いな。陸上部か?
角名「紬」
銀島「!そうやった、紬ちゃ」
「きゃぁぁ!!」
俺らが行く前に、紬が横抱きにされとった。身長が高いそいつがやるもんやから、目立っとる。その上、やっとる奴自身が目立つんや。
角名「治、こっち来るの早」
銀島「目立つ奴やなぁ、紬ちゃんがかわいそうや」
まぁ、考える先に体が動く奴やからなぁ。あ、紬ちゃんと侑のクラスが1位やし。
角名「・・銀島?」
銀島「治が言っとった意味が少しわかった気ぃするな」
角名「?」
紬ちゃん、あんな面もあるんやな。
紬side
結君と角名君が走ってるのが見えた。やっぱりみんな速い。
「侑!」
侑「おう!」
もう侑君まで回ったんだ。す、すごい心臓がドキドキする。あ、治君。みんな走ってる。
「稲荷、そろそろお前の番やで」
稲荷「は、はい」
先生に背中を押されながらコースに入る。私のクラスはちょうど真ん中くらい。
「頑張れ!!」
「もう少しもう少し!」
そうか、別に私だけが走るの苦手なわけじゃない。だけどみんなちゃんと走ってる。ごちゃごちゃ考えるのは、やめよう。私もちゃんと走る。
「っ稲荷さん!」
紬「は、はい!」
手に感じた重み。それを力いっぱい握って走った。
紬「!」
ズサーッ
っ、まだ!ちゃんと走りたい!
川島「稲荷!」
紬「っ、川島君!」
先の方まで出て来てくれてた川島君に手を伸ばした。力強く引かれたバトン。その瞬間、彼の背中はもう遠くにあった。私が遅れた分を取り返す様に走ってくれる彼。すごく、速い。
紬「!」
急に感じた浮遊感と少しの汗のにおい。
紬「お、さむくん」
気づけば治君に横抱きにされていた。女の子たちの悲鳴にも似た声が耳をつく。
治「足、手当せんと」
紬「だ、大丈夫、歩けるよ」
治「ええから」
下りられない。
ーーなんと1位は怒涛の追い上げを見せた1組です!--
私のクラス!
侑「紬ちゃん痛そうやなぁ」
紬「侑君」
侑「でもガッツのある走りやったで。流石や」
素直に嬉しい。
川島「稲荷!」
稲荷「か、川島君」
川島君が治君に抱えれてる私を見て一瞬驚いていたけど、私の足を見て眉を下げた。
川島「大丈夫?」
稲荷「う、うん。それより、ありがとう。川島君のおかげ」
川島「!」
治「・・紬ちゃん、手当てしに行こか」
川島「あ、俺が」
治「ええ」
川島「!」
侑「あちゃー」
治君?怒ってる?
治「ちょうど昼休憩入るし、俺が連れてくわ」
川島「、おん!なら頼んだで。稲荷またあとでなぁ!ナイス走りやったで!クラスのみんなも褒めとった!」
紬「あ、ありがとう」
なんだか、恥ずかしくて治君のTシャツを無意識につかんでしまっていた。
「盛大に転がってたもんねぇ」
保健の先生、私別に転がってたわけでは。
「で、今回は侑君?治君?」
治「治です」
「ごめんごめん、よし!ええよ」
ちょっと大げさにネットまでつけられてしまってる。
「稲荷さん、この後まだ出る種目あるん?」
紬「は、はい。借り人競争に」
「ああ、なら大丈夫やと思うけど、もし取れたりしたならまたおいでな」
紬「はい」
治「立てる?」
紬「だ、大丈夫だよ」
「ははは!治君は過保護やなぁ!」
過保護・・。
治「そんなんとちゃいます」
治くんは私の手を握って立たせてくれた。先生が行ってしまった後、もう昼休みでほとんど人がいないのに気づいた。
治「紬ちゃん、俺と飯食わん?」
紬「!うん、食べたい」
治「あっちの日陰で食べよ。俺、弁当取ってくるわ。紬ちゃんのも取ってくるけど、どこら辺?」
紬「ありがとう」
場所を言うと頷いて駆け足で行ってしまった。
「稲荷さん!」
治君と入れ替わるようにして女の子たちが来た。
「稲荷大丈夫?」
紬「!う、うん」
「よかった!」
「治君かっこよかったなぁ!」
「稲荷さん、治君と付き合ってるん?」
治君と?
紬「い、いえ、付き合ってないです」
「そうなん?見るたび一緒におるから付き合ってんのかなって思っとったわ」
そ、そんな風に見えてたの?これは、治君に迷惑なんじゃないかな。
治「紬ちゃん」
紬「!治君」
「じゃあね、稲荷さん」
「お大事に~」
行っちゃった。
治「・・なんか言われたん?」
紬「!う、ううん!なにも!お弁当ありがとう」
治「?ならええけど。歩ける?」
紬「大丈夫」
日陰まで移動すると、治君は手に持っていた上着を地面に置いた。
紬「?」
治「座って」
え?座ってって、治君の上着に!?そ、そんなことしたら、私、治君のファンに・・
紬「殺されたりしないかな?」
治「誰にやねん」
なかなか座らない私にしびれを切らしてついには治君に座らせられた。も、申し訳なさすぎる。
紬「ごめん、ちゃんと洗って返すね」
治「体育祭で体操着が汚れるんは普通のことやで」
いや、汚れ方が違うと思う。きっと治君のこういう優しさが、さっきみたいな誤解をうむのかな。
治「!紬ちゃんのお弁当すごいなぁ」
紬「え?そ、そうかな?」
治「めちゃくちゃ豪華や!」
確かにいつもよりおかずは多いし、おにぎりの味もたくさん用意した。
紬「今日、緊張でちょっと早く起きちゃったから手が込んじゃった」
治「!紬ちゃんが作ったん!?」
紬「う、うん。うち親が共働きで朝家にいないことも多いから。ご飯は基本私が作ってるの」
治の目が輝いてる。
紬「・・気になるのあるならあげるよ?」
治「ええん!?」
紬「うん」
治「ほな、これ!」
紬「それはベーコンアスパラとチーズを餃子の皮で巻いたの」
治「美味い!」
紬「他のも食べていいよ」
治「ほんま!?」
紬「うん」
いつもより手を込んで作って良かった。