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夏休み

治side

期末試験1位は紬ちゃんで俺らも赤点もなく、無事に終わったのが随分前に事になった。あれだけI・Hと言ってた頃も過ぎた。優勝は出来んかった。でもそれはもう昔のことや。次は春高に向けてやるだけ。

「きゃぁぁ、宮君!」

「宮ツインズや!」

相変わらず普通の練習やのにギャラリーはおる。夏休みやからだいぶ少ないけどな。夏休みに入ってから、紬ちゃんには会えてへん。連絡は取ってるけど、練習を見に来てくれたことはまだない。

治「・・忙しいんかな」

侑「紬ちゃんのことか?」

お前は本当にどっから湧いてくんねん。

侑「本当か知らんけど、水泳部に紬ちゃん見学行ってるらしいで。俺のクラスの水泳部の奴が言いよった」

は?

治「なんで水泳部なん?」

侑「知らん」

水泳部って誰かおったか?

侑「気になる男でもおるんとちゃうん?」

治「はぁ?」

侑「おらんとは言い切れんやろ」

わかっとる、これはツムの挑発や。受け流せ。

侑「そいつに泳ぎ方でも習ってんのやろ。俺は紬ちゃんが泳げるようになった方が安心やからええけど」

これは挑発。

侑「あ、でもやっぱり水しぶきとかあるんやろ?紬ちゃん、無防備やからなぁ、濡れて透けるなんてハプニングも、ブハッ」

治「喧しいんじゃクソブタが!!全部お前の妄想やろが!!」

そっからは殴って殴られての喧嘩やった。

監督「お前らは急になんやねん!」

侑・治「「・・・」」

正座させられて説教を聞く羽目になったんも全部ツムのせいや。

監督「はぁ・・反省したか?」

侑・治「「しましたぁ」」

監督「なら、今回悪いんはどっちや?」

侑「サム」

治「ツム」

侑・治「「ああ?!」」

監督「反省しとらんやないか!!」

その日、練習後のモップ掛けを俺ら二人でさせられた。俺ら以外誰もおらん体育館に互いのシューズの音だけが響く。

ガラガラ

誰や、忘れもんか?

紬「、おわってる」

治・侑「「紬ちゃん!」」

モップをそのままに紬ちゃんが居る扉に駆け寄った。久しぶりの紬ちゃんや!

紬「、静かだからもしかしたら、って思ったけど、終わってたね」

侑「明日練習試合やから今日は終わるの早いねん」

紬「そっか、残念」

治「紬ちゃんはこんな時間まで何してたん?」

紬「、水泳部の見学に行ってたの」

水泳部の見学って、ツムが言うとったやつやん。ツムがこっちみて笑っとるのが妙に腹立つ。

治「なんで水泳部?」

紬「、泳ぎ、上手くなりたくて。フォームを見せてもらってたの。あ、外からなんだけどね」

治「外から?」

紬「?そうだよ。邪魔になると悪いから」

ツムの方を見ると、あいつは誤魔化す様に視線を投げとった。

紬「、どうして侑君と治君だけでなの?」

侑・治「「!」」

俺は悪ないけど、なんや言いにくい。

侑「・・サムが悪いんや」

紬「え?」

治「はぁ!?悪いんは全部お前やろが!!」

侑「本当のことやったやろ!」

治「妄想も入っとったわ!本当のことなんて1割くらいや!」

紬「!、治君、侑君!」

俺とツムのTシャツの端を掴んでちょっと興奮したような紬ちゃんの声に俺たちはそろって視線をそっちに向けた。

紬「わ、私もしてもいいかな?」

侑「え?」

治「なんを?」

紬ちゃんが指さしのは、俺が放置しとったモップやった。

侑「モップ掛けしたいん!?」

何度も頷く紬ちゃんの瞳は輝いとった。いや、なんで輝かせてるんかは知らんけど。

治「別にええけど」

紬「!・・し、失礼します」

嬉しそうにしながらも、体育館にお辞儀して入る紬ちゃん。それがどことなくおもろい。

紬「う、うわぁ、重たいね」

俺らが片手で掛けるモップを両手で必死に押す姿にツボってしまった。

侑「紬ちゃんっ、重そうやなぁっ」

治「ヤメロ、ツム」

侑「でもサム、見てみ。めっちゃモップでかない?」

デカい。俺らが笑ってるのを見て、紬ちゃんはどこかムッとしとった。それにまた笑ってまう。

紬「ふ、二人も手伝って」

手伝っても何も、もともと俺らがせないかんやつやで。

侑「ごめんごめん、行くぞサム」

さっきまでの空気がどっかにいった。3人で最後までモップ掛けをして体育館を出る。

治「紬ちゃん、手伝ってくれてありがとうなぁ」

紬「ううん、モップ掛けさせてくれてありがとう」

侑「そ、そんなこと言う子初めてや」

治「あ、あんまり笑うなやツム」

紬「、治君も侑君も知らない」

背を向けて行ってしまう紬ちゃんの腕を俺は掴んどった。

治「紬ちゃん、今度はいつ来てくれるん?」

紬「あ、えっと、、実はね・・一度、行ったんだけど」

侑・治「「え?!」」

ツムも気づいてなかったらしい。

紬「そのとき、ここバスケ部の人たちがいて」

治「・・・それたぶん隣の体育館やで、紬ちゃん」

紬「え?」

アカン、この子ド天然なの忘れとった。

侑「!なら紬ちゃん、明日来てや!」

紬「え?でも」

侑「予定あるん?」

紬「予定は、ないけど。明日練習試合だって」

治「ここでやるんや。紬ちゃんの他にも見にくる子おるし」

紬「じゃあ、差し入れ持って行くね」

治「楽しみにしとる」


寄るところがあると言う紬ちゃんと別れて、ツムと家に帰る。

侑「紬ちゃん、ほんとおもろい子やな」

治「可愛えな」

侑「可愛え」

治「・・お前が可愛え言うな」

侑「あ?可愛えもんわ可愛えんや」


練習試合当日。

「「「「「お願いしやーす」」」」」

相手校の奴らも結構デカいな。

監督「コート2面使ってやるで」

三年生がメインのチームと、1,2年で構成されたチームができた。俺とツムもそっちのチームで出れる。

侑「どうせなら、3年生にも上げてみたかったんやけど」

治「あのメンバーにはあのメンバーのコンビネーションがあるんやろ」

侑「ま、試合できるしええか。サム、お前紬ちゃん来るからって張り切り過ぎたらあかんで」

治「アホ、大丈夫や」

「宮君たち出るみたいや!」

「頑張ってー」

ギャラリーには結構な人がおる。でも紬ちゃんの姿はなかった。

ピー

試合が始まる。

侑「・・サム」

治「っ!」

バシっ!ピッ!

アウトか。

角名「ドンマイ」

銀島「なんや、調子乗らんなぁサム」

その試合で打ったスパイクの半分がアウトかブロックに止められた。

監督「昼休憩や!午後からもあるんやからしっかり飯食えよ!」

1時間半の休憩。いつもは腹減ってしゃあないのに、今は全然や。

角名「治、お昼食べないの?」

治「腹減ってへん」

侑「当たり前や。あんなへなちょこスパイク何本打っても腹なんて減るか」

治「・・」

銀島「・・あ、紬ちゃん」

紬ちゃんが体育館の扉の外に立っとった。タイミング悪いなぁ。

侑「紬ちゃーん!見てくれとった?俺のトス!」

紬「うん!すごかった!侑君の言うことボールが聞いてるみたい!」

侑「!やろ?」

また珍しく興奮しとる紬ちゃん。

紬「これ、よければみなさんでどうぞ」

侑「おお!」

角名「レモンのハチミツ漬けだ」

紬「たくさん用意したから、足りると思うんだけど」

銀島「紬ちゃんありがとさん!」

銀たちがそれを囲んでる中に、俺は行けんかった。

紬「治君?」

侑「紬ちゃん、あいつのことはええねん。ポンコツに食う権利あらへんわ」

クソツムが。なんで紬ちゃんが見に来てくれた時に限って・・。

紬「治君」

治「!」

座り込んどった俺と視線を合わせるようにおった紬ちゃん。口の中が甘酸っぱくなる。美味い。

紬「、私にバレーボールは分からないけど、でも、治君が苛立ってるのは分かる」

治「・・なら普通近寄らんのやないん?苛立ってるから何言うかわからんよ」

八つ当たりや。かっこ悪いな、俺。

紬「治君が今私に何言っても怖くないし、傷ついたりしないよ。今、一番苦しいのは治君でしょう?」

紬ちゃんの言葉は不思議や。

紬「上手くいくとか、私は言えないし分からない。でも今を必死になってる人はみんなかっこいいよ。今日は来て良かった。治君のかっこいい姿見られた」

そう言って笑う紬ちゃんの手を掴んだ。

紬「お、治君?」

治「ちょっと来て」

体育館裏の人気がない場所で、俺は紬ちゃんを抱きしめた。

治「、ごめん、少しこうさせて」

紬「、うん」

俺の背中をポンポン叩いてくれる紬ちゃんのそれは心地よかった。

治「・・ごめんな紬ちゃん」

いつまでもこうしてはおれん、紬ちゃんを腕から離すと彼女は俺の顔をジッと見た。え?なん?

紬「うん、いつもの治君」

ああ、ホンマ好きや。

治「紬ちゃん、午後からも俺頑張るから、見とって」

紬「、うん」

治「紬ちゃん」

紬「なに?」

治「ありがとう」

紬「こちらこそ、ありがとう。治君の大好きなバレーボール、見させてくれて」

なんや、今ならどんなボールでも打てる気がするわ。
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