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その気持ちを自覚する

紬side

浮き輪を探してたら、見慣れたシルエットを見つけた。私の席におなか減ったって来る治君の雰囲気。

紬「治君」

治「!!」

やっぱり、治君だった。

紬「、お腹減ったの?」

治「!わかるん?」

紬「やっぱり、雰囲気がおなか減ったなぁ、って言ってた」

お腹減った、っていうのも合ってたみたい。

侑「あー!サムが紬ちゃんとイチャついとる!!」

治「イチャついてへんわ!」

侑「!紬ちゃん、日焼け止めクリーム塗ったん?」

侑君は流石だなぁ、ちゃんと泳げてる。いつもは私が侑君を見上げる側だから見上げられる側はなんだか新鮮。

侑「背中、白く残っとるよ」

紬「!」

ちゃんと伸ばせてなかったのかな。

侑「後ろ向いて」

紬「う、うん」

侑君が伸ばしてくれるみたい。申し訳ないけど、自分じゃどこかわからないし、お願いしよう。

侑「紬ちゃん背中も綺麗やな」

紬「あ、侑君!」

侑君は恥ずかしくなることをポンポン言っちゃう。そんなこと考えてたら侑君の手が背中に触れた。

紬「ん」

冷たい!やっぱりまだ少し寒いなぁ。

侑・治「「!!」」

?もう大丈夫かな?

紬「?、侑君、出来た?」

侑「!あ、おん!もうええで!」

紬「ありがとう。私も、浅いところから入ってくる」

侑「気ぃつけてなー」

今年こそは泳げるようになりたい。まずは浅いところで水に慣れてから。

紬「う、うわ」

水の中に入ってみると、体がふわふわ浮く。なんだか気持ちいい。

パシャ

紬「!」

「あ、ごめん稲荷さん」

紬「だ、大丈夫です!」

危ない。ちゃんと他の人のことも考えないと。

「ちょっと、そこどいてくれへん?」

紬「あ、ご、ごめんなさい」

あ、あれ足がとどかない!?

ドンッ

紬「!?」

誰かにぶつかった。え?あ、足が届かない!!?こ、怖いっ、い、息ってどうやってするんだっけ、、

紬「っ、たす、けて」

さっきまでの浮く感覚がない。沈む、怖いっ

ゴボっ

息できないっ

紬「っ」

頭が、ぼーっとする。沈んでるのか、浮いてるのかも分からない。あ、れ?おさ、むくん?

ザパッ

治「っはぁはぁ」

紬「っゲホゲホ、っ」

治「アホ!!何してんねん!!」

紬「!」

いき、できる。

治「泳げへんのに、こんなとこまで来て、死ぬ気か!?」

しぬ?そうだ、私さっき、沈んで、それで

治「デカい声で、助け呼べや!!」

治君、が助けてくれたっ。

「!大丈夫か!!?」

治君が、怒ってる。また、私、迷惑かけた。

紬「っ、ごめん、なさい」

怒らせてしまったのは自分のせいだってわかってる。怖い、水が、

紬「ごめん、なさい」

治君を怒らせて、嫌われても仕方ない。でも、怖い、

治「・・もうええから、保健室行くか?」

もう少し、もう少しだけこのままがいい。でも、そんなことが無理なのは分かってる。

「宮、ありがとうな」

治「、いえ」

「稲荷、こっちこれるか?」

頭で理解できてても、体が動かなかった。

治「パニックになってるんやと思います。俺が保健室連れていきます」

「悪いな、宮。保健室の方には連絡入れとくわ。後で先生も行くから」

治「はい」

「おーい、お前ら少し散れ。それと場所をもっと譲れよ」

私は、何をしてるんだろう。

治「、紬ちゃん、上がれる?」

紬「、、う、ん」

プールサイドに手をついて上がろうとするけど、力が入らない。あれ?

治「・・」

紬「、ご、ごめん、」

治「紬ちゃん」

治君が私の手を掴んで自分の首に回した。

治「離したらあかんよ」

紬「っ!」

治君は私の身体を片手で支えながらプールから上がった。そのまま横抱きで歩いてる。

紬「お、治君、私」

治「歩けへんよ。力、入らんのやろ?」

「治君、これ稲荷さんの」

クラスの女の子。私の荷物を持ってきてくれたんだ。私がお礼を言わなきゃいけないのに、治君がお礼を言ってそれを受け取ってた。

角名「治も羽織って行きなよ」

治「おん」

治君が上着を着ている間、私は角名君に抱かれてた。

角名「紬」

紬「!」

角名「大丈夫、治に保健室連れて行ってもらいな」

紬「っ、」

なんだろう、目頭が熱い。

治「角名」

角名「ん」

治君が私にも上着をかけてくれた。

紬「あ、りがとう」

治「ん」

保健室までの道のり私は、ただ震える手を強く握ってるだけだった。


「体冷えとるよね」

保健室につけば、先生はホットココアを私と治君に出してくれた。

「稲荷さん、ご両親に連絡入れて迎えに来てもらおうか?」

紬「、い、え、、大丈夫です」

今日から2人は出張でいない。

「ゆっくり休んでいき。宮君もありがとうね」

治「いえ」

「ちょっと先生、連絡入れてくるけど、ええかな?」

頷いた私に笑って立ち上がった先生。

「バスタオルまだ必要なら取ってええからね」

先生が出て行ったあと、保健室に二人になった。隣に座ってた治君が立ち上がったのが分かった。

治「・・先生すぐ帰ってくると思うから、待っとき」

紬「、治く」

治「さっきは怒鳴って悪かっ」

紬「謝らないで!」

治「!」

謝るのは治君じゃない。

紬「謝るのは、私、、ごめんなさいっ、」

治君に頭を下げて謝った。

治「・・紬ちゃん」

紬「!」

重ねられた治君の手はとっても暖かかった。

治「もう、泣いてええよ」

紬「っ、」

治「怖かったな」

紬「っ、ごめん、っごめんなさ」

私は、何度この人の前で泣けばいいんだろう。まだ会って数か月しか経ってないこの人に、何度涙を拭いてもらっただろう。

治「、紬ちゃんが無事でよかった」

紬「っ、、治く」

治「・・なに?」

紬「っ、ありが、、とう」

治「!」

紬「っ助けてくれて、ありがと」

治「紬ちゃんが、俺に助けて言うたんやろ?俺には聞こえとったよ」

紬「っ、」

治「!」

私は治君に抱き着いたまま、泣いてしまった。

治「何度でも助ける、やから、ちゃんと声をあげてな」

治君の声もどこか震えてる気がした。


治side

「体冷えとるよね」

紬ちゃんを椅子に座らせてバスタオルを被せて、俺も先生からバスタオルとココアを受け取った。

「稲荷さん、ご両親に連絡入れて迎えに来てもらおうか?」

紬「、い、え、、大丈夫です」

連絡して来てもろた方がええんやないかな。

「ゆっくり休んでいき。宮君もありがとうね」

治「いえ」

「ちょっと先生、連絡入れてくるけど、ええかな?」

迎えを呼ばんにしても、連絡くらいは入れとかなあかんやろうしな。

「バスタオルまだ必要なら取ってええからね」

保健室に二人になったと同時に、紬ちゃんの緊張が上がったような気がした。俺、さっき怒鳴ってしもたしな。怖がらせてもうたかな。俺はおらん方がええかもしれん。

治「・・先生すぐ帰ってくると思うから、待っとき」

紬「、治く」

治「さっきは怒鳴って悪かっ」

紬「謝らないで!」

治「!」

紬ちゃんの大きな声を来たのは、久しぶりやった。

紬「謝るのは、私、、ごめんなさいっ、」

なんや、俺、紬ちゃんに頭下げられてばっかりやな。でも謝罪しながら、震える手を必死に隠そうとしてる紬ちゃん。そうやったな、この子は弱いところを隠そうとする子やった。

治「・・紬ちゃん」

紬「!」

隠さんでええよ。

治「もう、泣いてええよ」

紬「っ、」

治「怖かったな」

紬「っ、ごめん、っごめんなさ」

俺も、怖かった。紬ちゃんが最後、沈んでいくのを見て、それまで冷静やった頭が急に熱くなって、気付いたら怒鳴っとった。

治「、紬ちゃんが無事でよかった」

紬「っ、、治く」

泣きながら伝えようとしてくれる。

治「・・なに?」

紬「っ、ありが、、とう」

治「!」

紬「っ助けてくれて、ありがと」

最初は内気で人見知りな子、そんな印象やった。でも、人をありのままに見てくれる子で、それなのに自分のありのままを見せない子で、自分の心に素直な言葉をくれる子、すごく強くて優しい子や。

治「紬ちゃんが、俺に助けて言うたんやろ?俺には聞こえとったよ」

紬「っ、」

治「!」

ああ、これが好きってことなんかな。バレーボールや飯に向ける好きとは全くの別もん。紬ちゃんの感情が感染するような感覚。紬ちゃんの感情を知りたい、紬ちゃんに俺の感情を知ってもらい、俺の感情に感染してほしい、そんな感覚や。

治「何度でも助ける、やから、ちゃんと声をあげてな」

俺、紬ちゃんが好きや。
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