春風が連れてくる
あなたの名前は?
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私は図書室に向かう。
鬼道くんが教えてくれた本は、もちろん忘れずに借りて、それから…あぁ、私の好きな作家が新しいシリーズのミステリーを出していたはず。
大好きな本のことをふわふわと考えていると、嬉しくてまた鼻歌を歌ってしまっていた。
図書室には、特有の匂いがある。
人によっては臭いという、あの独特な紙?の匂い。
でも私はこの匂いが好きだ。
本の世界に入ったみたいで、落ち着くのだ。
そして、この空気の中で、私は物語の世界へ身を投じる。
…う、何だか変な人ね、私。
一人で勝手に悶えつつ、私はそばの本を手に取った。
あぁ、知ってる。
見覚えのある文体だ、と思いつつ、私はページをめくる。
文庫本の紙は薄いが、ハリーポッターよりもしっかりとしていて、そう簡単に破れはしないだろうがうっかりすれば手を切りそうだ。
__ふと気付くと、あと数秒でチャイムが鳴る、というところだった。
随分と読みふけっていたらしい、いつものことだが。
もちろん、もう本は借りていたので、それを片手に立ち上がる。
この本も、きっと当たる。
そう思うとわくわくした。
「、せん、ぱい…?」
「あ、」
図書館を出てすぐの廊下の角、ぶつかる寸前で鬼道くんが固まっていた。
もちろん、固まっていたのは私もだけど。
……あぁ、何だかデジャヴを感じるよ、うん。
鬼道くんの口から私の名前がいきなり出たので動揺しつつも、それを必死に隠す。
友達はあぁ言ってくれたけど、…でも、怖いよ。
あの口から言葉が紡ぎ出されない限り、私には確信なんか持てっこない。
私はいつだってそうだ、臆病でいつも怯えているような、そんな。
「…、あの、よければ一緒に」
帰りませんか、と鬼道くんの口が動いた。
私はきょとんとしてしまった。
だって、鬼道くんの顔が少しだけ赤いから。
「へ、あ、 うん。もちろん」
私はにこりと微笑んだ。
緊張しているけど、でもそれ以上に嬉しくて。
二人で他愛も無い話をしながら、帰路につく。
そして、校門はもうすぐそこ、というところで鬼道くんが何故か足を止めた。
? どうしたんだろう?
少し、いやかなり迷ってから遠慮がちに手を差し出された。
…え?
その手は、どういう意味なんだろう。
私が首を傾げていると、鬼道くんは緊張が解けたようにふぅと息を吐いた。
そして、何故か吹っ切れたように微笑みながら言った。
「荷物、重そうなので」
「えっ、 いや、そんなことないよ」
確かに私のバッグには本と参考書と今日の授業分だけ教科書とノートが入っているけれど。
でも、これくらいいつもの量だし、そんなに重く感じていない。
、やっぱり紳士なんだね、鬼道くんって。
そしてやっぱり、私はどきりとした。
それをごまかそうと、私は慌てて言葉を紡ぐ。
聞こえない、聞こえないの、このやたら体中に響く心音なんて。
「き、鬼道くんのほうが重そうだから」
「いえ、これくらい何とも無いです」
きっぱりとそう言って、私は何も言っていないのにスクールバッグは鬼道くんの手の中にあった。
え、あれ、何で? いつのまに?
私は訳が分からないまま、とりあえず持ってくれているのでお礼を言う。
「……あ、ありがとう…?」
「! い、良いですよ、別に」
ふい、と鬼道くんは顔を背ける。
照れたのだろうか、耳が赤い。
その姿が可愛くて、思わず笑ってしまう。
「っふ、」
「せ、先輩…?」
「わ、笑ってなんかないよ」
「笑ったんですね?」
「笑ってないってば。 …、ふ」
「、先輩…」
鬼道くんは何だか情けない顔でこちらを見ている。
私はというと笑いをかみ殺そうと必死になっていた。
だって、普段の鬼道くんはもっと、冷静でかっこいい人だから。
…ん? かっこいい人…?
「…あの」
会話が途切れてしまったところで、鬼道くんが口を開いた。
手持ちぶさたになってしまった私は、指をくるくると弄っている。
誰かさんが紳士すぎるせいだ、ほんとに。
私は言葉を選ぶように、ゆっくりと言葉を紡いだ。
「なぁに?」
「…先輩」
不意に足を止めて、こちらを向いた。
…あれ、そういえば私より5㎝ほど高いんだね、鬼道くん。
と、至近距離の鬼道くんにかなり動揺しながら、固まっていた。
「いえ、理桜さん」
名前を呼ばれた瞬間、びくりと肩が揺れた。
初めて、初めて名前を、呼ん、で、
パニック状態になってしまう私。
鬼道くんは一体、私の心臓を何度破裂させそうにするんだ。
もう、何も考えられない。
思った以上に、彼の視線は強い。
いやもともと分かってはいたが、こんなにも逸らせない視線はこれまで体験したことがないから、もうどうしたら良いのか分からない。
「好きです」
鬼道くんの声以外の音が、遠くに聞こえる。
ざあっと街路樹が風に揺れて、音を遠く、遠くへ運んでいく。
「俺と、」
赤い瞳が、私を捉えて離さない。
きっと最初から、もうずっとこの瞳に囚われていた。
やわらかな春の風が、恋を連れてきた。
(実は鬼道くんが私と帰り道ちゃんと出くわせるように、春奈ちゃんが色々と調整してくれたらしかった)
(もう!周りにバレバレすぎて恥ずかしい…!)
鬼道くんが教えてくれた本は、もちろん忘れずに借りて、それから…あぁ、私の好きな作家が新しいシリーズのミステリーを出していたはず。
大好きな本のことをふわふわと考えていると、嬉しくてまた鼻歌を歌ってしまっていた。
図書室には、特有の匂いがある。
人によっては臭いという、あの独特な紙?の匂い。
でも私はこの匂いが好きだ。
本の世界に入ったみたいで、落ち着くのだ。
そして、この空気の中で、私は物語の世界へ身を投じる。
…う、何だか変な人ね、私。
一人で勝手に悶えつつ、私はそばの本を手に取った。
あぁ、知ってる。
見覚えのある文体だ、と思いつつ、私はページをめくる。
文庫本の紙は薄いが、ハリーポッターよりもしっかりとしていて、そう簡単に破れはしないだろうがうっかりすれば手を切りそうだ。
__ふと気付くと、あと数秒でチャイムが鳴る、というところだった。
随分と読みふけっていたらしい、いつものことだが。
もちろん、もう本は借りていたので、それを片手に立ち上がる。
この本も、きっと当たる。
そう思うとわくわくした。
「、せん、ぱい…?」
「あ、」
図書館を出てすぐの廊下の角、ぶつかる寸前で鬼道くんが固まっていた。
もちろん、固まっていたのは私もだけど。
……あぁ、何だかデジャヴを感じるよ、うん。
鬼道くんの口から私の名前がいきなり出たので動揺しつつも、それを必死に隠す。
友達はあぁ言ってくれたけど、…でも、怖いよ。
あの口から言葉が紡ぎ出されない限り、私には確信なんか持てっこない。
私はいつだってそうだ、臆病でいつも怯えているような、そんな。
「…、あの、よければ一緒に」
帰りませんか、と鬼道くんの口が動いた。
私はきょとんとしてしまった。
だって、鬼道くんの顔が少しだけ赤いから。
「へ、あ、 うん。もちろん」
私はにこりと微笑んだ。
緊張しているけど、でもそれ以上に嬉しくて。
二人で他愛も無い話をしながら、帰路につく。
そして、校門はもうすぐそこ、というところで鬼道くんが何故か足を止めた。
? どうしたんだろう?
少し、いやかなり迷ってから遠慮がちに手を差し出された。
…え?
その手は、どういう意味なんだろう。
私が首を傾げていると、鬼道くんは緊張が解けたようにふぅと息を吐いた。
そして、何故か吹っ切れたように微笑みながら言った。
「荷物、重そうなので」
「えっ、 いや、そんなことないよ」
確かに私のバッグには本と参考書と今日の授業分だけ教科書とノートが入っているけれど。
でも、これくらいいつもの量だし、そんなに重く感じていない。
、やっぱり紳士なんだね、鬼道くんって。
そしてやっぱり、私はどきりとした。
それをごまかそうと、私は慌てて言葉を紡ぐ。
聞こえない、聞こえないの、このやたら体中に響く心音なんて。
「き、鬼道くんのほうが重そうだから」
「いえ、これくらい何とも無いです」
きっぱりとそう言って、私は何も言っていないのにスクールバッグは鬼道くんの手の中にあった。
え、あれ、何で? いつのまに?
私は訳が分からないまま、とりあえず持ってくれているのでお礼を言う。
「……あ、ありがとう…?」
「! い、良いですよ、別に」
ふい、と鬼道くんは顔を背ける。
照れたのだろうか、耳が赤い。
その姿が可愛くて、思わず笑ってしまう。
「っふ、」
「せ、先輩…?」
「わ、笑ってなんかないよ」
「笑ったんですね?」
「笑ってないってば。 …、ふ」
「、先輩…」
鬼道くんは何だか情けない顔でこちらを見ている。
私はというと笑いをかみ殺そうと必死になっていた。
だって、普段の鬼道くんはもっと、冷静でかっこいい人だから。
…ん? かっこいい人…?
「…あの」
会話が途切れてしまったところで、鬼道くんが口を開いた。
手持ちぶさたになってしまった私は、指をくるくると弄っている。
誰かさんが紳士すぎるせいだ、ほんとに。
私は言葉を選ぶように、ゆっくりと言葉を紡いだ。
「なぁに?」
「…先輩」
不意に足を止めて、こちらを向いた。
…あれ、そういえば私より5㎝ほど高いんだね、鬼道くん。
と、至近距離の鬼道くんにかなり動揺しながら、固まっていた。
「いえ、理桜さん」
名前を呼ばれた瞬間、びくりと肩が揺れた。
初めて、初めて名前を、呼ん、で、
パニック状態になってしまう私。
鬼道くんは一体、私の心臓を何度破裂させそうにするんだ。
もう、何も考えられない。
思った以上に、彼の視線は強い。
いやもともと分かってはいたが、こんなにも逸らせない視線はこれまで体験したことがないから、もうどうしたら良いのか分からない。
「好きです」
鬼道くんの声以外の音が、遠くに聞こえる。
ざあっと街路樹が風に揺れて、音を遠く、遠くへ運んでいく。
「俺と、」
赤い瞳が、私を捉えて離さない。
きっと最初から、もうずっとこの瞳に囚われていた。
やわらかな春の風が、恋を連れてきた。
(実は鬼道くんが私と帰り道ちゃんと出くわせるように、春奈ちゃんが色々と調整してくれたらしかった)
(もう!周りにバレバレすぎて恥ずかしい…!)
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