春風が連れてくる
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楽しい時間をすごしていると、あっという間に空がもうオレンジ色に染まってしまった。
改めて思うのは、やっぱり運動できたら楽しいだろうなってこと。
もともと体の弱かったこともあり、小学校の時は体育は全て、がんばりましょうだった。
せめて片付けだけはとマネージャーの皆さんに混じってしてみることにした。
今は、落としても割れることはないであろう、ボールやコーンの片付けをしている。
「むぅ、これくらいなら持てそう」
「…危なっかしいですよ、先輩」
鬼道くんがひょいと上からコーンを半分くらい取ってしまった。
え、いつの間に。
私があっけに取られていると、鬼道くんはすっと先に行ってしまった。
え!?
「え、あ、鬼道くん!? い、いいってば」
「いえ、これくらい」
「え、え、でも…」
鬼道くんは私が何を言ってもどこ吹く風だ。
飄々としていて、どこか不思議で掴めないところがあって、でも紳士。
「…ありがとう」
「いえ」
これ以上言っても聞いてもらえなさそうだったので、私はお言葉に甘え、持ってもらうことにする。
鬼道くんは見透かしたように笑みを見せて、私に歩幅を合わせて歩き出した。
何だか、体験したことあるような…。
あぁそうだ、春奈ちゃんもたまに見透かしたように笑う。
「あの、春奈は… 家ではどんな感じですか」
「え?」
さっきの子と同じ質問だ。
心なしか、頬が赤い気がする。
二人きりの家族だからだろう、きっと心配してるのだ。
「ふふ、そうだなぁ、 いつも笑ってるかな。でも表情がころころ変わるから一緒に居て楽しいよ」
「そうですか、」
鬼道くんと話していて、気付いたことがある。
思った以上に鬼道くんは顔に出やすい。
だって、春奈ちゃんのこと話す度に口角が上がる。
そして雰囲気が、もうふわふわと嬉しそうだ。
鬼道くんの普段纏っている空気とは、ちょっと想像しにくい。
もしかしたら、私だけが気付ける秘密、だったりして。
…まさかね、サッカー部のみんなはきっと知ってる。
「、大切なんだね。春奈ちゃんのこと」
「えっ、 …まぁ、はい」
はじかれたようにびくっとしたあと、私の方を見て目を見開き、すぐに顔を背けてそう言った。
鬼道くんが百面相してる。
普段の彼はきっと冷静沈着なのだろうから、これもレアなのだと思う。
…これが素なのだろうか、だとしたら嬉しい。
あれ、今なんて?
嬉しい?
「先輩、鋭いんですね」
「うー、ん? そうかな?」
眉毛を下げて困ったようにそう言う彼。
私はそんなこと言われたこともないからちょっと驚いた。
鋭い、のかな…?
でも確かに人の気持ちや性格を読み取ることは得意な方だ。
「…あの、先輩」
「え? どうしたの?」
コーンを倉庫に運び終え、下ろしてほっと息をついた時、急に声をかけられた。
鬼道くんの動きが止まっている。
見上げると、ゴーグルを外して私をじっと見つめていた。
紅い、瞳。
「…え、」
「あんまり無防備すぎるのも、考え物だと思いますよ」
鬼道くんがあまりにも真剣に見つめてくるものだから、私は緊張して声が出なくなった。
だから男の人って苦手だ、胸が苦しくなる。
そして、彼に見つめられると、…どきどきが止まらなくなる。
でも、無防備って、どういうことだろう。
確かに身構えることはないけど、でも別に敵がいるわけでもないし。
私には意味が分かりかねる。
ざ、と音と砂埃を立てて、鬼道くんが私に近づく。
「そうやって、俺を見つめるのが、無防備だって言ってるんですよ」
「へ、?」
私は混乱してしまって何が何だか分からない。
分かるのは、彼が酷く追い詰められているような表情をしていることと、私と彼との距離が至極近いと言うこと。
もう、だめ。
心臓が爆発しちゃいそう。
「鬼道、くん…」
「っ、貴女は…! そんな、声で… 俺を呼ばないでください…」
彼は切羽詰まったような声で、そう言葉を吐き出した。
一つ一つの言葉が、私の耳をすり抜けていく。
聞いているはずなのに、何一つ、理解ができないままだ。
鬼道くんは、何て…?
何て、言ってるの?
そして彼と私の間の距離が、なくなった。
一瞬何が起こったのか分からなくなる。
けれど、彼の匂いと春奈ちゃん以上の温もりに我に返った。
彼の腕は予想以上に強く、しかしその中に優しさが感じられて、声が出なくなる。
彼はゆっくりと離れたあと、私の顔を見てはっとしたように肩を揺らした。
そしていきなり、ぱっと離れると一言だけ、小さく零した。
「、すみませんでした、」
「えっ、」
彼は酷く動揺した様子で倉庫を出て行った。
かくん、といきなりひざの力が抜け、崩れ落ちてしまう。
何が起こったのかも完全に把握しきれていない。
彼を追いかけることもできず、ただ呆然と彼の背中だけを見つめていた。
鬼道くん、が…、私を… 抱きしめた…?
事実をゆっくりと指でなぞるように確認する。
途端に、息と鼓動が速まっていく。
心臓と呼吸が今まで止まっていたかのような気がした。
鬼道くんの、貴女は、と言う声が頭の中で反響する。
切なくて、苦しくて、でも伝えきれない想いのこもった、…。
「は、ぁ…っ、」
大きく息を吐き出して、落ち着ける。
でも、火照った頬は元には戻らない。
それを隠すように手で覆ったまま、どうしてこんなにも動揺してしまうのか考えていた。
__逃げて、しまった。
俺は一体何をしていたのだろう。
想いに自分が気付く前に、行動に移してしまっていた。
「俺は…」
そう、俺は。
たぶん、いやきっと、彼女に心奪われてしまっている。
さっきの表情に、熱を帯びたような瞳に。
…きっと、彼女はそれに気付いていないのだろう。
「すき、 なのか…?」
呟きが、漏れた。
それ以外ありえないというのに、戸惑いしか無い。
恋には時間など関係が無いのだと、初めて知った。
改めて思うのは、やっぱり運動できたら楽しいだろうなってこと。
もともと体の弱かったこともあり、小学校の時は体育は全て、がんばりましょうだった。
せめて片付けだけはとマネージャーの皆さんに混じってしてみることにした。
今は、落としても割れることはないであろう、ボールやコーンの片付けをしている。
「むぅ、これくらいなら持てそう」
「…危なっかしいですよ、先輩」
鬼道くんがひょいと上からコーンを半分くらい取ってしまった。
え、いつの間に。
私があっけに取られていると、鬼道くんはすっと先に行ってしまった。
え!?
「え、あ、鬼道くん!? い、いいってば」
「いえ、これくらい」
「え、え、でも…」
鬼道くんは私が何を言ってもどこ吹く風だ。
飄々としていて、どこか不思議で掴めないところがあって、でも紳士。
「…ありがとう」
「いえ」
これ以上言っても聞いてもらえなさそうだったので、私はお言葉に甘え、持ってもらうことにする。
鬼道くんは見透かしたように笑みを見せて、私に歩幅を合わせて歩き出した。
何だか、体験したことあるような…。
あぁそうだ、春奈ちゃんもたまに見透かしたように笑う。
「あの、春奈は… 家ではどんな感じですか」
「え?」
さっきの子と同じ質問だ。
心なしか、頬が赤い気がする。
二人きりの家族だからだろう、きっと心配してるのだ。
「ふふ、そうだなぁ、 いつも笑ってるかな。でも表情がころころ変わるから一緒に居て楽しいよ」
「そうですか、」
鬼道くんと話していて、気付いたことがある。
思った以上に鬼道くんは顔に出やすい。
だって、春奈ちゃんのこと話す度に口角が上がる。
そして雰囲気が、もうふわふわと嬉しそうだ。
鬼道くんの普段纏っている空気とは、ちょっと想像しにくい。
もしかしたら、私だけが気付ける秘密、だったりして。
…まさかね、サッカー部のみんなはきっと知ってる。
「、大切なんだね。春奈ちゃんのこと」
「えっ、 …まぁ、はい」
はじかれたようにびくっとしたあと、私の方を見て目を見開き、すぐに顔を背けてそう言った。
鬼道くんが百面相してる。
普段の彼はきっと冷静沈着なのだろうから、これもレアなのだと思う。
…これが素なのだろうか、だとしたら嬉しい。
あれ、今なんて?
嬉しい?
「先輩、鋭いんですね」
「うー、ん? そうかな?」
眉毛を下げて困ったようにそう言う彼。
私はそんなこと言われたこともないからちょっと驚いた。
鋭い、のかな…?
でも確かに人の気持ちや性格を読み取ることは得意な方だ。
「…あの、先輩」
「え? どうしたの?」
コーンを倉庫に運び終え、下ろしてほっと息をついた時、急に声をかけられた。
鬼道くんの動きが止まっている。
見上げると、ゴーグルを外して私をじっと見つめていた。
紅い、瞳。
「…え、」
「あんまり無防備すぎるのも、考え物だと思いますよ」
鬼道くんがあまりにも真剣に見つめてくるものだから、私は緊張して声が出なくなった。
だから男の人って苦手だ、胸が苦しくなる。
そして、彼に見つめられると、…どきどきが止まらなくなる。
でも、無防備って、どういうことだろう。
確かに身構えることはないけど、でも別に敵がいるわけでもないし。
私には意味が分かりかねる。
ざ、と音と砂埃を立てて、鬼道くんが私に近づく。
「そうやって、俺を見つめるのが、無防備だって言ってるんですよ」
「へ、?」
私は混乱してしまって何が何だか分からない。
分かるのは、彼が酷く追い詰められているような表情をしていることと、私と彼との距離が至極近いと言うこと。
もう、だめ。
心臓が爆発しちゃいそう。
「鬼道、くん…」
「っ、貴女は…! そんな、声で… 俺を呼ばないでください…」
彼は切羽詰まったような声で、そう言葉を吐き出した。
一つ一つの言葉が、私の耳をすり抜けていく。
聞いているはずなのに、何一つ、理解ができないままだ。
鬼道くんは、何て…?
何て、言ってるの?
そして彼と私の間の距離が、なくなった。
一瞬何が起こったのか分からなくなる。
けれど、彼の匂いと春奈ちゃん以上の温もりに我に返った。
彼の腕は予想以上に強く、しかしその中に優しさが感じられて、声が出なくなる。
彼はゆっくりと離れたあと、私の顔を見てはっとしたように肩を揺らした。
そしていきなり、ぱっと離れると一言だけ、小さく零した。
「、すみませんでした、」
「えっ、」
彼は酷く動揺した様子で倉庫を出て行った。
かくん、といきなりひざの力が抜け、崩れ落ちてしまう。
何が起こったのかも完全に把握しきれていない。
彼を追いかけることもできず、ただ呆然と彼の背中だけを見つめていた。
鬼道くん、が…、私を… 抱きしめた…?
事実をゆっくりと指でなぞるように確認する。
途端に、息と鼓動が速まっていく。
心臓と呼吸が今まで止まっていたかのような気がした。
鬼道くんの、貴女は、と言う声が頭の中で反響する。
切なくて、苦しくて、でも伝えきれない想いのこもった、…。
「は、ぁ…っ、」
大きく息を吐き出して、落ち着ける。
でも、火照った頬は元には戻らない。
それを隠すように手で覆ったまま、どうしてこんなにも動揺してしまうのか考えていた。
__逃げて、しまった。
俺は一体何をしていたのだろう。
想いに自分が気付く前に、行動に移してしまっていた。
「俺は…」
そう、俺は。
たぶん、いやきっと、彼女に心奪われてしまっている。
さっきの表情に、熱を帯びたような瞳に。
…きっと、彼女はそれに気付いていないのだろう。
「すき、 なのか…?」
呟きが、漏れた。
それ以外ありえないというのに、戸惑いしか無い。
恋には時間など関係が無いのだと、初めて知った。