春風が連れてくる
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目覚ましがけたたましく鳴っている。
きっと時間はセットした時間のちょっとすぎ。
私、気付くの遅いから。
…ごめん、君の役目は分かっているの。
でもね、うるさい。
「とりゃああ!」
無理矢理体を起こし、変に叫びながら目覚まし時計のあるであろう場所を叩く。
べしっと音がして、鳴り止む時計。
「…ふぅ」
私は何事も無かったかのように布団にもぐり、寝る体制に入る。
はぁ、布団しあわせ…。
ぬくぬくと幸せに浸る私。
冬限定の楽しみです。
「ちょ、お姉ちゃん! 寝ちゃダメ!」
え?
気のせいかな、春奈ちゃんの声がする。
でも私とは部屋が違うし、ここに居るわけない。
しかもきっともう部活に行ってるはず。
これは夢だ、よし気にしないでおこう。
「お姉ちゃんてば! 起きて!」
…どうやら夢ではないようです。
私は無理矢理布団をはがされ、起きることになった。
うぅ、春奈ちゃん力強い…。
「ね、お姉ちゃん。今日、一緒にサッカー部の朝練行かない?」
「!?」
…今、何と?
「だから、一緒にサッカー部の朝練行こ? だめ?」
もう既に制服に着替えた春奈ちゃんが私の手を握りながらお願いしてくる。
可愛いのだけれど、でも言っていることがよく分からない。
そして寒い。
けれど、そのおかげで意識がはっきりしてきた。
ちょっと待って、何で私が!?
「え、いや、」
「あ、朝練がだめなら放課後でもいいから!」
え。
いや、どっちにしても意味が分からないよ、春奈ちゃん。
「何で、私が、サッカー部に?」
「お姉ちゃんと話したい人がいっぱいいるの。連れてきてほしいって頼まれちゃって」
私もお姉ちゃんともっと一緒に居たいし、と可愛いことをぼそりという春奈ちゃん。
うぅ、そんなこと言われたら断れないじゃないですか。
運動なんてからっきしだし、サッカーのルールなんて分からないのに…。
けれど私は、春奈ちゃんの勢いに呑まれて思わずOKを出してしまっていた。
「じ、じゃあ放課後! 私朝無理だもん、ね?」
「やった! ありがとう、お姉ちゃん! じゃあ行ってきます!」
ぱぁ、と分かりやすく顔を明るくさせて、勢いよく出ていく春奈ちゃん。
…うん、起こしてくれてありがとう。
勢いで了承したはいいけど、本当に私なんかが勝手に行って良いんだろうか。
ファンがいるとも聞いたことがあるし、少し申し訳ない気がする。
「…あ、時間」
時計を見るとそろそろ危険な時間だった。
私は急いで支度をすると、学校へ急ぎ足で向かった。
__放課後になったけれど、私は何となく気が進まないでいた。
サッカー部ということなら、きっと男の人ばかりだろうし、マネージャーもそんなに多くはなさそうだし…。
私は鈍臭いので運動部の人から少々疎まれてもいた。
…いいや、図書室行こう。
私は本を借りに、図書室へと向かった。
鬼道くんの薦めてくれた本を借りて、教室へと戻る。
すぐに見つけてしまったため、さほど時間もかからなかった。
…気は進まないけれど、やはりサッカー部に顔を出すしかなさそうだ。
本と鞄を手にグラウンドに出て、サッカー部がいつも練習している場所へと向かった。
あの白と黒のボールがくるくると回ったり、あちらこちらへと法則も無く飛ぶ。
目まぐるしいなぁ、と思いつつ眺めていると、春奈ちゃんが気付いてこちらへ駆けてきた。
「あ、お姉ちゃん!」
「春奈ちゃ、 ぅわ、」
ぎゅ、と思い切り抱きついてきた。
制服ではなく、ジャージ姿だ。
いつもとは違うので、新鮮な感じがする。
制服とは違い体温が伝わりやすいらしく、温かい。
「遅かったね?」
「ごめんね、本借りてたの…」
ちょっと言い訳がましいけれど、本当のことだから許して貰おう。
やっと春奈ちゃんが離れてくれたので、私は鞄に本をしまった。
「じゃ、向こうのベンチで話そ?」
「うん、そうだね」
私は春奈ちゃんに言われるがままについて行く。
それにしても、みんなは楽しそうに、そして真剣に練習している。
その姿は誰であれかっこいいし、暑苦しささえ羨ましい。
「あ、もしかして春奈ちゃんのお姉さん? 初めまして、木野秋です」
「は、初めまして。 音無理桜です」
にっこりと笑った彼女もどうやら2年生のようだ。
けど、どう考えたって私なんかよりもずっと大人びている。
うぅ、何てことだ…。
「みんな、熱が入ってるみたいだね」
「はい。いつもこうなんです、円堂くんが居ると」
「へぇ、円堂くん?」
「えっと、あのオレンジ色のバンダナの人だよ」
春奈ちゃんが指さして居る方向には、確かにオレンジ色のバンダナをつけた人が。
さぁ来い!と声を張り上げている、ゴールキーパーらしき彼が円堂くんらしい。
みんなに慕われているのが、こちらから見ていてもよく分かる。
あ、鬼道くんだ。
その円堂くんの前にいて、シュートを放とうとしているのは、まさしく彼だった。
昨日の放課後とは違ってゴーグルをつけていた。
そのシュートは見事、ゴールに吸い込まれてゆく。
「わ、」
「あ、入った!」
マネージャーの二人も目をきらきらと輝かせている。
…サッカー、好きなんだね。
こういった運動部系のノリも分からないし、ちょっと肩身が狭い。
でも、ああいったシュートを決める姿は、かっこいいと思った。
「あら、新入部員かしら?」
「あ、夏未さん!」
夏未さん、と呼ばれた彼女は、リボンの色が他の誰とも違った。
ワインレッドだ。…ということは、もしや。
「初めまして、春奈がお世話になっています。姉の理桜と言います」
「まぁ、そうだったの! こちらこそ。 私は雷門夏未です、よろしく」
彼女はそう言って上品に微笑んだ。
はわぁ、雷門って言ってたし、やっぱりお嬢様…!
けれど話を聞くと、どうやら彼女もマネージャーらしく。
すごいなぁ、サッカー部。
理事長の娘が部員ならもう100人力だね。
…とか思ってみたりしました。
と、ここでみんなが一斉に休憩に入った。
円堂くんと鬼道くん、あと…あ、そうそう豪炎寺くん。
その3人は何やら話し込んでいる様子だったけれど。
私が何故豪炎寺くんを知っていたかというと、幼い頃彼のお父さんによく診てもらっていたからだ。
小さい彼も、構ってもらいたかったのか、よく病室に来ていたものだ。
あの頃の私は、豪炎寺先生を見る度に号泣していたそうだ。
顔が…その…、怖いので。
失礼なことしたなぁ、私。
「終わったー!」
「音無、さんきゅ」
「うー、ボトルちょうだい!」
みんながわらわらとやってくる。
マネージャーであるふたr…じゃなくて3人は途端に忙しくなる。
…私、邪魔になりそう。
そっとベンチを立つと、ちょっと離れたところに居ることにした。
下手に手伝うとベタに転けたりしてしまうことが分かってるんで…。
みんながほとんどボトルやタオルを受け取り終えたところを見計らい、私はベンチへと戻る。
「あ、お姉ちゃん。 ごめんね、邪魔になると思ってどっか行ったんでしょ」
「え、うん…?」
「気なんて遣わなくてもいいのに」
「いや、うん… ごめん」
春奈ちゃんがぷくっと頬を膨らませながらそう言う。
私は苦笑いをすることしかできない。
きっと邪魔しかしなかったと思うよ、春奈ちゃん。
と、3人がどうやら話を終えたらしく、こちらへ来た。
「あ、先輩」
「豪炎寺くん。 お久しぶりです」
「はい」
豪炎寺くんは少し照れたように笑い、それから秋さんからボトルとタオルを受け取った。
あー、やっぱり変わってない。
眉毛が稲妻みたいな形をしてるところも、すっとした横顔も。
私の苦手な男の人の部類のはずなのに、豪炎寺くんは小さい頃からの知り合いだからかそんなに苦手意識はない。
きっとモテるんだろうな、なんて思う。
「まさかとは思っていましたが…。 先輩、変わってませんね」
「豪炎寺くんこそ。 でも、かっこよくなったね」
「え、そんな」
「ふふ、あんなに小さかったのに」
「やめてくださいよ、」
何故かふい、と目を逸らされる。
あれ、怒らせたかな。
と、顔をのぞき込むと、頬が少し赤くなっていた。
どうやら照れていたらしい。分かりにくいなぁ。
「先輩、音無さんって家ではどんな感じなんですか?」
「え、ちょっと少林くん!」
小さい子が私を見上げながらそう聞いてくる。
ぅ、わぁ…! 小さ可愛い…!
心の奥底でもだえながら、教えてあげる。
「春奈ちゃんはね、そうだな…。 あ、この前洗濯機のホースに躓いてたね」
「お姉ちゃんー!」
「えへへ、言っちゃった」
「あはは、音無ださいね」
「うるさーい!」
同じ1年生だからだろう、じゃれている。
とても可愛いし、平和だなってほっこりする。
春奈ちゃんの思いがけない一面、のようなものが垣間見られたような気がして、ちょっと嬉しい。
「あ、そうだ。鬼道くん、ありがとう」
「え、」
私はふと思い出して声をかけた。
何も思い当たる節がないからだろうか、きょとんとしている。
「薦めてくれた本、本当に面白そう。 借りたよ、ありがとう」
「え、 あ、いや。 礼を言われるほどのものでは、」
なんだかあたふたしている鬼道くんって面白い。
きっとこれもレアなんだろうな、とか思いつつ。
「お兄ちゃん、変なの」
「うっ、春奈!?」
変なの、という言葉は予想以上に鬼道くんの心に刺さったらしく、ちょっと落ち込んでしまった。
私も部活に入っていたらこんなに楽しかったのかな、と羨ましく思った。
きっと時間はセットした時間のちょっとすぎ。
私、気付くの遅いから。
…ごめん、君の役目は分かっているの。
でもね、うるさい。
「とりゃああ!」
無理矢理体を起こし、変に叫びながら目覚まし時計のあるであろう場所を叩く。
べしっと音がして、鳴り止む時計。
「…ふぅ」
私は何事も無かったかのように布団にもぐり、寝る体制に入る。
はぁ、布団しあわせ…。
ぬくぬくと幸せに浸る私。
冬限定の楽しみです。
「ちょ、お姉ちゃん! 寝ちゃダメ!」
え?
気のせいかな、春奈ちゃんの声がする。
でも私とは部屋が違うし、ここに居るわけない。
しかもきっともう部活に行ってるはず。
これは夢だ、よし気にしないでおこう。
「お姉ちゃんてば! 起きて!」
…どうやら夢ではないようです。
私は無理矢理布団をはがされ、起きることになった。
うぅ、春奈ちゃん力強い…。
「ね、お姉ちゃん。今日、一緒にサッカー部の朝練行かない?」
「!?」
…今、何と?
「だから、一緒にサッカー部の朝練行こ? だめ?」
もう既に制服に着替えた春奈ちゃんが私の手を握りながらお願いしてくる。
可愛いのだけれど、でも言っていることがよく分からない。
そして寒い。
けれど、そのおかげで意識がはっきりしてきた。
ちょっと待って、何で私が!?
「え、いや、」
「あ、朝練がだめなら放課後でもいいから!」
え。
いや、どっちにしても意味が分からないよ、春奈ちゃん。
「何で、私が、サッカー部に?」
「お姉ちゃんと話したい人がいっぱいいるの。連れてきてほしいって頼まれちゃって」
私もお姉ちゃんともっと一緒に居たいし、と可愛いことをぼそりという春奈ちゃん。
うぅ、そんなこと言われたら断れないじゃないですか。
運動なんてからっきしだし、サッカーのルールなんて分からないのに…。
けれど私は、春奈ちゃんの勢いに呑まれて思わずOKを出してしまっていた。
「じ、じゃあ放課後! 私朝無理だもん、ね?」
「やった! ありがとう、お姉ちゃん! じゃあ行ってきます!」
ぱぁ、と分かりやすく顔を明るくさせて、勢いよく出ていく春奈ちゃん。
…うん、起こしてくれてありがとう。
勢いで了承したはいいけど、本当に私なんかが勝手に行って良いんだろうか。
ファンがいるとも聞いたことがあるし、少し申し訳ない気がする。
「…あ、時間」
時計を見るとそろそろ危険な時間だった。
私は急いで支度をすると、学校へ急ぎ足で向かった。
__放課後になったけれど、私は何となく気が進まないでいた。
サッカー部ということなら、きっと男の人ばかりだろうし、マネージャーもそんなに多くはなさそうだし…。
私は鈍臭いので運動部の人から少々疎まれてもいた。
…いいや、図書室行こう。
私は本を借りに、図書室へと向かった。
鬼道くんの薦めてくれた本を借りて、教室へと戻る。
すぐに見つけてしまったため、さほど時間もかからなかった。
…気は進まないけれど、やはりサッカー部に顔を出すしかなさそうだ。
本と鞄を手にグラウンドに出て、サッカー部がいつも練習している場所へと向かった。
あの白と黒のボールがくるくると回ったり、あちらこちらへと法則も無く飛ぶ。
目まぐるしいなぁ、と思いつつ眺めていると、春奈ちゃんが気付いてこちらへ駆けてきた。
「あ、お姉ちゃん!」
「春奈ちゃ、 ぅわ、」
ぎゅ、と思い切り抱きついてきた。
制服ではなく、ジャージ姿だ。
いつもとは違うので、新鮮な感じがする。
制服とは違い体温が伝わりやすいらしく、温かい。
「遅かったね?」
「ごめんね、本借りてたの…」
ちょっと言い訳がましいけれど、本当のことだから許して貰おう。
やっと春奈ちゃんが離れてくれたので、私は鞄に本をしまった。
「じゃ、向こうのベンチで話そ?」
「うん、そうだね」
私は春奈ちゃんに言われるがままについて行く。
それにしても、みんなは楽しそうに、そして真剣に練習している。
その姿は誰であれかっこいいし、暑苦しささえ羨ましい。
「あ、もしかして春奈ちゃんのお姉さん? 初めまして、木野秋です」
「は、初めまして。 音無理桜です」
にっこりと笑った彼女もどうやら2年生のようだ。
けど、どう考えたって私なんかよりもずっと大人びている。
うぅ、何てことだ…。
「みんな、熱が入ってるみたいだね」
「はい。いつもこうなんです、円堂くんが居ると」
「へぇ、円堂くん?」
「えっと、あのオレンジ色のバンダナの人だよ」
春奈ちゃんが指さして居る方向には、確かにオレンジ色のバンダナをつけた人が。
さぁ来い!と声を張り上げている、ゴールキーパーらしき彼が円堂くんらしい。
みんなに慕われているのが、こちらから見ていてもよく分かる。
あ、鬼道くんだ。
その円堂くんの前にいて、シュートを放とうとしているのは、まさしく彼だった。
昨日の放課後とは違ってゴーグルをつけていた。
そのシュートは見事、ゴールに吸い込まれてゆく。
「わ、」
「あ、入った!」
マネージャーの二人も目をきらきらと輝かせている。
…サッカー、好きなんだね。
こういった運動部系のノリも分からないし、ちょっと肩身が狭い。
でも、ああいったシュートを決める姿は、かっこいいと思った。
「あら、新入部員かしら?」
「あ、夏未さん!」
夏未さん、と呼ばれた彼女は、リボンの色が他の誰とも違った。
ワインレッドだ。…ということは、もしや。
「初めまして、春奈がお世話になっています。姉の理桜と言います」
「まぁ、そうだったの! こちらこそ。 私は雷門夏未です、よろしく」
彼女はそう言って上品に微笑んだ。
はわぁ、雷門って言ってたし、やっぱりお嬢様…!
けれど話を聞くと、どうやら彼女もマネージャーらしく。
すごいなぁ、サッカー部。
理事長の娘が部員ならもう100人力だね。
…とか思ってみたりしました。
と、ここでみんなが一斉に休憩に入った。
円堂くんと鬼道くん、あと…あ、そうそう豪炎寺くん。
その3人は何やら話し込んでいる様子だったけれど。
私が何故豪炎寺くんを知っていたかというと、幼い頃彼のお父さんによく診てもらっていたからだ。
小さい彼も、構ってもらいたかったのか、よく病室に来ていたものだ。
あの頃の私は、豪炎寺先生を見る度に号泣していたそうだ。
顔が…その…、怖いので。
失礼なことしたなぁ、私。
「終わったー!」
「音無、さんきゅ」
「うー、ボトルちょうだい!」
みんながわらわらとやってくる。
マネージャーであるふたr…じゃなくて3人は途端に忙しくなる。
…私、邪魔になりそう。
そっとベンチを立つと、ちょっと離れたところに居ることにした。
下手に手伝うとベタに転けたりしてしまうことが分かってるんで…。
みんながほとんどボトルやタオルを受け取り終えたところを見計らい、私はベンチへと戻る。
「あ、お姉ちゃん。 ごめんね、邪魔になると思ってどっか行ったんでしょ」
「え、うん…?」
「気なんて遣わなくてもいいのに」
「いや、うん… ごめん」
春奈ちゃんがぷくっと頬を膨らませながらそう言う。
私は苦笑いをすることしかできない。
きっと邪魔しかしなかったと思うよ、春奈ちゃん。
と、3人がどうやら話を終えたらしく、こちらへ来た。
「あ、先輩」
「豪炎寺くん。 お久しぶりです」
「はい」
豪炎寺くんは少し照れたように笑い、それから秋さんからボトルとタオルを受け取った。
あー、やっぱり変わってない。
眉毛が稲妻みたいな形をしてるところも、すっとした横顔も。
私の苦手な男の人の部類のはずなのに、豪炎寺くんは小さい頃からの知り合いだからかそんなに苦手意識はない。
きっとモテるんだろうな、なんて思う。
「まさかとは思っていましたが…。 先輩、変わってませんね」
「豪炎寺くんこそ。 でも、かっこよくなったね」
「え、そんな」
「ふふ、あんなに小さかったのに」
「やめてくださいよ、」
何故かふい、と目を逸らされる。
あれ、怒らせたかな。
と、顔をのぞき込むと、頬が少し赤くなっていた。
どうやら照れていたらしい。分かりにくいなぁ。
「先輩、音無さんって家ではどんな感じなんですか?」
「え、ちょっと少林くん!」
小さい子が私を見上げながらそう聞いてくる。
ぅ、わぁ…! 小さ可愛い…!
心の奥底でもだえながら、教えてあげる。
「春奈ちゃんはね、そうだな…。 あ、この前洗濯機のホースに躓いてたね」
「お姉ちゃんー!」
「えへへ、言っちゃった」
「あはは、音無ださいね」
「うるさーい!」
同じ1年生だからだろう、じゃれている。
とても可愛いし、平和だなってほっこりする。
春奈ちゃんの思いがけない一面、のようなものが垣間見られたような気がして、ちょっと嬉しい。
「あ、そうだ。鬼道くん、ありがとう」
「え、」
私はふと思い出して声をかけた。
何も思い当たる節がないからだろうか、きょとんとしている。
「薦めてくれた本、本当に面白そう。 借りたよ、ありがとう」
「え、 あ、いや。 礼を言われるほどのものでは、」
なんだかあたふたしている鬼道くんって面白い。
きっとこれもレアなんだろうな、とか思いつつ。
「お兄ちゃん、変なの」
「うっ、春奈!?」
変なの、という言葉は予想以上に鬼道くんの心に刺さったらしく、ちょっと落ち込んでしまった。
私も部活に入っていたらこんなに楽しかったのかな、と羨ましく思った。