春風が連れてくる
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私はいつものように、図書室へと向かった。
昼休みは借りに行けなかったけれど、放課後は好きなだけ読めるのであまり関係ない。
勉強の方を優先した方が良いのだろうが、それでもやはり私は本と触れ合っていたかった。
「んー、どれにしよう」
小さな呟きが漏れる。
今日はどんな小説に出会えるのか、といつもわくわくする。
ふわふわとした異世界を堪能したり、時には名だたる冒険家と同じ目線で、あるいは夕食後に謎解きをする探偵になったり。
小さい頃から、物語が大好きだった。
おばあちゃんから民話をたくさん聞いたり、同じ絵本を何度も読んで、読んでとせがんだり。
外で遊ぶことが叶わないくらい病弱だった私は、一人遊びや読書しかすることがなかったからかもしれないけれど。
__本と戯れながら、もう一日を過ごしてしまった。
図書委員が何だか帰りたそうにしている。
…けどごめん、もう少しで読み終わるから、もうちょっとだけ待ってください…。
私は10分ほどで急いで読み終えると、その図書委員に軽く会釈をして、急いで出た。
足早に前を見ずに歩いていたせいで、とん、と肩がぶつかってしまった。
「ご、ごめんなさ、」
「すいません、」
え、あれ。
「あ、」
二人の声が重なった。
ゴーグルをつけていないから一瞬分からなかったけど、鬼道くんだ。
「あ、あぁ、そうだ。すまないがこれを返却したいのだが」
「えぇ、はい。…いいですよ」
図書委員は何だかめんどくさそうにしていたが、本を受け取りバーコードにかざす。
あ、それ私も読んだことある本だ。
それを見届けた鬼道くんはほっとしたように息を吐いた。
図書委員もため息をつきながら、やっと仕事が終わったとでも言うように足早に去って行った。
私はそれが何だかおかしくて、半ば笑いながら鬼道くんに話しかけた。
「時間、あったら少し話しませんか?」
「あ、はい。 ぜひ」
鬼道くんは少し瞳を輝かせて返事をしてくれた。
何で私がこう声をかけたのかよく分からないけど、多分予感がしていたからだと思う。
私たちは途中まで一緒に帰ることにした。
さすがに校舎に残っている生徒はもう居ないようだ。
「あ、さっきはすみませんでした、」
鬼道くんが頭を下げる。
いきなりのことだったので、驚いて少し反応が遅れてしまった。
「え、いや、私の方こそごめんね。周り見てなくて」
「いえ、俺の不注意ですから」
「そ、そんなことないよ?」
鬼道くんは、紳士だ。
何ていうか、すごく優しい。
春奈ちゃんのお兄さんってどんな人かと思っていたけど、こんなにしっかりしてるなんて。
中2なのに、私よりもしっかりしている気がする。
クラスの男子よりよっぽど大人だ。
…最初はゴーグルだったから、どんな人かと思ったけど。
「…あの、その本、」
「え?」
右手に持っていた本に目を向けられた。
何だか妙な素振りを見せているけれど、どうしたのだろう。
「これ、がどうかした?」
「…それ、すごく気になってて」
最近映画化されたと話題の本だ。
本来なら放課後まで残っているはずはないのだが、返された直後だったらしく、運良く私の手元に収まっている。
本屋大賞にも確か、なっていたと思う。
「面白い、ですか?」
「うん、冒頭読んで気に入っちゃって」
「、そうなんですね。その人の本、他に読んだことありますか?」
「うぅん、これが初めて」
「一つ前のタイトルも、すごく面白かったですよ」
「あっ、もしかしてこれ?」
私は著者の棚を見つけ、比較的新しそうな本を指さした。
鬼道くんが私の手元をのぞき込んで、
「はい。これです」
と言った。
自然に近くなっているのに気付いて、軽く固まった。
男の人とこんなに近いの、初めてかもしれない。
「、先輩?」
「え、 あ、ごめんなさい」
言葉をかけられて、やっと我に返る。
う、わぁ…、心臓が止まりそうになった。
「あ、えと、さっき鬼道くんが返してた本って」
「あぁ、それが、どうかしたんですか?」
「それ、私読んだことあって、好きなの」
ふわりふわりと時間が過ぎていく。
ずっと話していたいような、そんな感覚。
そして彼が笑ったりする度に、きゅっと胸が苦しくなる。
私、一体どうしたんだろう。
いつの間にか暗くなるまで話し込んでいて、私たちはそれに気付いて笑い、別れた。
不思議だ、時間を忘れて話すなんてこと、今までなかったのに。
私は妙にうきうきした気分を押さえきれずに、鼻歌を歌いながら家に帰った。
「おかえり」
「あ、お姉ちゃん!」
両親が迎えてくれた。
春奈ちゃんもひょこりと顔を出した。
「今日遅かったね、どうしたの?」
「うん、ちょっとね」
「…何かあったの?」
「え?」
春奈ちゃんが不思議そうに首を傾げていた。
…私、何か変な顔してたんだろうか。
「や、何か楽しいことでもあったのかなって」
「へ?」
「ずっとにこにこしてるから」
「そ、そうかな…」
私は何だか見透かされそうで怖かったのでそそくさと自分の部屋に行った。
春奈ちゃんはたまにじっと私の瞳を見つめるときがある。
吸い込まれそうな気がして、私が目を逸らしてしまうのだけれど。
鬼道くんの目も、そうだった。
まっすぐにこちらを見つめてくる。
宝石のように綺麗で赤い、双眸。
私の中できらきらと光っているような気がした。
何でだろう、彼の瞳が忘れられなくて。
…今日の私は何だかおかしい。
予想以上に、春奈ちゃんと鬼道くんがそっくりだったからだ。
きっと、そうだ。
昼休みは借りに行けなかったけれど、放課後は好きなだけ読めるのであまり関係ない。
勉強の方を優先した方が良いのだろうが、それでもやはり私は本と触れ合っていたかった。
「んー、どれにしよう」
小さな呟きが漏れる。
今日はどんな小説に出会えるのか、といつもわくわくする。
ふわふわとした異世界を堪能したり、時には名だたる冒険家と同じ目線で、あるいは夕食後に謎解きをする探偵になったり。
小さい頃から、物語が大好きだった。
おばあちゃんから民話をたくさん聞いたり、同じ絵本を何度も読んで、読んでとせがんだり。
外で遊ぶことが叶わないくらい病弱だった私は、一人遊びや読書しかすることがなかったからかもしれないけれど。
__本と戯れながら、もう一日を過ごしてしまった。
図書委員が何だか帰りたそうにしている。
…けどごめん、もう少しで読み終わるから、もうちょっとだけ待ってください…。
私は10分ほどで急いで読み終えると、その図書委員に軽く会釈をして、急いで出た。
足早に前を見ずに歩いていたせいで、とん、と肩がぶつかってしまった。
「ご、ごめんなさ、」
「すいません、」
え、あれ。
「あ、」
二人の声が重なった。
ゴーグルをつけていないから一瞬分からなかったけど、鬼道くんだ。
「あ、あぁ、そうだ。すまないがこれを返却したいのだが」
「えぇ、はい。…いいですよ」
図書委員は何だかめんどくさそうにしていたが、本を受け取りバーコードにかざす。
あ、それ私も読んだことある本だ。
それを見届けた鬼道くんはほっとしたように息を吐いた。
図書委員もため息をつきながら、やっと仕事が終わったとでも言うように足早に去って行った。
私はそれが何だかおかしくて、半ば笑いながら鬼道くんに話しかけた。
「時間、あったら少し話しませんか?」
「あ、はい。 ぜひ」
鬼道くんは少し瞳を輝かせて返事をしてくれた。
何で私がこう声をかけたのかよく分からないけど、多分予感がしていたからだと思う。
私たちは途中まで一緒に帰ることにした。
さすがに校舎に残っている生徒はもう居ないようだ。
「あ、さっきはすみませんでした、」
鬼道くんが頭を下げる。
いきなりのことだったので、驚いて少し反応が遅れてしまった。
「え、いや、私の方こそごめんね。周り見てなくて」
「いえ、俺の不注意ですから」
「そ、そんなことないよ?」
鬼道くんは、紳士だ。
何ていうか、すごく優しい。
春奈ちゃんのお兄さんってどんな人かと思っていたけど、こんなにしっかりしてるなんて。
中2なのに、私よりもしっかりしている気がする。
クラスの男子よりよっぽど大人だ。
…最初はゴーグルだったから、どんな人かと思ったけど。
「…あの、その本、」
「え?」
右手に持っていた本に目を向けられた。
何だか妙な素振りを見せているけれど、どうしたのだろう。
「これ、がどうかした?」
「…それ、すごく気になってて」
最近映画化されたと話題の本だ。
本来なら放課後まで残っているはずはないのだが、返された直後だったらしく、運良く私の手元に収まっている。
本屋大賞にも確か、なっていたと思う。
「面白い、ですか?」
「うん、冒頭読んで気に入っちゃって」
「、そうなんですね。その人の本、他に読んだことありますか?」
「うぅん、これが初めて」
「一つ前のタイトルも、すごく面白かったですよ」
「あっ、もしかしてこれ?」
私は著者の棚を見つけ、比較的新しそうな本を指さした。
鬼道くんが私の手元をのぞき込んで、
「はい。これです」
と言った。
自然に近くなっているのに気付いて、軽く固まった。
男の人とこんなに近いの、初めてかもしれない。
「、先輩?」
「え、 あ、ごめんなさい」
言葉をかけられて、やっと我に返る。
う、わぁ…、心臓が止まりそうになった。
「あ、えと、さっき鬼道くんが返してた本って」
「あぁ、それが、どうかしたんですか?」
「それ、私読んだことあって、好きなの」
ふわりふわりと時間が過ぎていく。
ずっと話していたいような、そんな感覚。
そして彼が笑ったりする度に、きゅっと胸が苦しくなる。
私、一体どうしたんだろう。
いつの間にか暗くなるまで話し込んでいて、私たちはそれに気付いて笑い、別れた。
不思議だ、時間を忘れて話すなんてこと、今までなかったのに。
私は妙にうきうきした気分を押さえきれずに、鼻歌を歌いながら家に帰った。
「おかえり」
「あ、お姉ちゃん!」
両親が迎えてくれた。
春奈ちゃんもひょこりと顔を出した。
「今日遅かったね、どうしたの?」
「うん、ちょっとね」
「…何かあったの?」
「え?」
春奈ちゃんが不思議そうに首を傾げていた。
…私、何か変な顔してたんだろうか。
「や、何か楽しいことでもあったのかなって」
「へ?」
「ずっとにこにこしてるから」
「そ、そうかな…」
私は何だか見透かされそうで怖かったのでそそくさと自分の部屋に行った。
春奈ちゃんはたまにじっと私の瞳を見つめるときがある。
吸い込まれそうな気がして、私が目を逸らしてしまうのだけれど。
鬼道くんの目も、そうだった。
まっすぐにこちらを見つめてくる。
宝石のように綺麗で赤い、双眸。
私の中できらきらと光っているような気がした。
何でだろう、彼の瞳が忘れられなくて。
…今日の私は何だかおかしい。
予想以上に、春奈ちゃんと鬼道くんがそっくりだったからだ。
きっと、そうだ。