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席替え。
何ということはない、2ヶ月や3ヶ月に1度発生する、学校特有のイベントごと。

それでも席替えひとつで自分の将来が決められるような気持ちになるらしく、席替え前はそわそわとみんな浮き足立っているのが分かる。
俺はそうだったな、とぼんやり思っていた。

別に、どこでも構わなかった。何も変わりはしないから。

俺は手元の小さなくじと黒板に書かれた席を見比べ、小さく息を吐いた。
良い席なんだか悪い席なんだか、良くわからない。

後ろから二番目。窓側。
風通しは良いだろうが、どうせ、寒いこの時期は暖房でも入れて、閉め切ったままになるはずだ。
外の眺めが良いからといって、授業中によそ見をする時に少しグラウンドが見えて、部活を心待ちにする以外に特に嬉しいことはない。

どこで授業を受けようが、大して違いはない。
そう、思った瞬間だった。

「よっ」

突然視界に飛び込んできた、鮮やかな桃色。

「きり、の?」
「やっと席近くなったな! よろしく」

ふわりと笑って、俺の隣に座る。
絶対に気のせいなのに、きらきらと霧野の周りに光が集まっているような、そんな気がした。

「よ、ろしく…」

うまく声が出ないのを誤魔化すように、無理やり喉から絞りだす。
心臓の鼓動が高鳴って仕方がない。ばれていないだろうか。

「しかし、ここ良い席だな! 分かんなくなったら教えてくれよな」

純粋に、嬉しかった。隣がまさか霧野だなんて。
きらきらとした光が集まって、世界に少しずつ、色がついて行く。

「分かってる、まあどうせ大丈夫だと思うけどな」
「ちょ、見捨てんなよ? 英語の田中、あれ絶対俺のこと目の敵にしてるからさー」

頼むよ、なんて必死に俺に頼み込む霧野の姿に笑みがこぼれる。
英語、苦手だもんな。

「分かってるって」

笑いながらそう答えてやる。
予習だって付き合ってやってるのに、更に何を俺に期待してるのか分からないけれど。

しばらく談笑していた俺たちだが、霧野は、はたと何かに気付いたらしく、机に向かって何か書き始めた。
俺が訝しげに手元を覗き込もうとしても、体で隠して絶対にこちらに見せようとしない。
…何だ?

書き上げて満足げにしている霧野は、それを小さく畳んでこちらにぽいと投げて寄越す。
慌ててキャッチして、小さな紙切れをカサカサと開く。

”今日一緒に帰ろうぜ! これからはこの方法でやり取りしよーな!”

それを読んだ俺は、余白に小さく書き込んで、霧野に投げ返す。
案外、悪くない席かもしれない。
紙切れを難なくキャッチする霧野を横目に、俺はそう思った。
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