無印
さあ、と風が吹いて、あたりが少し陰った。
豪炎寺くんが空を見上げるのにつられて、僕も見上げる。
「降ってきたな」
ただ、練習を止めるほどの雨じゃなかった。
小雨、もちろんもうすぐ雨脚が強まる予感はあれど。
「どうする?」
返事がない。未だに空を眺めたまま、ただ立ち尽くしている。
豪炎寺くんの黒い瞳に、曇り空が映っているのが見えた。
「豪炎寺くん?」
「…あぁ…」
豪炎寺くんは僕の問いかけにもうわの空だ。明らかに何か考え込んでいるようだった。
僕は次第に雨粒が大きくなっているのを感じながら、ふるりと肩を震わせた。
風が少し吹いているから、体温が奪われているみたいだ。
「もう少し練習しよ、っか!?」
突然ぐいっと腕を引っ張られ、バランスを崩す。
ひっくり返った声が恥ずかしい、そんなことを考える余裕なんて無いはずなのに。
「雨宿りするぞ」
「えっあっ、…うん」
でも力強い豪炎寺くんの手で、僕は足をもつれさせながらも何とか転けずに引っ張られるまま歩くことができた。
橋の下に何とか潜り込んで、ほっとひと息ついた途端、さらに雨脚が強まる音が響く。
しばらく止みそうにない空を見上げて、少しため息をついた。
横目で豪炎寺くんを見ると、黙って濡れたユニフォームの裾を絞っている。
「……急に、その、どうかしたの?」
勝手に、僕は豪炎寺くんは雨の中でも練習を止めないような気がしていた。
円堂くんの次に、サッカーに泥臭く向き合うのは豪炎寺くんだと思っているから。
「あのまま練習していたら、吹雪が風邪を引くだろう」
何でもないことのように、さらりとそう言う豪炎寺くんに、僕は動揺が隠せない。
寒そうだったしな、との言葉に、僕が震えていたことも見ていたらしいことが分かって、余計に。
豪炎寺くんはそこで口を噤んで僕を見つめると、ふ、と笑みを零して、僕の頭を撫でた。
どうしようもなく胸が高鳴ってしまう。
「た、タオル取ってくるね…」
この動悸を悟られたくなくて、元々橋の下に置いてあったタオルを取りに走る。
見ていて、くれた。
あんなに上の空のように見えたのに。
「はい、タオル」
「ありがとう」
豪炎寺くんの分を合わせて、タオルを二つ抱えて戻って、手渡した。
その瞬間、手が触れた。
温かい、手が。触れて。
そのまま、僕の手を包み込んだ。
掴んでいたタオルが地面に落ちるのが、スローモーションみたいに見えた。
「冷たい」
そうつぶやいて、僕の手をあたためるようにぎゅっと握りしめる。
お願い、豪炎寺くん。
僕は静かに祈った。
期待しちゃうから。そんなに、優しくしないで。
豪炎寺くんが空を見上げるのにつられて、僕も見上げる。
「降ってきたな」
ただ、練習を止めるほどの雨じゃなかった。
小雨、もちろんもうすぐ雨脚が強まる予感はあれど。
「どうする?」
返事がない。未だに空を眺めたまま、ただ立ち尽くしている。
豪炎寺くんの黒い瞳に、曇り空が映っているのが見えた。
「豪炎寺くん?」
「…あぁ…」
豪炎寺くんは僕の問いかけにもうわの空だ。明らかに何か考え込んでいるようだった。
僕は次第に雨粒が大きくなっているのを感じながら、ふるりと肩を震わせた。
風が少し吹いているから、体温が奪われているみたいだ。
「もう少し練習しよ、っか!?」
突然ぐいっと腕を引っ張られ、バランスを崩す。
ひっくり返った声が恥ずかしい、そんなことを考える余裕なんて無いはずなのに。
「雨宿りするぞ」
「えっあっ、…うん」
でも力強い豪炎寺くんの手で、僕は足をもつれさせながらも何とか転けずに引っ張られるまま歩くことができた。
橋の下に何とか潜り込んで、ほっとひと息ついた途端、さらに雨脚が強まる音が響く。
しばらく止みそうにない空を見上げて、少しため息をついた。
横目で豪炎寺くんを見ると、黙って濡れたユニフォームの裾を絞っている。
「……急に、その、どうかしたの?」
勝手に、僕は豪炎寺くんは雨の中でも練習を止めないような気がしていた。
円堂くんの次に、サッカーに泥臭く向き合うのは豪炎寺くんだと思っているから。
「あのまま練習していたら、吹雪が風邪を引くだろう」
何でもないことのように、さらりとそう言う豪炎寺くんに、僕は動揺が隠せない。
寒そうだったしな、との言葉に、僕が震えていたことも見ていたらしいことが分かって、余計に。
豪炎寺くんはそこで口を噤んで僕を見つめると、ふ、と笑みを零して、僕の頭を撫でた。
どうしようもなく胸が高鳴ってしまう。
「た、タオル取ってくるね…」
この動悸を悟られたくなくて、元々橋の下に置いてあったタオルを取りに走る。
見ていて、くれた。
あんなに上の空のように見えたのに。
「はい、タオル」
「ありがとう」
豪炎寺くんの分を合わせて、タオルを二つ抱えて戻って、手渡した。
その瞬間、手が触れた。
温かい、手が。触れて。
そのまま、僕の手を包み込んだ。
掴んでいたタオルが地面に落ちるのが、スローモーションみたいに見えた。
「冷たい」
そうつぶやいて、僕の手をあたためるようにぎゅっと握りしめる。
お願い、豪炎寺くん。
僕は静かに祈った。
期待しちゃうから。そんなに、優しくしないで。
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