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無印

あのさあ辺見、と何でもないような口振りで話しかけてきたのは、成神だった。
相変わらず先輩を敬うことを知らないらしい。
俺は優しい先輩なので、聞かなかったことにしてやろうと、水道の勢いをさらに強めて顔を洗う。
 
「何か最近変じゃない?」

成神は、俺が聞いていないのなんかどうでもいいとばかりに言葉を続ける。
ああそうかよ、俺なんて鬼道さんの足元にも及ばないから尊敬する必要ないってか。
まあ、これくらいでキレると大人気ないってことくらいは俺にもわかるので、また聞こえなかったことにしてやった。
 
「や、あんま上手く言葉に出来ないんだけどさ……。でも絶対おかしいんだって。……あっ、あれあれ、ほら辺見も見てよ」
 
だから何がおかしいんだよ早く言えアホ、と言うために顔を上げた瞬間。
見慣れた銀髪が視界の隅を掠めた。
右腕には見慣れない赤い__
 
「だーかーら!」
 
突然の大声に面食らう。
にやついた成神が、ほら辺見も変だと思うでしょ? とか何とか言っているが、俺はそれどころではなかった。
 

佐久間が、源田の腕の中にいる。
 

はあ?
いや確かに、最近キャプテンマークを正式に受け継いだか何だか知らねえが、無駄に張り切って10分前に派手にすっ転んで、やむを得ず休憩時間になったことは知ってる。それは知ってるが。
 
「歩けるって言ってるだろ!」
「いっ、暴れるな佐久間」
「下ろせバカ!」
 
俺はぽかんとアホ面晒したまま、その様子を見つめていた。
成神は、最近源田がそわそわチラチラ佐久間のこと見てるなって思ってたんだよなあ、と納得のいった表情をしていた。
いや何普通に納得してんだ。てか、何に納得したんだ。

この状況に混乱し、俺は誰か呼んでこなくてはと踵を返そうとした。
途端肩をがっしり掴まれ、何事かと振り向くと、いつものにやけ顔を抑えた成神が首を振っていた。
 
「馬にでも蹴られるつもり?」
 
成神が顎で示す先には、ああ神様、俺はどうしたら。
そこには、源田が佐久間に何事か囁き、顔を真っ赤にしてみるみる大人しくなる佐久間と、満足そうにそのままどこかへ向かう源田がいて。
うんうん、とこちらもまた満足そうに頷いたのち、混乱したままの俺を置いて去っていく成神。


俺は何とか言葉を飲み込んで、水分補給しないとな、とマネージャーの元に向かった。心の中で大絶叫しながら。


恋愛禁止をキャプテンがしっかり破ってどうすんだよ!
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