GO

自分の視界が大きく陰る。俺はただそれを見ていることしかできない。
背筋がぞくりとした。

何だ、これ、すごく……


「怖い、ですか?」

否定したい。
否定したいのに、唇が震えて、喉が掠れて、うまく言葉が紡げない。
怖いはずなんて、ありえないのに。いつも通りの狩屋で、何ら問題はないはずなのに。

どうして、怖いなんて思ってしまうのだろう。

狩屋は俺を壁際まで追い詰め、逃げられないように腕を壁に押し付けていた。
逆光になっていて良く表情がわからないが、俺は確実に、狩屋に対して恐怖を覚えていた。

「違わないでしょ。 センパイ、俺が怖いんでしょ?」

相変わらず俺の口からは声にならない吐息が漏れる。否定してやりたいのに。

そんな様子の俺を見て、ギリ、と狩屋は歯ぎしりをしてぐっと顔を近づけた。
狩屋の表情がようやくはっきりする。
だというのに、俺は目を見開いたまま目の前の情報を受け止めきれずにいた。
視界に狩屋がいっぱいに映っているのに、はっきりと認識できない。

ガン、と手をもう一度壁に叩きつけられる。
痛みに思わず呻き声が漏れる。

「……っつぅ、」

その瞬間、初めて狩屋の表情が情報として頭に入ってきた。
怒り、憎悪、色々な負の感情が見える中で、何か違うものが混ざって見えた。

「狩屋……?」

俺の問いかけに、狩屋の瞳が揺れる。狩屋も喉を震わせて、何とか言葉を口にした。

「……、センパイ」

小さくつぶやいたその言葉ではっきりする。
深い悲しみが、瞳に、言葉に宿っているのが分かる。

「かりや」

手の力がゆるんだのをいいことに、俺はそのまま手を伸ばして首の後ろに手を回し、抱きしめるように腕を折る。

「セン、パ……」
「怖く、ないから。 何も、どこも、怖くないから」

堰を切ったように狩屋は泣き出した。小さな子供のように、体を震わせ、しがみついて泣いている。

パニックになっていたのは、俺じゃなくて狩屋だ。そうだろ?

だから俺は、あやすように耳に小さくキスをした。
大丈夫、好きだから。と、そう言っておまじないをしてやるんだ。
5/5ページ
スキ